恋愛ショートショート

人ならざる者も愛する力

留美は、薄暗い街の喧騒から少し離れたところにある、小さなカフェの窓際の席に座っていた。雨が窓を叩く音が、まるで誰かが彼女のの心声を代弁しているかのように響く。彼女の心の中では、耕一との再会が待ち遠しい気持ちと、どこか不安な気持ちが交錯していた。

「今日、来てくれるかな…」

留美は、手元のカフェラテを指でぐるぐると回しながら、ふと呟いた。彼女の目の前には、カフェの黒いテーブルに置かれた白いマグカップ。そのマグカップに映る自分の顔は、少し疲れた色をしていた。耕一と一緒にいた頃の、無邪気で明るい日々が恋しい。

留美と耕一は、かつて恋人だった。しかし、彼の秘密を知ってしまったことで、二人の関係は急激に変わってしまった。耕一は、吸血鬼だったのだ。彼の美しい顔立ちと神秘的な魅力は、彼女を引き寄せたが、その裏には恐ろしい運命が潜んでいた。

「ただの都市伝説だって、みんな言ってた…」留美は自分に言い聞かせる。だけど、彼女の心の奥底では、耕一のことがどうしても忘れられなかった。

その時、ドアの音がして、耕一が現れた。濡れた髪が彼の額にかかり、雨のせいで少し肌が青白く見える。彼の目が留美を捉えた瞬間、二人の間に流れる空気が変わった。

「お待たせ。雨にやられちゃったよ。」耕一は少し照れたように笑った。留美はその笑顔を見て、胸が高鳴る。

「大丈夫、私もさっき来たところだから。」留美は微笑みを返すが、心の中では不安が渦巻いていた。

「話したいことがあるんだ。」耕一は直球で言った。留美は緊張しつつも、彼の言葉を待つ。

「俺のこと、忘れてくれって言うつもりはない。」耕一は続けた。「でも、今は一緒にいることができない。俺の背負っているものが、君を危険にさらす。」

留美はショックを受けた。彼の強い言葉の裏には、どれほどの苦悩が隠れているのだろう。彼女は少し考え込む。

「どうしてそんなこと言うの？私、あなたと一緒にいたい。」留美は心の声を叫ぶように言った。

「それが、できない理由があるんだ。」耕一は目を伏せた。彼の目の奥には、留美には計り知れない闇が潜んでいることが感じられる。

「私に教えて。私が知っていることなんて、もう怖くない。あなたのことを知りたいの。」留美は必死に訴えた。彼の心の中にある闇を受け入れたかった。

耕一はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「実は…俺、今も色んなものに追われている。吸血鬼としての血の衝動が、俺を支配してしまうこともある。」

留美は彼の言葉を聞き、心が締め付けられる思いだった。彼が自分を守ろうとしているのは分かるが、それでも彼を失いたくはなかった。

「それなら、私があなたを助ける！」彼女は力強く言った。「私も一緒に戦うから。」

耕一は驚いたように目を見開いた。「留美…それは危険だ。俺の血に触れることさえ、君を危険にさらすかもしれない。」

「でも、あなたは私にとって特別なの。私、あなたを愛してる。」留美は心の全てを込めて言った。その言葉は、彼女の胸の奥から湧き上がるように出てきた。

耕一はその瞬間、留美の目をじっと見つめた。彼の表情には、葛藤と、少しの希望が見えた。「留美、でもそれは…」

「私たちには、まだチャンスがある。私たちの愛が、あなたの闇を消すかもしれない。」彼女の言葉は、決意で満ちていた。

耕一は深く息を吸い、少しだけ微笑んだ。「君がそう言ってくれるなら、俺ももう一度、戦ってみよう。」

留美は嬉しさで胸がいっぱいになり、涙が溢れそうになった。彼女はその手を伸ばし、耕一の手を握った。その瞬間、彼女は彼と共に闇を乗り越えられる未来を想像した。

「私たち、一緒にいよう。」留美は優しく言った。

耕一はその手をしっかりと握り返し、彼女の目を見つめた。「ああ、一緒にいよう。君となら、どんな闇でも乗り越えられる気がする。」

雨はまだ降り続いていたが、二人の心には新たな光が差し込んでいた。彼女たちが手を取り合うことで、闇を照らす明かりが生まれることを、彼らは信じていた。

そして、留美は思った。この恋が、彼女たちの運命を変える力を持っていると。愛が持つ力は、時に恐ろしい運命をも打ち破ることができるのだ。

こうして、留美と耕一の新たな物語が始まった。彼女たちの愛は、超自然的な存在に立ち向かうための武器となるだろう。彼らの未来には、まだ多くの試練が待っている。しかし、二人はそのすべてを共に乗り越える覚悟を決めていた。