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第四章 ボクたちの町
第六十四話(終) 護られし町
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Szene-01 レアルプドルフ、謁見部屋
突然の隣国女王来訪で対応に追われることとなった役場の職員が慌ただしく動く中、謁見部屋ではレアルプドルフの要人たちとカシカルド王国の君主が話に花を咲かせていた。
元々戦友であり、歴戦の中で心友という深い間柄へと変わったダンとローデリカを中心に話は進む。
「エールと実際に会ったら気持ちが高ぶっちまったか。こうなるとわかってはいたが、どんな事でも突撃していく姿勢でいられるってのは、もう尊敬に値するな」
「あなただって私に……この流れも変わらないわねー。でもね、いまだに何も気にせず信用出来る人は、あの頃を一緒に走り抜けたあなたたちだから無性に会いたくもなるわよ。現に今とっても安心を感じているわ。こんなの普段では味わえないから病みつきになる」
「そうさせる相手がさらに増えちまったってことか。いっそこの町へ移ったらどうだ? そうすりゃいつでもこの顔ぶれで会えるぞ」
「それはね、してはいけないの。王を辞めるのは国を見捨てるも同然だし、拠点を簡単に変えていいものでもない。それとこれとは話が別だから悩ましいの。だからエールに会いたくなったら私が来ちゃうかエールに来てもらうかなのよ」
ローデリカに抱き着いていたためにティベルダの甘え心をくすぐってしまったエールタインは、ティベルダを膝に座らせて背中を抱いている。
「それならボクが行くべきでしょう。案件の経験が少な過ぎるから旅の途中でこなせば町に貢献できますし、ブーズの東地区についての謎も探ってみたいと思っているから」
にこにこしているティベルダに釣られて微笑んだローデリカが言う。
「えー、そんなのエールばかりにさせたくないわ。レアルプドルフの空気を吸いたいって気持ちもあるから私も来る! 交互に行き来すればいいじゃない」
「でも、王様が出歩くのって大変なことなんですよね? 今外では大騒ぎになっていますし……そういえば、エールって――」
「んふ。もう初対面ではないし、ダンと同じ呼び方をしてもいいでしょ? 思うように会えないんだからなおさら、ね。だからエールも私のことを陛下だなんて呼ばないで欲しいな」
エールタインは脚を広げてティベルダをすとんと椅子に下ろした。
表情をきょとんとさせているティベルダの頭上からエールタインの顔が現れ、ローデリカを真っすぐに見て言った。
「ボクにとっては隣国の王という印象が強いので、陛下以外の呼び方は難しいです」
「それにしては自分のことをボクって言っているじゃない。気づいていない所で素が出ているところ、可愛い」
「あ……」
「ダンのことはダンって呼んでるんでしょ? ならローデリカって呼んで。お姉さんとかお母さんでもいいけど」
エールタインは顔にティベルダの髪の毛を絡ませて首を振った。
「うー……王になった剣士は強過ぎです」
「別に強いわけじゃないわ。誰もが一度は思うことを実践してみちゃう質なだけ。そして運よくそんな私に付いてきてくれた人がいたから出来ちゃったのよ。私だけで突っ走っていたら何も出来ずに終わってる」
顔に掛かったティベルダの髪の毛をそっと払ってから言うエールタイン。
「ボクも同じです。ティベルダはもちろん、ルイーサたちも一緒にいてくれたから何とかなったので。ボク一人で軍隊を片付けるなんてあり得ないです」
姿勢良く背筋を伸ばしたまま話を聞いていたルイーサが、エールタインの発言に対して口を開いた。
「あなたが動いたから急遽ダン様が応援部隊を送ることになったんでしょ。町を動かすほどの人ってことなんだから、意識を持って動いて欲しいものね」
エールタインとルイーサの話を聞いて、ローデリカが両手をパンと叩く。
「ああ! エールは私と似ているってことね。ルイーサの言う通りレアルプドルフにとって欠かせない子だもん。英雄の後を継いだ娘は英雄も同然だから、町はエールを何としても守ろうとするわ。それって私も同じ……あらら、墓穴を掘ったかしら」
謁見部屋に全員の笑い声が響く中、ダンは笑みを一瞬だけ浮かべてから真顔になる。
「エールが考える時間をくれと頼んだのに、ローデリカ自身が来ちまったらエールが困るだろう。まったく、やっと戦後の面倒な事を終わらせたばかりだというのに。伝令が頻繁に来ているから状況も知っているはずだしなあ」
「……ごめんって。でもエールと会いたかったんだもん。ねえエール、こんな私だけどこれからも会って欲しいし、出来れば家族として受け入れてくれないかな」
エールタインは真剣な顔でローデリカを見つめて言う。
「ロ、ローデリカさん、ボクなんかで良ければ構いません。たぶん両親の存在が大きいからだとは思うんですけど、ボクにしてみればローデリカさんは十分家族に値する方だと思っています。ただ、ボクの気持ちだけでは決められないことなので――」
エールタインがダンとヘルマを交互に見ると、二人も互いに目を合わせた。
「ヘルマ、どう思う」
「また私に振るのですか……正直に申しますと少々複雑な思いがありますが、私はご主人様に従います」
「ふむ。ヨハナにも聞かないと――」
目を泳がせているダンにエールタインが言う。
「あのさ、ボクの父さんなんでしょ? なら家族について決めるのはダンだよ。ヨハナはいつもボクと同じ考えだから問題ないし、ティベルダは見ての通りご機嫌だから受け入れているよ。ヘルマはダンに従うって言っているんだから、あとはダンが答えを出すだけさ」
「ふふふ、ダンってエールに弱いのねえ。出す答えを用意されちゃって、これは剣聖としてどうなのかしら」
ダンは分の悪い状況に耐えられず、後頭部を掻いてから言う。
「家族の話に剣聖は関係ないだろ。ローデリカは家族に俺がいることをわかって言っているのか?」
「そのつもりだけど。エールを育てたお父様でしょ? それにエールの師匠でもあるし、私への気持ちも知っているわ」
ダンはローデリカに人差し指を向けて上下に振って見せる。
「そういうことをさらっと言うな。まったく、先が思いやられるが――ローデリカとアウフの間には信頼関係が成立していたし、その中には俺も入っている。だからローデリカのことはよく知っているつもりだ。家族として迎えることに問題はない人だよ。俺はアウフからエールの見守り役を託されたからダン家を築いているが、これはエールのための家族だ。エールが構わないと言うのなら、俺は家族として迎えることを否定する理由は無いよ」
ダンが言い終わるや否やローデリカは表情を明るくしたが、すぐに呆れ顔を作った。
「まったくと言いたいのはこっちよ。いいか悪いか答えるだけでしょうに」
「しかしだなあ、俺と家族になるとも言えるんだぞ。エールとの話の前に俺が気にすることだらけだ」
「あはっ、照れてるのね。ダンとエールの間柄は親子だけど、マルガレーテさんとは夫婦じゃないでしょ? それと同じで、私と夫婦になるわけじゃないんだから意識し過ぎだって」
「なあああ! 俺の気持ちを知っているなら夫婦になるような気がしちまうことぐらい察っするだろうに!」
「察しているから夫婦になるわけじゃないってはっきり言っているのよ」
ダンは胸に手を当てて少し俯いた。
「俺、耐えられるのか? ダン、大丈夫か?」
「自問してる。ヘルマ、ちゃんと支えてあげてね」
「私への負担まで大きくしないでください。複雑な思いとはこの事だったのです。はあ……ヨハナと話がしたい」
ダンとヘルマが苦しむ中、ダン家への突入を見事にやってのけたローデリカは笑みを抑えられないでいる。
その様子を見る町長とルイーサたちの隙を突いて、エールタインとティベルダは謁見部屋を出て人気のない場所へと移動した。
Szene-02 レアルプドルフ、一番地区鐘楼北東の森
丘の斜面に立つ鐘楼を横切って、森だった頃の一部が残っている木の下に座り、幹に背中を預けた。
「ティベルダ、家族が増えるんだって」
「はい」
「ダン家やうちで住むわけではないから、今までとあんまり変わらないと思うけどね」
「はい」
静かに話していたエールタインはもたれ掛かっている背中を幹沿いに滑らせ、ティベルダの肩を自身の肩で押して上半身を地面に倒した。
驚いたティベルダの目に映る光景は青空からエールタインへと変わり、じっと見つめる主人の目線に釘付けとなる。
「エール様?」
「ごめん、全然ティベルダが足りないみたいでさ、背中を抱いていたらもっとしっかりティベルダといることを実感したくなって――」
エールタインは言い終わる前に体を支えていた腕が地面から離され、一転押し倒し返された。
「エール様はすっかり私の虜になっていて嬉しいです。私ティベルダはエール様から離れることなんて無いですし、むしろ絶対に離しませんから。エール様へ必要以上に近づく者は即排除して、二人だけの世界を守るので安心してください」
ティベルダは目を紫色に変えてエールタインの動きを封じ、話を続ける。
「エール様も覚悟してくださいね。こうして能力を使ってでも私から離れられなくしますから」
倒れ込むようにして主人に抱き着き、地面に押さえつけるティベルダ。
エールタインに聞こえない声で呟いた。
「ずっとヒールを掛け続けた成果が出ました。この人は私のもの。要人にも守ってもらえば怖い物無しです。ふふふ」
ティベルダから拘束されることに慣れているエールタインは黙ってじっとしている。
表情を穏やかな笑みから不敵な笑みへと変えたティベルダは、アムレットがヒルデガルドに居場所を教えるまでエールタインに抱き着いていた。
いや、ブーズ東地区の民として飲んでいたウンゲホイアー川の水により得た能力を持つティベルダとヒルデガルド。
魔獣の川の意を持った名前が付けられたウンゲホイアー川は、光石が混じる鉱石に触れて溶け込んだ水が流れている。
魔獣の血とも言える水で繋がっていた従者二人の間には、誰にもわからない関係が出来上がっているのかもしれない。
ティベルダと同じく、ヒルデガルドもルイーサを虜にしていることが因果関係を匂わせる。
レアルプドルフにおける二つの戦いには従者二人は絡んでいて、呆気ない結末を迎えている。
今後エールタインが始める能力についての調査で突き止められるのか否か。
いずれにしても、二組の少女デュオが幸せを感じつつ毎日を過ごし、レアルプドルフの平和が保たれることを祈るばかりだ。
――――完
突然の隣国女王来訪で対応に追われることとなった役場の職員が慌ただしく動く中、謁見部屋ではレアルプドルフの要人たちとカシカルド王国の君主が話に花を咲かせていた。
元々戦友であり、歴戦の中で心友という深い間柄へと変わったダンとローデリカを中心に話は進む。
「エールと実際に会ったら気持ちが高ぶっちまったか。こうなるとわかってはいたが、どんな事でも突撃していく姿勢でいられるってのは、もう尊敬に値するな」
「あなただって私に……この流れも変わらないわねー。でもね、いまだに何も気にせず信用出来る人は、あの頃を一緒に走り抜けたあなたたちだから無性に会いたくもなるわよ。現に今とっても安心を感じているわ。こんなの普段では味わえないから病みつきになる」
「そうさせる相手がさらに増えちまったってことか。いっそこの町へ移ったらどうだ? そうすりゃいつでもこの顔ぶれで会えるぞ」
「それはね、してはいけないの。王を辞めるのは国を見捨てるも同然だし、拠点を簡単に変えていいものでもない。それとこれとは話が別だから悩ましいの。だからエールに会いたくなったら私が来ちゃうかエールに来てもらうかなのよ」
ローデリカに抱き着いていたためにティベルダの甘え心をくすぐってしまったエールタインは、ティベルダを膝に座らせて背中を抱いている。
「それならボクが行くべきでしょう。案件の経験が少な過ぎるから旅の途中でこなせば町に貢献できますし、ブーズの東地区についての謎も探ってみたいと思っているから」
にこにこしているティベルダに釣られて微笑んだローデリカが言う。
「えー、そんなのエールばかりにさせたくないわ。レアルプドルフの空気を吸いたいって気持ちもあるから私も来る! 交互に行き来すればいいじゃない」
「でも、王様が出歩くのって大変なことなんですよね? 今外では大騒ぎになっていますし……そういえば、エールって――」
「んふ。もう初対面ではないし、ダンと同じ呼び方をしてもいいでしょ? 思うように会えないんだからなおさら、ね。だからエールも私のことを陛下だなんて呼ばないで欲しいな」
エールタインは脚を広げてティベルダをすとんと椅子に下ろした。
表情をきょとんとさせているティベルダの頭上からエールタインの顔が現れ、ローデリカを真っすぐに見て言った。
「ボクにとっては隣国の王という印象が強いので、陛下以外の呼び方は難しいです」
「それにしては自分のことをボクって言っているじゃない。気づいていない所で素が出ているところ、可愛い」
「あ……」
「ダンのことはダンって呼んでるんでしょ? ならローデリカって呼んで。お姉さんとかお母さんでもいいけど」
エールタインは顔にティベルダの髪の毛を絡ませて首を振った。
「うー……王になった剣士は強過ぎです」
「別に強いわけじゃないわ。誰もが一度は思うことを実践してみちゃう質なだけ。そして運よくそんな私に付いてきてくれた人がいたから出来ちゃったのよ。私だけで突っ走っていたら何も出来ずに終わってる」
顔に掛かったティベルダの髪の毛をそっと払ってから言うエールタイン。
「ボクも同じです。ティベルダはもちろん、ルイーサたちも一緒にいてくれたから何とかなったので。ボク一人で軍隊を片付けるなんてあり得ないです」
姿勢良く背筋を伸ばしたまま話を聞いていたルイーサが、エールタインの発言に対して口を開いた。
「あなたが動いたから急遽ダン様が応援部隊を送ることになったんでしょ。町を動かすほどの人ってことなんだから、意識を持って動いて欲しいものね」
エールタインとルイーサの話を聞いて、ローデリカが両手をパンと叩く。
「ああ! エールは私と似ているってことね。ルイーサの言う通りレアルプドルフにとって欠かせない子だもん。英雄の後を継いだ娘は英雄も同然だから、町はエールを何としても守ろうとするわ。それって私も同じ……あらら、墓穴を掘ったかしら」
謁見部屋に全員の笑い声が響く中、ダンは笑みを一瞬だけ浮かべてから真顔になる。
「エールが考える時間をくれと頼んだのに、ローデリカ自身が来ちまったらエールが困るだろう。まったく、やっと戦後の面倒な事を終わらせたばかりだというのに。伝令が頻繁に来ているから状況も知っているはずだしなあ」
「……ごめんって。でもエールと会いたかったんだもん。ねえエール、こんな私だけどこれからも会って欲しいし、出来れば家族として受け入れてくれないかな」
エールタインは真剣な顔でローデリカを見つめて言う。
「ロ、ローデリカさん、ボクなんかで良ければ構いません。たぶん両親の存在が大きいからだとは思うんですけど、ボクにしてみればローデリカさんは十分家族に値する方だと思っています。ただ、ボクの気持ちだけでは決められないことなので――」
エールタインがダンとヘルマを交互に見ると、二人も互いに目を合わせた。
「ヘルマ、どう思う」
「また私に振るのですか……正直に申しますと少々複雑な思いがありますが、私はご主人様に従います」
「ふむ。ヨハナにも聞かないと――」
目を泳がせているダンにエールタインが言う。
「あのさ、ボクの父さんなんでしょ? なら家族について決めるのはダンだよ。ヨハナはいつもボクと同じ考えだから問題ないし、ティベルダは見ての通りご機嫌だから受け入れているよ。ヘルマはダンに従うって言っているんだから、あとはダンが答えを出すだけさ」
「ふふふ、ダンってエールに弱いのねえ。出す答えを用意されちゃって、これは剣聖としてどうなのかしら」
ダンは分の悪い状況に耐えられず、後頭部を掻いてから言う。
「家族の話に剣聖は関係ないだろ。ローデリカは家族に俺がいることをわかって言っているのか?」
「そのつもりだけど。エールを育てたお父様でしょ? それにエールの師匠でもあるし、私への気持ちも知っているわ」
ダンはローデリカに人差し指を向けて上下に振って見せる。
「そういうことをさらっと言うな。まったく、先が思いやられるが――ローデリカとアウフの間には信頼関係が成立していたし、その中には俺も入っている。だからローデリカのことはよく知っているつもりだ。家族として迎えることに問題はない人だよ。俺はアウフからエールの見守り役を託されたからダン家を築いているが、これはエールのための家族だ。エールが構わないと言うのなら、俺は家族として迎えることを否定する理由は無いよ」
ダンが言い終わるや否やローデリカは表情を明るくしたが、すぐに呆れ顔を作った。
「まったくと言いたいのはこっちよ。いいか悪いか答えるだけでしょうに」
「しかしだなあ、俺と家族になるとも言えるんだぞ。エールとの話の前に俺が気にすることだらけだ」
「あはっ、照れてるのね。ダンとエールの間柄は親子だけど、マルガレーテさんとは夫婦じゃないでしょ? それと同じで、私と夫婦になるわけじゃないんだから意識し過ぎだって」
「なあああ! 俺の気持ちを知っているなら夫婦になるような気がしちまうことぐらい察っするだろうに!」
「察しているから夫婦になるわけじゃないってはっきり言っているのよ」
ダンは胸に手を当てて少し俯いた。
「俺、耐えられるのか? ダン、大丈夫か?」
「自問してる。ヘルマ、ちゃんと支えてあげてね」
「私への負担まで大きくしないでください。複雑な思いとはこの事だったのです。はあ……ヨハナと話がしたい」
ダンとヘルマが苦しむ中、ダン家への突入を見事にやってのけたローデリカは笑みを抑えられないでいる。
その様子を見る町長とルイーサたちの隙を突いて、エールタインとティベルダは謁見部屋を出て人気のない場所へと移動した。
Szene-02 レアルプドルフ、一番地区鐘楼北東の森
丘の斜面に立つ鐘楼を横切って、森だった頃の一部が残っている木の下に座り、幹に背中を預けた。
「ティベルダ、家族が増えるんだって」
「はい」
「ダン家やうちで住むわけではないから、今までとあんまり変わらないと思うけどね」
「はい」
静かに話していたエールタインはもたれ掛かっている背中を幹沿いに滑らせ、ティベルダの肩を自身の肩で押して上半身を地面に倒した。
驚いたティベルダの目に映る光景は青空からエールタインへと変わり、じっと見つめる主人の目線に釘付けとなる。
「エール様?」
「ごめん、全然ティベルダが足りないみたいでさ、背中を抱いていたらもっとしっかりティベルダといることを実感したくなって――」
エールタインは言い終わる前に体を支えていた腕が地面から離され、一転押し倒し返された。
「エール様はすっかり私の虜になっていて嬉しいです。私ティベルダはエール様から離れることなんて無いですし、むしろ絶対に離しませんから。エール様へ必要以上に近づく者は即排除して、二人だけの世界を守るので安心してください」
ティベルダは目を紫色に変えてエールタインの動きを封じ、話を続ける。
「エール様も覚悟してくださいね。こうして能力を使ってでも私から離れられなくしますから」
倒れ込むようにして主人に抱き着き、地面に押さえつけるティベルダ。
エールタインに聞こえない声で呟いた。
「ずっとヒールを掛け続けた成果が出ました。この人は私のもの。要人にも守ってもらえば怖い物無しです。ふふふ」
ティベルダから拘束されることに慣れているエールタインは黙ってじっとしている。
表情を穏やかな笑みから不敵な笑みへと変えたティベルダは、アムレットがヒルデガルドに居場所を教えるまでエールタインに抱き着いていた。
いや、ブーズ東地区の民として飲んでいたウンゲホイアー川の水により得た能力を持つティベルダとヒルデガルド。
魔獣の川の意を持った名前が付けられたウンゲホイアー川は、光石が混じる鉱石に触れて溶け込んだ水が流れている。
魔獣の血とも言える水で繋がっていた従者二人の間には、誰にもわからない関係が出来上がっているのかもしれない。
ティベルダと同じく、ヒルデガルドもルイーサを虜にしていることが因果関係を匂わせる。
レアルプドルフにおける二つの戦いには従者二人は絡んでいて、呆気ない結末を迎えている。
今後エールタインが始める能力についての調査で突き止められるのか否か。
いずれにしても、二組の少女デュオが幸せを感じつつ毎日を過ごし、レアルプドルフの平和が保たれることを祈るばかりだ。
――――完
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