恋愛ショートショート

氷の心、溶かしてみせる

夏の終わり、街はどこか寂しげな風を纏っていた。夕暮れ時、オレンジ色に染まる空の下、私は駅前の公園のベンチに腰を下ろしていた。肌を撫でる風は心地よいが、心の中にはもやもやした感情が渦巻いている。あの子のことを考えると、胸がドキドキするのだ。

「なんで、どうしてあんなに冷たくされるんだろう」私はふと呟いた。隣に座るのは、私の幼馴染のあかりだ。彼女は私の心情を察してか、少し目を逸らした。あかりはずっと、私の心の支えだった。彼女の存在は、まるで私の心の隙間を埋めてくれる温かいストーブのようだ。

「また、あの子のことで悩んでるの？」あかりが尋ねる。彼女の声は柔らかく、まるで柔らかい羽毛布団に包まれているような安心感を与えてくれる。

「うん、でもどうしても彼女のことが気になっちゃって…」私は言葉を詰まらせた。彼女の名前は、ゆうな。明るい茶色の髪を揺らし、いつも元気に笑っている。だが、私に対してはいつも冷たい態度を取る。まるで、心の奥に鍵をかけているかのようだ。そんな彼女のツンとした態度が、逆に私を惹きつけてしまう。

「でも、なんでそんなに彼女が好きなの？」あかりは少し疑問を投げかけてくる。私も自分に問うが、答えは出てこない。ゆうなのことを考えると、心が温かくなる一方で、同時に切なさが込み上げてくる。彼女の笑顔は、まるで夏の太陽のように眩しく、私の心を焦がすのだ。

「きっと、私が彼女のことを好きだって気づいてないからだよ」私は自嘲気味に笑った。「でも、どうやって近づけばいいかもわからないし…」

あかりは私の肩を軽く叩いた。「そんなことで諦めちゃダメだよ。もっと自分の気持ちを伝えてみなよ。彼女もきっと、あなたのことを気にしてるはずだから。」

その言葉に、私の中で何かが弾けた。そうだ、私は彼女に自分の気持ちを伝えなければならない。どんなに冷たくされても、彼女の心の奥に私の思いが届くことを信じて。

次の日、学校が終わり、私はゆうなを呼び止めた。彼女は友達と話していて、私の声に気づくと少し驚いたように振り返った。「何か用？」

その冷たい口調に、私は一瞬怯んだ。しかし、あかりの言葉を思い出し、心を強く持った。「ゆうな、話があるんだ。」

彼女の目が一瞬、驚きに見開かれたが、すぐに冷たい表情に戻った。「別に、話すことなんてないよ。」

その言葉が胸に刺さる。だけど、私は負けたくなかった。「私、ゆうなのことが好きだ。だから、もっと仲良くなりたいと思ってるの。」

その瞬間、ゆうなの表情が変わった。驚きと戸惑いが混ざったような顔。彼女は口を開くが、言葉が出ない。

「なんで、そんなこと言うの？」彼女は小さな声で呟いた。その声は、私の心に響いた。私はゆうなの心の奥に入るための鍵を見つけたような気がした。

「だって、ずっと冷たくされるのが辛かったから。ゆうなが、私に笑ってくれたら嬉しいから。」私は自分の気持ちを素直に伝えた。

その後、しばらく沈黙が流れた。周りの音が遠くなり、ただ二人の間だけが静まり返る。ゆうなの表情が少しずつ和らいでいくのが見えた。

「私は…そんなに冷たくしてたつもりはないの。」彼女はやっと口を開いた。「ただ、どう接していいかわからなくて…」

「だから、仲良くなりたいって言ったんだ。少しずつでも、ゆうなと分かり合えたら嬉しい。」私は真剣に伝えた。

その瞬間、ゆうなの目が潤んでいく。彼女の心の扉が、少しずつ開き始めているようだった。冷たさの奥にあった温かい部分が、私の言葉によって少しずつ顔を出してくる。

「私も…もっとわかりたいと思ってた。ごめんね、冷たくしてたのは。」彼女が少し照れたように微笑んだ。その笑顔は、まるで夏の終わりの夕日が差し込むように温かい。

「じゃあ、一緒に帰ろうか。」私は彼女に手を差し出した。ゆうなは少し戸惑いながらも、その手を取った。彼女の手は思ったよりも柔らかく、私の心を優しく包み込んだ。

二人で歩く道は、まるで新しい世界が広がっているように感じた。あかりの言葉が、私の心に響いていた。「自分の気持ちを伝えることで、相手の心も開くことができる。」

その日から、私たちの関係は少しずつ変わっていった。ゆうなの冷たい態度の裏にあった心の葛藤を知り、私も彼女のことを理解する努力をした。時間が経つにつれ、私たちはお互いを少しずつ受け入れ合い、心の距離を縮めていった。

今では、ゆうなの笑顔が私の心の中で輝いている。彼女の冷たさは、もはや過去のもの。私たちの関係は、まるで静かな湖面に映る夕日が、だんだんと色を変えていくように、美しく変わっていった。

「これからも、一緒にいてくれる？」私は彼女の目を真っ直ぐ見つめて訊ねた。

「もちろん、ずっと一緒にいたいよ。」ゆうなの言葉に、私は満たされた気持ちになった。これからの未来が、どのように広がっていくのかはわからないが、一緒に歩んでいくことを決意したのだった。