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第四章 ボクたちの町
第四十四話 かき退けた先
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Szene-01 カシカルド王国、カシカルド城王室
「終わったあ」
「お疲れ様です。帰城してそのままこなされましたから、これからご就寝されてはいかがですか」
遠方から来た謁見希望者は早く帰らせてあげたいというローデリカの希望で、旅から帰るや否や謁見を行った。
謁見部屋から王室に戻ると、椅子の背もたれに体を預けて両腕を垂らしたローデリカは、天井を見上げて放心状態だ。
秘書官は上を向いたことで白く透き通った首筋が良く見える上、緊張を緩めているせいか普段より女性らしさを醸し出すローデリカから目線をそらした。
「あなたが意識すると私が恥ずかしくなるじゃない。別に服を脱いだわけではないのだから、力を抜くぐらいさせてよ」
「服!? そのようなことは……侍女と交代します」
「だから別に構わないってば。嫌ならとっくにここから追い出しているわ。ところで、レアルプドルフのことだけど」
体を王室の扉へ向けた秘書官は、天井を見上げたままのローデリカから無視できない話を振られて足を出すのを止めた。
「領土内で私が出向く必要のない平穏な状況なら、エールタインと会いたいのだけど、できる?」
「今回の遠出は本国にとって甚大な被害となりかねない状況下での苦渋の選択。このことは謁見者に知られています。となると少なからず噂となり、良からぬことを企てる者や国が現れるきっかけとなり得ます。お気持ちはわかりますが、当分の間は陛下が城にいらっしゃるという事実の定着を優先されるべきと考えます」
ローデリカはおもむろに体を起こし、机に両肘を乗せると頬杖をついて顎を乗せた。
「つまんない」
「そう言われましても」
秘書官は額を指先で掻いて困ったことを表すが、ローデリカは構わず話を続けた。
「だって、こんな時こそあの子に会いたいじゃない。加勢ってことなら行ける?」
「陛下、私で遊ばないでください」
「むぅ、目の前にいるのはあなたなのだから仕方ないでしょ」
「遊んでいたことは否定なさらないのですね」
一瞬の間が生まれたが、ローデリカは話を続ける。
「それじゃあ、レアルプドルフからの情報量を増やして」
「連絡の内容が穏やかではなかったので、伝令は増員しております。これまでより時間が短縮されるので、しばしお待ちを」
「そう――ありがと。いつも助かるわ」
「勿体ないお言葉です」
「ご褒美として、少し眠ってあげる」
秘書官は頬杖をついたままの仕草と休むことを選んだことに微笑んで言った。
「陛下がお休みする時間を見守ることは、私にとって何よりのご褒美。ありがたく頂戴いたします」
「見守ってくれるのは嬉しいけど、寝ている所は見ないでね」
「そんなこと出来るわけないじゃないですか」
「ふふふ。では侍女を呼んでちょうだい、寝る支度をするから」
「はっ」
Szene-02 スクリアニア公国、西門領内側
いよいよスクリアニア公国内に入ったエールタインたちは、地元と違う匂いを感じつつ辺りを見回している。
エールタインはかき分けたスクリアニア軍の前線部隊へ振り返り、レアルプドルフの部隊が事後対応している姿を見つけた。
「みんな来てくれたんだ。近くにいてくれると安心するね」
歩きながらヒルデガルドに剣先を補修させているルイーサが言う。
「エールタイン、それは逆よ。私たちが部隊から離れてしまっているから大変なの。みんなに迷惑をかけているってことを実感して欲しいものね」
「あ……これはダンに怒られる流れだった。でもさ、早く終わらせたいし」
「私はその気持ちに賛同しているからここにいるのよ。誇れることではないけれど、怒られるのは慣れているし」
ルイーサの言葉にヒルデガルドがクスリと笑う。
「昇格されてからは怒られなくなりましたから、懐かしいですね」
「そうね……ヒルデ、どういうこと?」
「え、そのままの意味ですよ。ルイーサ様は上級剣士になられたのだと実感しているところです」
ルイーサたちの話を耳にしたティベルダは、心配そうな顔をしてエールタインの横顔を見つめて言った。
「エール様、怒られることをしているのですか? 私、ダン様には嫌われたくないです」
「ルイーサの言う通り、ちょっと悪い事してるかな」
「え!?」
「何もしなかったらあのまま押し切られたと思うんだ。でもヴォルフが味方に付いてくれるなら何とかなるんじゃないかなって。逆にヴォルフがいないなら、ひたすら終わるまで守ったと思う」
エールタインに捕まっている兵士が口を開いた。
「聞けば聞くほどわけがわからなくなる連中だな。随分と若いのに上級剣士で、そこの娘は何かはわからないが能力を持っている。何より一番厄介なのは魔獣使いだということ。まったく、こんな連中を相手に勝てるわけがないじゃないか。むしろ国が滅ぼされていないことに感謝してもいいぐらいだ」
何もかも諦めたように話す兵士にエールタインが言う。
「こんな戦いが無ければボクたちは静かに過ごしていたよ。それを邪魔しに来るからしたくもない戦いをしなければならない。ボクたちは町を守るために剣を使っているけれど、できれば何の変哲もない生活の道具にしていたいんだ。国を滅ぼすだなんて、町にとって必要の無いことだからね」
エールタインの語る町の思いを兵士は黙って聞いていた。
「終わったあ」
「お疲れ様です。帰城してそのままこなされましたから、これからご就寝されてはいかがですか」
遠方から来た謁見希望者は早く帰らせてあげたいというローデリカの希望で、旅から帰るや否や謁見を行った。
謁見部屋から王室に戻ると、椅子の背もたれに体を預けて両腕を垂らしたローデリカは、天井を見上げて放心状態だ。
秘書官は上を向いたことで白く透き通った首筋が良く見える上、緊張を緩めているせいか普段より女性らしさを醸し出すローデリカから目線をそらした。
「あなたが意識すると私が恥ずかしくなるじゃない。別に服を脱いだわけではないのだから、力を抜くぐらいさせてよ」
「服!? そのようなことは……侍女と交代します」
「だから別に構わないってば。嫌ならとっくにここから追い出しているわ。ところで、レアルプドルフのことだけど」
体を王室の扉へ向けた秘書官は、天井を見上げたままのローデリカから無視できない話を振られて足を出すのを止めた。
「領土内で私が出向く必要のない平穏な状況なら、エールタインと会いたいのだけど、できる?」
「今回の遠出は本国にとって甚大な被害となりかねない状況下での苦渋の選択。このことは謁見者に知られています。となると少なからず噂となり、良からぬことを企てる者や国が現れるきっかけとなり得ます。お気持ちはわかりますが、当分の間は陛下が城にいらっしゃるという事実の定着を優先されるべきと考えます」
ローデリカはおもむろに体を起こし、机に両肘を乗せると頬杖をついて顎を乗せた。
「つまんない」
「そう言われましても」
秘書官は額を指先で掻いて困ったことを表すが、ローデリカは構わず話を続けた。
「だって、こんな時こそあの子に会いたいじゃない。加勢ってことなら行ける?」
「陛下、私で遊ばないでください」
「むぅ、目の前にいるのはあなたなのだから仕方ないでしょ」
「遊んでいたことは否定なさらないのですね」
一瞬の間が生まれたが、ローデリカは話を続ける。
「それじゃあ、レアルプドルフからの情報量を増やして」
「連絡の内容が穏やかではなかったので、伝令は増員しております。これまでより時間が短縮されるので、しばしお待ちを」
「そう――ありがと。いつも助かるわ」
「勿体ないお言葉です」
「ご褒美として、少し眠ってあげる」
秘書官は頬杖をついたままの仕草と休むことを選んだことに微笑んで言った。
「陛下がお休みする時間を見守ることは、私にとって何よりのご褒美。ありがたく頂戴いたします」
「見守ってくれるのは嬉しいけど、寝ている所は見ないでね」
「そんなこと出来るわけないじゃないですか」
「ふふふ。では侍女を呼んでちょうだい、寝る支度をするから」
「はっ」
Szene-02 スクリアニア公国、西門領内側
いよいよスクリアニア公国内に入ったエールタインたちは、地元と違う匂いを感じつつ辺りを見回している。
エールタインはかき分けたスクリアニア軍の前線部隊へ振り返り、レアルプドルフの部隊が事後対応している姿を見つけた。
「みんな来てくれたんだ。近くにいてくれると安心するね」
歩きながらヒルデガルドに剣先を補修させているルイーサが言う。
「エールタイン、それは逆よ。私たちが部隊から離れてしまっているから大変なの。みんなに迷惑をかけているってことを実感して欲しいものね」
「あ……これはダンに怒られる流れだった。でもさ、早く終わらせたいし」
「私はその気持ちに賛同しているからここにいるのよ。誇れることではないけれど、怒られるのは慣れているし」
ルイーサの言葉にヒルデガルドがクスリと笑う。
「昇格されてからは怒られなくなりましたから、懐かしいですね」
「そうね……ヒルデ、どういうこと?」
「え、そのままの意味ですよ。ルイーサ様は上級剣士になられたのだと実感しているところです」
ルイーサたちの話を耳にしたティベルダは、心配そうな顔をしてエールタインの横顔を見つめて言った。
「エール様、怒られることをしているのですか? 私、ダン様には嫌われたくないです」
「ルイーサの言う通り、ちょっと悪い事してるかな」
「え!?」
「何もしなかったらあのまま押し切られたと思うんだ。でもヴォルフが味方に付いてくれるなら何とかなるんじゃないかなって。逆にヴォルフがいないなら、ひたすら終わるまで守ったと思う」
エールタインに捕まっている兵士が口を開いた。
「聞けば聞くほどわけがわからなくなる連中だな。随分と若いのに上級剣士で、そこの娘は何かはわからないが能力を持っている。何より一番厄介なのは魔獣使いだということ。まったく、こんな連中を相手に勝てるわけがないじゃないか。むしろ国が滅ぼされていないことに感謝してもいいぐらいだ」
何もかも諦めたように話す兵士にエールタインが言う。
「こんな戦いが無ければボクたちは静かに過ごしていたよ。それを邪魔しに来るからしたくもない戦いをしなければならない。ボクたちは町を守るために剣を使っているけれど、できれば何の変哲もない生活の道具にしていたいんだ。国を滅ぼすだなんて、町にとって必要の無いことだからね」
エールタインの語る町の思いを兵士は黙って聞いていた。
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