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本編

5.専属執事

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 自分もやっと執事Subを買うことができる。
 彼に、会える――――
 
 絶対に彼を手に入れるのだと決意を胸に秘めて、施設に向かった。

 しかし幼なじみだった彼が失踪したのはもう何年も前のこと。
 目当ての彼はそこにいなかったのは、考えてみれば当然のことだった。



 「僕はやっぱり……Subはいらない」

 そう両親に訴えてはみたものの、ここでSubを買わずに帰ることは許されなかった。
 悩んだ結果……どことなく彼の面影が見える少年を買い取った。

 未練がましいのは承知の上で、それでも少しでも何かに縋り付きたくて、その少年にルーカスと名付けて丁重に我が家に迎え入れた。




 長年縋ってきた希望が打ち砕かれて、心に穴があいたようだった。
 同時に、いざ実際に施設で商品のように扱われる「執事」を目の当たりにして、「執事」制度そのものに疑問を持った。

 我々Domのために、Subの「執事」が養成されている。
 それがこの世界では当たり前の常識だ。

 だけど、それは本当に正しいことなのか?
 正しかったとして、誰にとっての正しさなのか……?

 どうして今まで、誰も疑問に思わなかったのか?
 いや違う、本当はきっとわかっている、だからこそ両親は、妹を…………


 心を紛らわせるかのように、密かにこの施設について調べることにした。

 とはいえまだまだ少年の彼にできることなどたかが知れている。
 ましてや、施設の内部情報など国家機密レベルだが、それでも自分にできることをしたかった。



***

 買い取った――執事Subルーカスは非常に優秀だった。
 命じた仕事は忠実に、間違いなく遂行した。

 ぶつけどころのない気持ちは捨て切れなくて、Domとしての本能がごちゃまぜになって思わず彼を組み敷けば、執事のいち業務として……身体すらも簡単に受け入れた。
 
 
 しかし主人に対して柔順過ぎる執事を育成するにあたり、非人道的な何かが行われているのは一目瞭然だった。
 
 ルーカスを抱けば、身体は気持ちよさそうに乱れるが、心が凪いているのは見ればわかる。
 例えば……幼い下心で名付けた彼の名前を「ルカ」と呼んだとしても……何の感情も動かない。
 生理的な欲求は一時的に満たされたとしても、虚しい気持ちが後からやってくる。
 
 
 自分はこんな無抵抗な人間・・に一体何をしているのか。
 こんなことをして、何になるのだろう。


 Subの「執事」とはこういう存在だ、とわかっているつもりでいたが、やり切れない気持ちは消えなかった。

 

 できるなら彼にも自由に生きてほしいが、感情も見せない人形のようなSubが、後ろ盾もなしに生きていけるとは思えない。
 もしかするとルカも、同じような凪いた表情で、どこかで誰かに抱かれているのだろうか……


 考えれば考えるほど虚しくなるばかりで、何もかも忘れるほどに勉強に打ち込んだ。

 執事のルーカスを抱くのはやめた。
 そんなことをしなくても、心からの労いの言葉をかければそれだけで身体を重ねるよりも――足りない何かを除いては満たされた。

 家のことをすべて任せている彼の、執事としての家事能力は完璧だ。
 もしも彼の本心が望むなら、うちを出て自由に働くことだってできるのに。

 どうしたら彼を解放できる?
 どうしたら、ルカにも…………



 もうあれから何年も、そんな潜在意識がずっとあったのだと思う。
 流れのまま医療分野に進み、最終的に脳科学を専攻した。
 昼夜も忘れ、研究の目的すらも忘れるほどに没頭するうち、気が付けば脳科学分野の研究者として一目置かれる存在となっていた、らしい。

 

 そんな僕に目をつけたのは――国家最高峰の研究機関。


 
 僕が高待遇の研究員として招かれたのは、かつて一度だけ来たことがある、あの施設だった。


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