混沌の女神の騎士 

翔田美琴

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第4章 遺された希望、遺した絶望

4-4 女神の騎士、復活

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 儀式の部屋に眩いばかりの光が満ちる。
 ルージュパピヨンの紅い光とルーアの紅い光が混沌の女神の騎士の体に宿ると、驚くべき変化が起きる。
 砕け散った秘石『幻の紫水晶』が復元して、また光を放ち始める。
 そして五匹のルージュパピヨンが主の帰還に喜ぶように旋回を始めた。
 ルーシャス・ルーシェルは己の役割を果たしたのか、そっと混沌の海へ戻る。
 向こうの混沌の海にて本来の彼がやっと、今更な決意をした。
 これで、とりあえずは補完できる事はした。
 後は本体の現し世の彼次第。
 また揺らいで道に迷えば、都度、混沌の海に意識を越させて見つめる時間を持たせればいい。
 彼は微笑みながらルーアを見ると

『ありがとう』

 それだけ言って、混沌の海へ帰還した。
 
 光が落ち着くと、横たわる騎士が、腕の力を確かめるように起き上がり、感触を確かめるように両手を握り、また開く。
 そして大きく頷くと次は異様な儀式の部屋を見渡して、驚く。
 そして言葉を発した。

「──皆、ありがとう。生き返る事が出来たんだな──。すまなかった、心配をさせて」
「やった……輪魂の呪は成功だ……!」
「よく──お戻りになられました。レムさん」

 ホープは謝辞の言葉を

「手間をかけさせやがって」

 エリックはちょっとした皮肉を言葉にする。
 ルーアはどう喜んでいいのか、判らない。判らないが、涙を流している。
 レムは近寄るとルーアの前に立って、黙って己の胸に抱いた。
 一言、謝罪する。

「心配をかけてすまなかった……許してくれ。本当に……すまなかった」

 ルーアはただ泣きじゃくる。
 体温を感じる事が出来る。生きている熱を感じる事が出来る──。
 暫く、抱き合うと、レムが状況の確認に入った。

「何か状況に変化はあったか? グレイブは?」
「グレイブは襲って来なかった。不思議と言えば不思議だな。グレイブからすればチャンスだったのに、それをやらないのは何故なのかな?」
「こちらはレムさんの復活に集中していましたからね。何故、ルーア姫を攫いに来なかったのでしょうか?」

 もしかしたら奴は口ではルーアを攫うだの、殺すだの、言っているだけで、本当の所はエリスの永遠の為にルーアの命を狙っているだけかもしれない。
 グレイブの行動は全部が全部、エリスの為とは思えない。奴にも我欲がある。そのいい証明がシャーリーを手駒にしたこと。
 グレイブにとっては彼女はどうでもいい捨て駒だったと捉えるなら納得ができる。グレイブはエリスだけを大事にしていて、その為には後は別にどうでもいいなら説明がつく。
 もしかしたら──自分自身が居ない間に、地球にて邪魔をしている。
 彼らはグレイブの干渉を受けているかもしれない──。
 だとしたら──。

 レムの勘は当たっていた。
 彼が混沌の海に漂っている合間、グレイブは地球にて矛盾現象パラドクスの加速に奔走していたからだ。
 地球側の人間達はその矛盾現象パラドクスの解決に奔走している。
 
 その矛盾現象パラドクスの最初の大地にて、ジェニファーに襲ってきていたのは、【女神の瞳】にて視えてしまった実の父の殺された映像シーンだった──。
 
 期せずして遺した絶望に抵抗する彼らの物語は、ジェニファーの悲痛な叫び声から始まってしまう──。
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