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ひきこ

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正反対のオンとオフ(後編)

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「……ごちそうさま。じゃ、帰る」
「うん、送ってく。……って、あれ」
「なんだ?」
 不思議そうな目でおれの顔を見る。なんだってんだ。
「眼鏡、いいのか」
「ああ」
 そうだ、確か昨日もいつものように眼鏡を掛けて出勤したし、そのあとここに来るまでにもずっと掛けていた。
「お前が……外したんだろう」
 それで……キス、してしきたんだろうが。
「っ、それはそうだけど……その、見えてんの?」
 ああ、そうか。
「これ、目え疲れるから、パソコンとかスマホ用。つけ外しが面倒だから掛けっぱなしなだけで」
「へぇ……あそこに置いたな、取ってくる」
「別にいいけど、まだ家にあるし」
「え、そんな軽くていいの」
「っつーか、お前んちに置いとく用にしてもいいし」
「ああ……えっ、ちょっ」
 なんて、さすがに前のめりすぎただろうか。
「あ、お前さえよければだけど」
「……っ、いい、いい! あっ、いやまって、その素顔可愛いすぎるから、やっぱ掛けて帰って?」
「……ふ、は、なんだそれ」
 いいのか悪いのかどっちだよ。
「ああっ、その笑顔反則、だめ、まって、帰らないで。今夜も泊まって」
「……いいけど」
 なんて、今朝の自分の状態を完全に忘れていたおれは、もうひと晩も抱かれ続けて翌朝起き上がれるはずもなく。結局こいつの部屋で機材を借りて、そのまま眼鏡を掛けてリモートワークをする羽目になるなんて。あいつが妙に嬉しそうにしていた理由はよくわからない。
 それでもおれも満更ではなくて。週末のたびに性懲りも無くそんなことを繰り返すうち「置いとく用」なんて概念自体がいつのまにか意味をなさなくなるのは、そう遠くない未来のことだ。
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