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第四章 ボクたちの町

第五十七話 帰町

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Szene-01 レアルプドルフ、西地区東門

 ようやくレアルプドルフの西地区に帰って来たダン一行は、門番と情報を耳にした剣士らから拍手で迎えられた。
 迎えた剣士の数人がスクリアニア公を運んできた剣士と交代しようとした時、ヴォルフがスクリアニア公の下へ伏せた。

「おっと、そこにいると潰れてしまうよ」
 
下ろそうとした剣士がヴォルフに言うが、その場を動く気は無いと言わんばかりに腹を地面に付ける。それからヒルデガルドへ振り返り、人が驚かない程度に小さく吠えた。

「――フォン」

 ヴォルフに見つめられたヒルデガルドは、いったん首を傾げたもののすぐに戻して言った。

「背中に公爵を乗せるといい、だそうです」
「あはは、それを言うなら城を出る時に言って欲しかったなあ」

 スクリアニア公を支えたままの剣士は、残念そうに背中を反らせた。

「剣士様の仕事を奪ってはいけないと思ったからだとか。交代をするのなら手伝うと言っています」
「しっかり仕事をさせるだなんて、魔獣もなかなか手厳しいな。認めてもらう相手が微妙な気もするけど、ここはご機嫌を損ねないようにお言葉に甘えておこうか」

 三人の剣士がスクリアニア公をヴォルフの背中へうつ伏せにして乗せると、ゆっくりと立ち上がってエールタインを見つめた。

「エールタイン様に褒めてもらいたいようですね。それが狙いだったのかも」
「いい所を見せて構ってもらおうとしたの? いつでも構ってあげるから呼べばいいのに。ボクを助けてくれた時から優しい子なのはよくわかっているよ、ありがと」

 エールタインがヴォルフの頭を抱きしめて撫でまわすと目を細め、抱えている主人の腕に頬ずりをして嬉しさを表した。

「さあ、まだまだやることはあるから役場へ移動しようか。じっと待っている人の目が厳しいんだよ」

 ダンは、エールタインたちの足が止まってしまう和やかな雰囲気が形成されてゆくのを感じて、門前からの移動を促した。

「上手く誤魔化しましたね」
「何をだ」
「町長が出迎えに来なければまだ動かなかったのではないですか?」
「そういうことは気付いても言わないように」
「あら、当たってしまいましたか。これは失礼しました」
「まったく、ヘルマは従者歴が長いのだから、主人を困らせるようなことはしないように」
「ふふ」
「はあ……ふふ、じゃあないんだよ」

 愚痴をこぼす剣聖に続いて再び一行は役場へと向かった。

Szene-02 カシカルド王国、カシカルド城王室

「そろそろ着く頃かしら」
「もう少し掛かるかと。早く着いてもエールタイン様のお休みする時間が無くなってしまいますし」
「交戦ではなく話し合いになったのはいいとして、早く結果が知りたいのよね」
「伝令たちも頑張っておりますので、お待ちいただくしか――」
「わかっているわよ。私の気持ちは町に行っているけど、こうしてちゃんと城で待っているじゃない」
「ご辛抱されているのは重々承知しておりますので、城に従事する者は皆感心しております」

 カシカルド王国の女王ローデリカは、遠方にある自治領への遠征より戻ってからは城内に閉じこもって職務を遂行していた。

「今感心って言った? 安心の間違いよね」
「城の者のみでなく、この町の民が陛下を慕っているのです。この地にいらっしゃることでとても安堵しているという声が届いております」
「もう、そんなこと言われたら……何も言えないじゃないの」

 ローデリカはため息をつきつつ姿勢を正すと、再び職務を進めた。

Szene-03 レアルプドルフ、町役場謁見部屋

 ダン一行は敵城から撤収後、出迎えた町長と共に町役場が管理する謁見部屋に到着した。
 役場内にある町長室よりは広いからという理由で使われている謁見部屋だが、元々は罪人などを取り調べる部屋であるために少々手狭だ。
 以前集まった時と同じ顔ぶれにエールタインを慕うヴォルフが加わろうとしたが、入る余地が確保できないという理由により部屋の外で主人を待つことになった。
 エールタインが拗ね気味のヴォルフを撫でて納得するまで語り掛け、ようやく到着が完了した。
ダンを中心に各人からの補足を混ぜながら、町長に防衛戦の全様が伝えらえた。

「エールタイン様には度々驚かされますな。大けがの後に続いて奇襲をかけたと聞いた時は、どちらかに援軍を頼もうかと悩みました」
「すみません……敵からの攻撃をただ受け止めるだけの状況がどうにも納得いかなくて、どこかで動かなければ埒が明かないと感じました。ダンに一言伝えるべきでしたが、たぶん止められるなあと思ってそのまま向かってしまいました」
「ほっほっほ、エールタイン様らしいと言えばらしい動きですが、独断な上にほぼ単独の行動というのはいただけませんぞ。しかし運よく奇襲として成功し、敵城まで乗り込んでしまうのですからあまり責めることもできない。攻めも責めも出来なくさせてしまうのは、エールタイン様ならではなのでしょうな」

 ダンは町長の話に軽く咽てから二人の会話に入り込んだ。

「くっ、はは。アウフに似すぎていて笑いがこみ上げてきちまった。あいつに付いて行った者としては、エールの援護をしてくれたルイーサを褒めたい。君がいなければエールらしく動くことは叶わなかっただろうし、奇襲も無いまま今でも交戦していただろう。ルイーサ、ありがとうな」

 ルイーサは突然の名指しに驚きつつも、顔を火照らせて大きく首を振った。

「と、とんでもないです! 私はエールタインが危険な目に遭う姿を二度と見たくなかっただけで――それにあの時、私もこのままでは何も変わらないと思っていたので、あまり躊躇することなくエールタインの考えに賛同していました」

 早口で話したルイーサは言い終わると肩をすくめて俯いた。

「感謝しているのだから堂々としてくれよ。そしてヒルデガルド、君にも大いに助けてもらった。魔獣が現れればどこの兵士でも簡単には手が出せないからな。そもそもスクリアニアで魔獣狩りに慣れている者がいない。そのことがルイーサの存在を大きくしていたし、武器の無い俺たちが無事でいられたことに繋がっている。ありがとう」

 ヒルデガルドは背筋を伸ばしたまま丁寧にお辞儀をした。

「私はただご主人様をお守りするという最低限の仕事をしていただけです。お褒めいただくようなことは――」
「いいえ、私はヒルデがいるから前に進むことが出来ているの。だからいつも感謝しているのよ」

 ダンに褒められているデュオを羨ましそうに見ているティベルダは、エールタインにくっついて顔を覗き込んだ。

「私はお役に立っていますか?」
「ティベルダには助けてもらってばかりだよ。ボクが甘え過ぎていて申し訳ないくらいだ」
「エール様が甘えてくださるのなら、私は何でもしちゃいます! もっと私に頼って、もっともっと甘えてください。私無しの生活なんて考えられないほどに」

 ルイーサたちに続いてティベルダを褒めようとしたダンは、エールタインに迫るティベルダと迫られている弟子を二本の指で差してヘルマに聞いた。

「あの二人についてはあまり考えなくていいんだよな?」
「はい、エール様にお任せしていればよろしいかと。ティベルダが言う事を聞く相手は限られていますが、幸いなことに彼女の中では私たちもエール様と同じ立ち場となっています。エール様が最優先であるのは揺るぎませんが」
「エールの師匠で良かったと思えるが、それをティベルダによって実感している所に引っ掛かりを感じてしまうな。いや、これも気にしない方が良いのだろう。さて、それよりスクリアニアの方を片付けねばならんな」

 ダンは目をきらきらさせて主人を見つめるティベルダに聞く。

「ティベルダよ、スクリアニア公の傷は治っているのか?」
「いいえ。何をされるかわからないので、完治まではしていません。お話されますか?」
「ああ。今回の件をさっさと終わらせたいのでな。ティベルダも東側を気にする生活から解放されたいだろ? そのためには話をせねばならん」
「では、ダン様とお話が出来る所まで治します」
「てっきり完治させるのだろうと思って聞いたのだが、そんな調節が出来るとは……かなり使いこなせるようになったのだな」

 ティベルダはダンに向けてにこりと笑みを見せる。

「この部屋まで公爵を連れて来てくれ。寝かすための敷物も忘れずにな」

 謁見部屋の外で控えていた剣士の耳にダンからの指示が届くと、一人が役場へ向けて走った。
 そして剣士が役場に着いた時、カシカルド王国からやって来た馬車が西地区西門に到着した。
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