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第四章 ボクたちの町

第四十五話 想定内

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Szene-01 スクリアニア公国、西門前東西街道上

 エールタインたちの後方支援に向かったレアルプドルフの剣士たちは、二組の少女デュオが通り抜けた後に残されたスクリアニア兵の事後対応を行っている。

「成り行きを見てはいたけども、いざ現場へ来てみると頭が追いつかないな」
「こういうのは考えない方が身のためだよ。事が済めばエールタインが全て教えてくれるさ」
「ここまでされると同じ上級剣士とは思えないや」
「エールタインは町にとって初めから特別な立場だ。むしろ同じ格でいられることを誇りに思うべきだよ」
「同じ上級剣士なら呼び捨てでも構わないもんな。よし、これを機にもっと距離を縮めてみるか」
「あ、お前それは剣士としてどうかと思うぞ」
「なんだよ、お互いに良く知り合わないと今後の方針について話し合い難いだろ。上級剣士同士、親睦を深めないと」
「立場を振りかざしてそれらしいことを言ったって、下心は丸見えだぞ」

 エールタインについての話が続く上級剣士は、ふとティベルダから発せられたフリーズの餌食から免れた兵士を、森の一角に集める剣士へ目を向けて言った。

「これをあの四人がやっちまったんだよな」
「ヴォルフも混ざっているがな。にしてもあのまま行ってしまったが、まさか城まで行こうとしているんじゃないだろうな」
「いや、そのまさかだろうよ。始めちまうと止まらない質なんだろうな」
「さすがに魔獣を連れていても厳しいはず。もうスクリアニアの壁外は無事だろうから、数人でも連れて応援に行こう」

 応援部隊を率いる上級剣士は、一部の剣士を連れてスクリアニア公国の領地内へと入っていったエールタインたちを追った。

Szene-02 スクリアニア公国、壁内西門前

 エールタインは一人のスクリアニア兵に短剣を突き付けたまま領地内を進もうとするが、西門の門番に行く手を遮られた。

「また物騒な物を突き付けて堂々と歩いているな。女の子がやることではない、すぐに剣を放しなさい」

 門番は自身の頭より高い位置にあった槍の先をエールタインに向けて言った。
 エールタインの代わりに短剣を突き付けられている兵士が答える。

「この子たちには手を出さない方が身のためだ。あれだけの兵が壁になっていたのに、ここまで来ていることでわかるはず」

 門番から槍先を向けられている二人の剣士は怯むどころか落ち着いており、それぞれの従者が敵意を露わにしているのを抑えている。

「小娘のくせにやたらと落ち着きを感じるのは、魔獣だけでなくその奴隷のせいか。魔獣も襲ってこないところをみると、飼い慣らしているようだな。手を出さない方が賢明なことはよくわかったが、通すわけにもいかない。せっかく来たところ済まないが、ここまでだ」

 一人の門番が槍先をエールタインへ向けるのに合わせて、他の門番も槍を構えた。

「ぐるる」

 ヴォルフもマズルに皺を寄せて少し腰を下げ、爪を出して地面に突き立てた。
 殺気を感じたのか、東西街道の橋へと駆け付けたヴォルフたちは、スクリアニア公国の西門前に集まってヒルデガルドの見える位置で歩き回る。

「他にも魔獣がいるだと!? こいつ一頭でも厳しいってのに」
「だから言っているだろう、手を出さない方が良いと」

 槍先を向けたものの、数頭のヴォルフが目に入ってからは門番たちの手は震えが止まらない。

「し、しかし――」
「いや、こいつはどう考えても太刀打ち出来ない。このまま通すしか無い……な」

 門番はそれぞれ槍先を天へ向け直すと、目線を何もない空間へやった。

「通してくれてありがと。出来るだけ血は見たくないから、賢明な判断をしてくれて助かる」

 エールタインは足を前に出し、抱えている兵士に歩くよう促した。

「城に行けば同じ様に門番だらけなんだよね。ヴォルフに付いて行く方が話は早そう」
「私たちだと剣士ではなく、小娘扱いだものね。毎度そんなことされたら腹が立つばかりで疲れてしまうわ。エールタインの言う通り、ここはヴォルフに任せましょう」

 ヒルデガルドが後ろへ振り返ると、西門前で主人たちの様子を伺っていた数頭のヴォルフは駆け足で主人に追いついた。
 思わず肩をすくめた門番は、横をすり抜けたヴォルフの後ろ姿を見て言った。

「ひっ! て、てっきり噛みつかれるかと思ったぜ。まさかあんな女の子に賢明な判断と言われるだなんてな。世間が変わりつつあるのか、自分が歳をとっちまったのか」

 門番としての仕事をやり遂げられなかった兵士は皆、しばらくその場で立ち尽くしていた。

Szene-03 レアルプドルフ、ブーズ町壁頂部

 ダンの指示により、町壁における防衛要員からエールタインの後方支援として半数を追加で送り込んだ後の町壁上部は、交戦中とは思えない静けさに包まれていた。
 定期的に戻って来る伝令が緊張感を消し去る静けさを壊すことで、壁に残った剣士の士気が保たれている。

「ダン様、報告します!」
「おお、待っていたぞ」

 ダンの元へたどり着いた伝令は、喜び半分心配半分といった表情で持っている情報を伝える。

「エールタイン様とルイーサ様は敵兵の一人を捕獲し、スクリアニア公国西門を突破、そのままヴェルム城へと向かっています」

 伝令は声を張って伝えたが、どこか頼りなさが混じるのをダンは感じた。

「無事に抜けたと捉えて良さそうだが、何か不安なことでもあるのか?」
「……私がふと気になっただけなのですが、ヴォルフが付いているとはいえ、敵の城へデュオ二組だけで向かうのは……その――」

 ダンは言い難そうに話す伝令の肩を軽くポンと叩いて言った。

「君の言いたいことはよくわかる。俺もまさか城へ入る気だとは思っていなかった……いや、エールならやりかねないと考えてはいたな。事の大きさがエールにとっては関係無いのだと呆れたところだ。師匠としてもどう受け止めるべきか、困った奴だよ」

 ダンに付き添うヘルマが主人の顔を覗き込んで言う。

「よくやったとお伝えになるのでは? ご本人の前ではないのに照れなくてもいいじゃないですか」
「ヘルマよ、その、もう少しだな――」
「伝令の方が指示待ちしていらっしゃいます」
「お? ああ」

 部隊へ戻りたい伝令は、本題から外れてゆきそうになるダンを心配そうに見つめながらじっと待っている。
 その様子に気付いたヘルマが、伝令の代わりにダンへ指示を促す。
 ダンは再び伝令の顔を見たことで、話の行方を修正して言った。

「今更あいつを止めることは難しいだろう。ヴォルフがいるとはいえ、あいつは矢を受けた前例がある。引き続きエールたちの後方支援を頼む。だが城へ入ることでの問題は、スクリアニア公に会ってどうするつもりなのか、だ」
「向かいますか?」

 ヘルマは選択に悩む主人の背中を押した。

「そう、なるよな。仕方がない、ここは師匠の出番か」
「いえ、剣聖の出番でしょう」

 スクリアニア公国の要所へと向かうエールタインたちの動きは、剣聖であるダンを出向かせる大きな動きであった。
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