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第四章 ボクたちの町

第四十六話 先行きを察して

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Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城門

 東西街道が潜る西門から撤退したスクリアニア公を乗せた馬車が、スクリアニア公の居城であるヴェルム城に到着した。
 思いのほか早く帰って来たスクリアニア公に驚き、息を切らした執事が焦った様子で出迎えた。

「閣下、もうお戻りで」
「なんだ、早く帰ると都合の悪い事でもあるのか?」
「いえ、そのような事は決してありません。てっきり勝利を目に焼き付けてお帰りになるかと思っていましたので」
「ふんっ、思ってもいないことを言うな。負けだ、この戦いもじきに終わる」
「そ、そうなのですか!?」

 スクリアニア公は執事の質問には答えず、再び馬車へと乗り込んだ。御者は静かに馬を歩かせると、城を周回するように敷かれた細い道を進んだ。

「閣下が戦いを見届けずに撤退……兵数は揃えたものの全く歯が立たなかったということですね。いよいよこの国も変わる時が来たのかもしれない」

 執事はよろしくない結果によるスクリアニア公の機嫌と、忙しくなるであろう先行きを思い浮かべてスクリアニア公の後を追った。

Szene-02 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川橋上東側

 エールタインたちの動向を気にしたダンは、町壁に残った兵士をそのまま留めさせてヘルマと共に壁を後にした。
 東西街道に掛かるウンゲホイアー川の橋上で事後処理をする剣士に様子を聞きながら渡り切ったダンが言う。

「能力でないと出来ないことが目立つせいで、全てをティベルダがやったように見えてしまうな」
「あの子は見掛けによらず、やることが大胆ですから。今では町のみなさんもティベルダが動いた結果だとわかりますが、始めは誰も信じませんでしたもの。さらに魔獣が加わったので、町の常識が変わりましたね」
「俺でもエールとティベルダのやりとりを見ているから呑み込めるだけで、エールがいなければ信じられないままだろうな」

 ティベルダについて思い返したダンは、レアルプドルフが能力を持った者のいる町だということを改めて実感した。

「ヘルマ、準備はいいか」
「ええ、もちろんです。敵地に乗り込んで何の用意もしていない従者なんてお嫌いでしょ?」
「いつでも行けることを知っているからこそ聞いたんだよ。その口から直接聞けば安心する」
「私もそのお言葉が聞けてとても嬉しいです」
「――――またか」
「何か?」
「お前、言わせただろ」
「言わせた……はて、何についてでしょうか?」
「いや、何でもない。ここで負けてはスクリアニアにすら勝てん。エールが心配だ、行くぞ」
「うふふふ」

 首を大きく振って踊らされたことを忘れようとするダンを見て、ヘルマは微笑んだ。

「ダン様!」

 ヴェルム城へと振り返ったダンの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「どうした、まだ抵抗する部隊が残っていたのか?」
「いえ、防衛についてはほぼ問題ありません。ですが、ダン様とヘルマさんがお二人だけで敵城へ向かわれるという問題が発生しましたのでお供に参りました」
「俺が動くことが問題だと?」
「普段ならば良いのですが、さすがに敵地ですから。こちらに声を掛けていただかないと困ります」

 上級剣士からダンを追うように言われた三人の剣士は、橋上から慌てて追いかけて来た。

「ダン様に何かあっては町民が不安で眠れなくなってしまいます」

 苦笑いを浮かべる三人の剣士にヘルマが言う。

「ごめんなさい、私がお声がけするべきでした」
「いえいえ、ヘルマさんは何も悪くありませんよ! ダン様をずっと見守り続けているのですから。ヘルマさん、みんなはあなたが危険にさらされることも望んでいないのです」
「あらあ」

 ヘルマが嬉しさを微笑みで素直に表すと、三人の剣士は釣られるように照れ笑いをした。
 ダンは一瞬眉間に皺を寄せたが、大きく息を吐いて気持ちを入れ替えると、ごつい脚を気持ち早めに前へと出し、地面を鳴らして進む。
 ヘルマは微笑みから真顔に戻り、剣の柄を意識して主人に続いた。

Szene-03 スクリアニア公国、ヴェルム城居館前

 ヴェルム城の居館前で仕事場を足早に行き来している女中は、突然到着したスクリアニア公に驚き、慌てて出迎えにゆく。

「閣下、お帰りなさいませ」
「うむ。早く帰った理由を聞きたそうだな……いや、俺が話したいのか」

 女中は思うことがあっても、普段から余計な事は口走らないよう気を付けている。そんな女中の事情を知りつつあえて突っ込むスクリアニア公は、肩をすくめる女中に呟いて居館へと入る。

「城内の兵に守りを固めるよう伝えろ。その後は部屋で待機だ」
「え……あ、はい」

 女中は軽く目線を下げて歩くスクリアニア公の背中を見て、胸を張って歩く姿が染みついた目に違和感を覚えていた。
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