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28話 女帝暗殺の前夜
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パトリス帝国との非公式の会談を終えた和平派の諜報部員がアトランティカ帝国へ帰投して二日の夜も更けた時だった。
真夜中の午前三時。アトランティス宮殿も軒並み照明が消され、松明の炎のみが照らす夜の地下室にて、女帝キリー暗殺の手筈は整えられる。
その席にはエミールもいる。夜伽として女帝の愛欲を満たした後にそっと抜け出しここにいるのだ。そこには錬金術師ファーランドやその他の武官達もいた。いずれも和平派の人物達でクーデターを画策している者達でもある。
「パトリス帝国の人達は俺がそれに関わる事になってもいいという許可が降りたのですか?」
「パトリス帝国の重鎮達は少なくとも君がそれに関わる事に同意していた。しかし、事が終わり次第君をパトリス帝国に戻す、という条件もある」
「パトリス帝国の水面下でも動きはあるだろう。私達も今、この好機を逃す訳にはいかない」
錬金術師ファーランドがエミールの質問に答えつつ皆のリーダーを務めていた。他の武官達はキリーを女神のように奉る狂信者みたいな者達。ここにいる和平派の武官達はキリーに仕えるのではなく、国に仕える者達なのでキリーを女神のように崇める事はない。
彼らは女帝暗殺の手筈を整えていく。
女帝に盛る為の猛毒の薬。一度でも口にすれば毒素が胃に入り血液を通して全身に回る。ジキタリスと呼ばれる毒草を素にしているらしい。
その他にもベラドンナと呼ばれる毒草の根と葉をすり潰しジキタリスと混ぜる。後は口当たり良くする為にそれに酒を混ぜる。
毒薬ならぬ毒酒も用意して後はこれをキリーに飲ませるだけになった。
その毒を盛る役はエミールである。
皆は間違っても飲まないようにと念を押すが、もし女帝が一緒に飲もうと誘ったらどうするか? という問題も当然出る。
「毒薬ならば病気の時のキリーに飲ませればいい事だが、毒酒は確かにそういう事が起きる可能性がある。エミールは女帝のお気に入りだし、一緒に飲もうと言われるのも時間の問題だな」
「解毒剤は用意してくれ。万が一、エミールに何か起きても解毒剤があればパトリス帝国の逆鱗に触れる事はない筈だ」
エミールが横に控えて立つ傍のテーブルにはその毒酒の瓶も置かれていた。ラベルシールが貼られた年代物のワインに見せかけて毒酒を飲ます作戦らしい。ちなみに中身もほぼ赤ワインと同じだが、例の毒草を抽出して入れてあるのでまさに毒酒である。
「これをキリーに飲ませるのですか?」
「キリーは無類の酒好きだ。「美女になれる」という触れ込みさえ言えば奴は飲むだろう。すぐに効果が出るように濃い目に毒草を入れてある。解毒剤は用意させるが、飲まない方が賢明だ」
他の武官が聞いてきた。
「決行する日は?」
「明日の夜。丁度満月が浮かぶ。その夜に決行だ。時間はエミールが夜伽を始める夜の二十三時。毒酒を飲んでキリーが倒れると共に作戦を開始する」
「エミール。明日の夜は君が作戦の成否を握る。くれぐれも気取られないように。明日の夜も何時もと同じ態度でいるんだ。それでいい」
「は、はい」
そうして闇夜の作戦会議は終わり、運命の日が昇る。
最近の女帝はオリハルコン軍団が作れない事を錬金術師達の怠慢だとして、公共の宮殿内でも平気に罵倒する。
これには錬金術師達も我慢の限界であった。
奴隷達は休む暇も与えられず朝から晩までこき使われ体力の限界もとうに超えて、もはや我慢ならない。
アトランティス宮殿内は怒りと憎しみと義憤と反発が渦巻く場所となり、今にも瓦解が始まろうとしている。
それをパトリス帝国の人間であるエミールは複雑な気分で見つめる。
今にも瓦解が始まろうとするアトランティカ帝国に戦争を仕掛けるのも馬鹿げた行為にしか見えない。しかし、幸いにも重鎮達は戦争はしなくとも和平派のアトランティカ帝国とのパイプを得る事ができた。
後は自分が余計な感傷を持たないで女帝に毒酒を盛ればいい。
それで自分の役割は終わり、パトリス帝国にも帰る事ができる。
その後。このアトランティカ帝国はどうなるのだろう? 内戦に突入するのだろうか? 国の覇権を巡り血で血を洗う戦いに突入するのだろうか?
そんな想いもエミールの心の片隅には確かにあった。
今宵もそしてアトランティカ帝国は豪勢なパーティが開かれる。
管弦楽団が編成されて美しい旋律と共に礼服を纏う男女が踊り、ひとときの夢を味わう。
その裏では、女帝を亡き者にせんとする者達が動き出していた。今までの女帝に与えられた屈辱的な仕打ちをこの満月の夜にまとめて返してやる。
キリーを崇める兵士達を今度は反乱分子達が暗殺して、邪魔をする虫共を処理をする。何日も何十日と目にした彼らだから殺すのも容易い。
そんな狂信者達の断末魔の叫びもパーティの喧騒に掻き消され、そしてとうとうその時がエミールに訪れたのであった。
真夜中の午前三時。アトランティス宮殿も軒並み照明が消され、松明の炎のみが照らす夜の地下室にて、女帝キリー暗殺の手筈は整えられる。
その席にはエミールもいる。夜伽として女帝の愛欲を満たした後にそっと抜け出しここにいるのだ。そこには錬金術師ファーランドやその他の武官達もいた。いずれも和平派の人物達でクーデターを画策している者達でもある。
「パトリス帝国の人達は俺がそれに関わる事になってもいいという許可が降りたのですか?」
「パトリス帝国の重鎮達は少なくとも君がそれに関わる事に同意していた。しかし、事が終わり次第君をパトリス帝国に戻す、という条件もある」
「パトリス帝国の水面下でも動きはあるだろう。私達も今、この好機を逃す訳にはいかない」
錬金術師ファーランドがエミールの質問に答えつつ皆のリーダーを務めていた。他の武官達はキリーを女神のように奉る狂信者みたいな者達。ここにいる和平派の武官達はキリーに仕えるのではなく、国に仕える者達なのでキリーを女神のように崇める事はない。
彼らは女帝暗殺の手筈を整えていく。
女帝に盛る為の猛毒の薬。一度でも口にすれば毒素が胃に入り血液を通して全身に回る。ジキタリスと呼ばれる毒草を素にしているらしい。
その他にもベラドンナと呼ばれる毒草の根と葉をすり潰しジキタリスと混ぜる。後は口当たり良くする為にそれに酒を混ぜる。
毒薬ならぬ毒酒も用意して後はこれをキリーに飲ませるだけになった。
その毒を盛る役はエミールである。
皆は間違っても飲まないようにと念を押すが、もし女帝が一緒に飲もうと誘ったらどうするか? という問題も当然出る。
「毒薬ならば病気の時のキリーに飲ませればいい事だが、毒酒は確かにそういう事が起きる可能性がある。エミールは女帝のお気に入りだし、一緒に飲もうと言われるのも時間の問題だな」
「解毒剤は用意してくれ。万が一、エミールに何か起きても解毒剤があればパトリス帝国の逆鱗に触れる事はない筈だ」
エミールが横に控えて立つ傍のテーブルにはその毒酒の瓶も置かれていた。ラベルシールが貼られた年代物のワインに見せかけて毒酒を飲ます作戦らしい。ちなみに中身もほぼ赤ワインと同じだが、例の毒草を抽出して入れてあるのでまさに毒酒である。
「これをキリーに飲ませるのですか?」
「キリーは無類の酒好きだ。「美女になれる」という触れ込みさえ言えば奴は飲むだろう。すぐに効果が出るように濃い目に毒草を入れてある。解毒剤は用意させるが、飲まない方が賢明だ」
他の武官が聞いてきた。
「決行する日は?」
「明日の夜。丁度満月が浮かぶ。その夜に決行だ。時間はエミールが夜伽を始める夜の二十三時。毒酒を飲んでキリーが倒れると共に作戦を開始する」
「エミール。明日の夜は君が作戦の成否を握る。くれぐれも気取られないように。明日の夜も何時もと同じ態度でいるんだ。それでいい」
「は、はい」
そうして闇夜の作戦会議は終わり、運命の日が昇る。
最近の女帝はオリハルコン軍団が作れない事を錬金術師達の怠慢だとして、公共の宮殿内でも平気に罵倒する。
これには錬金術師達も我慢の限界であった。
奴隷達は休む暇も与えられず朝から晩までこき使われ体力の限界もとうに超えて、もはや我慢ならない。
アトランティス宮殿内は怒りと憎しみと義憤と反発が渦巻く場所となり、今にも瓦解が始まろうとしている。
それをパトリス帝国の人間であるエミールは複雑な気分で見つめる。
今にも瓦解が始まろうとするアトランティカ帝国に戦争を仕掛けるのも馬鹿げた行為にしか見えない。しかし、幸いにも重鎮達は戦争はしなくとも和平派のアトランティカ帝国とのパイプを得る事ができた。
後は自分が余計な感傷を持たないで女帝に毒酒を盛ればいい。
それで自分の役割は終わり、パトリス帝国にも帰る事ができる。
その後。このアトランティカ帝国はどうなるのだろう? 内戦に突入するのだろうか? 国の覇権を巡り血で血を洗う戦いに突入するのだろうか?
そんな想いもエミールの心の片隅には確かにあった。
今宵もそしてアトランティカ帝国は豪勢なパーティが開かれる。
管弦楽団が編成されて美しい旋律と共に礼服を纏う男女が踊り、ひとときの夢を味わう。
その裏では、女帝を亡き者にせんとする者達が動き出していた。今までの女帝に与えられた屈辱的な仕打ちをこの満月の夜にまとめて返してやる。
キリーを崇める兵士達を今度は反乱分子達が暗殺して、邪魔をする虫共を処理をする。何日も何十日と目にした彼らだから殺すのも容易い。
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