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第四章 ボクたちの町
第四十一話 止まらない少女たち
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Szene-01 ブーズ北東部、森中
エールタインがザラ救出の際に負傷したブーズ北東部のウンゲホイアー川東岸に面する森では、ヴォルフ数頭がスクリアニア兵の侵攻を阻んでいた。
飛び交う矢を避けてスクリアニア兵に体当たりをするヴォルフたち。
ヴォルフはヒルデガルドからの願いを聞き入れ、極力命を奪わないように立ち回る。
スクリアニア兵は中型魔獣が目の前に現れて一旦は怯んだものの、武器があるのだからと対抗した。
しかしヴォルフの素早さに付いて行けない上、体当たりのみで簡単に倒されていくため、抵抗を諦めて撤退をする。
「だ、駄目だ! こんな奴らに勝てるわけがない」
「そもそも魔獣を相手にするなんて無茶な話だ。魔獣がいるから森には近づかないようにしていたというのに」
ザラを追っていた兵士がティベルダによって壊滅された場所ということもあり、ブーズ北東部のスクリアニア兵は次々に撤退をした。
敵兵を退けたヴォルフは、後の監視をアムレットの仲間に託して主人たちのいる東西街道へと向かった。
Szene-02 スクリアニア公国領内、東西街道上西門
ウンゲホイアー川に掛かる東西街道の橋上で抗戦をしているエールタインたちは、一息もつかずに攻撃を畳みかけてスクリアニア兵をじりじりと押し戻していた。
「はっ、何の音?」
エールタインが目の前の兵に剣を刺し込もうとした時、金属音が耳に飛び込んできた。
「エールタイン、隙を見せないようにね。これだけの兵がいるのだからよく周りを見て」
ルイーサは、エールタインの隙を突こうとした兵士に向けて左親指で小石を弾いて当てた。
金属の防具が反響して怯んだ兵士に、剣を刺してからエールタインが答える。
「ありがと。今、何したの?」
「え? ああ、ちょっとね。ほら、集中して」
ルイーサは大剣の先を地面に下ろすと一気に振り上げて土をばら撒き、敵兵の視界を奪う。
隙を作り上げると振り上げられた大剣で兵士をなぎ倒した。
巻き込まれないように一旦集団から離脱したエールタインが言う。
「すごい……大剣だとそんなことが出来るんだね」
「やれることを惜しまずやっているだけよ。さあ、まだ後ろに控えているみたいだけど、どうする?」
ルイーサがエールタインと話せるように、ヒルデガルドが主人の前に出て盾を構える。
「うん、ボクたちだけじゃ時間が掛かりそう」
エールタインの言葉を聞いたヴォルフが、ヒルデガルドと同じ様に主人の前に出る。
ルイーサに倒された兵の後ろから現れる敵兵を体当たりで数人倒して見せた。
「わあ、びっくりした」
ヴォルフが尻尾を振って存在を示すと、ティベルダが透かさずエールタインの腕に抱き着いて言った。
「いい所を見せてもエール様はあげないよ!」
ティベルダが唸り声をあげそうな表情でじっと見ると、ヴォルフはエールタインとティベルダの前でお座りをして動きを止めた。
「ティベルダあ、ヴォルフと張り合わなくてもいいでしょ。この子だって役に立ちたいって言ってくれてるんじゃないかな」
「その通りなんですけどお、エール様は毛がお好きですし」
「毛!? ボクって毛が好きだっけ」
「癒されていたじゃないですか。私のヒールとどちらがお好きなんですか?」
ティベルダは主人の腕を掴む手に力を増してぐいっと引っ張り、上目遣いで迫った。
「ああ、確かにフサフサの毛は新鮮だったこともあってお気に入りになったよ。ティベルダのヒールにはいつも助けられているし、とっても心地よいから大好き。だからどっちも好きだなあ。比べるのはあまり好きじゃないのもあるし」
「えー。そこはヒールって言って欲しかったです。なんだか負けた気分」
エールタインは苦笑いをするが、ティベルダの顔を見ると微笑みに変わり、引っ張られている腕を引っ張り返して抱き寄せた。
「あっ」
「うん、こうするのは久しぶりだね。ティベルダが傍に居るって実感できて安心する。ねえティベルダ、これでボクの気持ち、伝わるかなあ」
ティベルダはエールタインに抱えられたまま小さく頷いた。
「――――はい。エール様は私無しではいられないということがわかりました。うふふ、やっぱりエール様は私のです」
「あーもう、あなたたちはすぐ二人の世界に行ってしまうから困るわ。敵前だということに危機感を持ってちょうだい。ほら、動いて!」
ルイーサは自分に向かって来る兵士に加え、エールタインを襲おうとする者も相手にしている。
スクリアニア兵は絶え間なく現れるため、ヒルデガルドの守りに助けられてはいるもののルイーサの抗戦にも限界が生じ始めていた。
「ご、ごめん! えっと、このままじゃ切りがないから――」
エールタインはティベルダの頭を一撫でしてからルイーサの耳元へ顔を近づけて小声で言った。
「ルイーサ、いっそ元を断とうか」
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ」
「そのままってまさか……スクリアニア公を!?」
エールタインはルイーサの耳元で話し続ける。
「うん。それならすぐに終わらせられるでしょ」
「言うのは簡単だけど、それが出来るなら誰も困っていないわよ」
「ほら、出来たら誰も困らない。なら、やるしかない」
「あなたって人は――」
ルイーサは大きくため息をついてから続けた。
「不思議ね、あなたが言うと出来そうな気がしてしまう。一つ、約束してくれるかしら」
「約束?」
「ええ。その……これまで以上に、あの……な、仲良くしてくれるなら……いい……わ」
俯いて頬を赤らめるルイーサに襲い掛かる剣を盾で防いだヒルデガルドは、ちらりと主人の顔を見てにこりと微笑み、鋭い視線で睨むティベルダへ目をやる。
「ヒルデガルド、この人酷い」
「そんなこと言わないで。あなたの大事な人が無事でいられるためには必要だと思う」
「エール様は私が守るもん!」
「私もこうしてルイーサ様をお守りしているわ、同じよ」
「そっか、ヒルデガルドも……うー、今だけ少し我慢する」
「うふふ、ありがと」
悪い癖が顔を出した少女たちの動きが鈍る。ヴォルフは黙ってその穴を埋めるために体当たりを再開した。
「ほら、ヴォルフが痺れを切らしちゃったじゃない。お話はここまでにして、やるならやりましょ」
ルイーサは両肩を軽く上げて仕方なさを露わにすると、エールタインは顔を近づけて言った。
「十分仲はいいつもりだけど、ルイーサと仲良くできるのは嬉しいからいいよ。でも今以上に仲良くってどうすればいいのかな、うーん」
エールタインはルイーサの肩に手を置いてしばし考える。そしてルイーサが振り向いたところで頬を合わせた。
「あ、あなた何を」
「今まで以上に仲良くなるにはって考えたらしちゃった。気分を悪くさせたらごめんね」
ルイーサはフリーズを仕掛けられたように固まったが、すぐに血が巡って顔を真っ赤に変えた。
「び、びっくりはしたけど気分はいい……かも」
「あー!」
ティベルダは叫んでから駆け出しそうになるが、ヒルデガルドが抱き着いて止めた。
「ティベルダ落ち着いて!」
「むり! むりむりむり!」
首を大きく左右に振ってイヤイヤをするティベルダに、エールタインが言う。
「ティベルダ、早く終わらせて帰ろう。長引くと殺めていることが辛くなるから」
エールタインから言葉を掛けられたティベルダは、少しだけ機嫌を良くして答えた。
「はい……エール様、あの」
「終わったらいっぱいお話出来るから、今はこれを付けてる小娘を手伝って欲しいな」
エールタインは首に掛けている紐を引っ張り出し、上級剣士の証石であるホワイトサファイアを見せて言った。ティベルダはお返しに指輪を見せて答える。
「お話止まらないから覚悟してくださいね、私のご主人様。それで、これからどうするのですか?」
エールタインはルイーサからティベルダの傍へと移って耳元で囁く。ティベルダは妙に楽しそうな微笑みを浮かべて大きく頷いた。
「では道を作りますね」
ティベルダはエールタインの手をそっと握ると、スクリアニアの部隊をじっと見つめて目を紫色へと変えた。
ティベルダの能力を感じたヴォルフはエールタインの前でじっと立ち、フサフサとした首の毛の中からアムレットが顔を出していた。
エールタインがザラ救出の際に負傷したブーズ北東部のウンゲホイアー川東岸に面する森では、ヴォルフ数頭がスクリアニア兵の侵攻を阻んでいた。
飛び交う矢を避けてスクリアニア兵に体当たりをするヴォルフたち。
ヴォルフはヒルデガルドからの願いを聞き入れ、極力命を奪わないように立ち回る。
スクリアニア兵は中型魔獣が目の前に現れて一旦は怯んだものの、武器があるのだからと対抗した。
しかしヴォルフの素早さに付いて行けない上、体当たりのみで簡単に倒されていくため、抵抗を諦めて撤退をする。
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敵兵を退けたヴォルフは、後の監視をアムレットの仲間に託して主人たちのいる東西街道へと向かった。
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ウンゲホイアー川に掛かる東西街道の橋上で抗戦をしているエールタインたちは、一息もつかずに攻撃を畳みかけてスクリアニア兵をじりじりと押し戻していた。
「はっ、何の音?」
エールタインが目の前の兵に剣を刺し込もうとした時、金属音が耳に飛び込んできた。
「エールタイン、隙を見せないようにね。これだけの兵がいるのだからよく周りを見て」
ルイーサは、エールタインの隙を突こうとした兵士に向けて左親指で小石を弾いて当てた。
金属の防具が反響して怯んだ兵士に、剣を刺してからエールタインが答える。
「ありがと。今、何したの?」
「え? ああ、ちょっとね。ほら、集中して」
ルイーサは大剣の先を地面に下ろすと一気に振り上げて土をばら撒き、敵兵の視界を奪う。
隙を作り上げると振り上げられた大剣で兵士をなぎ倒した。
巻き込まれないように一旦集団から離脱したエールタインが言う。
「すごい……大剣だとそんなことが出来るんだね」
「やれることを惜しまずやっているだけよ。さあ、まだ後ろに控えているみたいだけど、どうする?」
ルイーサがエールタインと話せるように、ヒルデガルドが主人の前に出て盾を構える。
「うん、ボクたちだけじゃ時間が掛かりそう」
エールタインの言葉を聞いたヴォルフが、ヒルデガルドと同じ様に主人の前に出る。
ルイーサに倒された兵の後ろから現れる敵兵を体当たりで数人倒して見せた。
「わあ、びっくりした」
ヴォルフが尻尾を振って存在を示すと、ティベルダが透かさずエールタインの腕に抱き着いて言った。
「いい所を見せてもエール様はあげないよ!」
ティベルダが唸り声をあげそうな表情でじっと見ると、ヴォルフはエールタインとティベルダの前でお座りをして動きを止めた。
「ティベルダあ、ヴォルフと張り合わなくてもいいでしょ。この子だって役に立ちたいって言ってくれてるんじゃないかな」
「その通りなんですけどお、エール様は毛がお好きですし」
「毛!? ボクって毛が好きだっけ」
「癒されていたじゃないですか。私のヒールとどちらがお好きなんですか?」
ティベルダは主人の腕を掴む手に力を増してぐいっと引っ張り、上目遣いで迫った。
「ああ、確かにフサフサの毛は新鮮だったこともあってお気に入りになったよ。ティベルダのヒールにはいつも助けられているし、とっても心地よいから大好き。だからどっちも好きだなあ。比べるのはあまり好きじゃないのもあるし」
「えー。そこはヒールって言って欲しかったです。なんだか負けた気分」
エールタインは苦笑いをするが、ティベルダの顔を見ると微笑みに変わり、引っ張られている腕を引っ張り返して抱き寄せた。
「あっ」
「うん、こうするのは久しぶりだね。ティベルダが傍に居るって実感できて安心する。ねえティベルダ、これでボクの気持ち、伝わるかなあ」
ティベルダはエールタインに抱えられたまま小さく頷いた。
「――――はい。エール様は私無しではいられないということがわかりました。うふふ、やっぱりエール様は私のです」
「あーもう、あなたたちはすぐ二人の世界に行ってしまうから困るわ。敵前だということに危機感を持ってちょうだい。ほら、動いて!」
ルイーサは自分に向かって来る兵士に加え、エールタインを襲おうとする者も相手にしている。
スクリアニア兵は絶え間なく現れるため、ヒルデガルドの守りに助けられてはいるもののルイーサの抗戦にも限界が生じ始めていた。
「ご、ごめん! えっと、このままじゃ切りがないから――」
エールタインはティベルダの頭を一撫でしてからルイーサの耳元へ顔を近づけて小声で言った。
「ルイーサ、いっそ元を断とうか」
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ」
「そのままってまさか……スクリアニア公を!?」
エールタインはルイーサの耳元で話し続ける。
「うん。それならすぐに終わらせられるでしょ」
「言うのは簡単だけど、それが出来るなら誰も困っていないわよ」
「ほら、出来たら誰も困らない。なら、やるしかない」
「あなたって人は――」
ルイーサは大きくため息をついてから続けた。
「不思議ね、あなたが言うと出来そうな気がしてしまう。一つ、約束してくれるかしら」
「約束?」
「ええ。その……これまで以上に、あの……な、仲良くしてくれるなら……いい……わ」
俯いて頬を赤らめるルイーサに襲い掛かる剣を盾で防いだヒルデガルドは、ちらりと主人の顔を見てにこりと微笑み、鋭い視線で睨むティベルダへ目をやる。
「ヒルデガルド、この人酷い」
「そんなこと言わないで。あなたの大事な人が無事でいられるためには必要だと思う」
「エール様は私が守るもん!」
「私もこうしてルイーサ様をお守りしているわ、同じよ」
「そっか、ヒルデガルドも……うー、今だけ少し我慢する」
「うふふ、ありがと」
悪い癖が顔を出した少女たちの動きが鈍る。ヴォルフは黙ってその穴を埋めるために体当たりを再開した。
「ほら、ヴォルフが痺れを切らしちゃったじゃない。お話はここまでにして、やるならやりましょ」
ルイーサは両肩を軽く上げて仕方なさを露わにすると、エールタインは顔を近づけて言った。
「十分仲はいいつもりだけど、ルイーサと仲良くできるのは嬉しいからいいよ。でも今以上に仲良くってどうすればいいのかな、うーん」
エールタインはルイーサの肩に手を置いてしばし考える。そしてルイーサが振り向いたところで頬を合わせた。
「あ、あなた何を」
「今まで以上に仲良くなるにはって考えたらしちゃった。気分を悪くさせたらごめんね」
ルイーサはフリーズを仕掛けられたように固まったが、すぐに血が巡って顔を真っ赤に変えた。
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「あー!」
ティベルダは叫んでから駆け出しそうになるが、ヒルデガルドが抱き着いて止めた。
「ティベルダ落ち着いて!」
「むり! むりむりむり!」
首を大きく左右に振ってイヤイヤをするティベルダに、エールタインが言う。
「ティベルダ、早く終わらせて帰ろう。長引くと殺めていることが辛くなるから」
エールタインから言葉を掛けられたティベルダは、少しだけ機嫌を良くして答えた。
「はい……エール様、あの」
「終わったらいっぱいお話出来るから、今はこれを付けてる小娘を手伝って欲しいな」
エールタインは首に掛けている紐を引っ張り出し、上級剣士の証石であるホワイトサファイアを見せて言った。ティベルダはお返しに指輪を見せて答える。
「お話止まらないから覚悟してくださいね、私のご主人様。それで、これからどうするのですか?」
エールタインはルイーサからティベルダの傍へと移って耳元で囁く。ティベルダは妙に楽しそうな微笑みを浮かべて大きく頷いた。
「では道を作りますね」
ティベルダはエールタインの手をそっと握ると、スクリアニアの部隊をじっと見つめて目を紫色へと変えた。
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ぜひ、おいで下さいませ。
どうぞ、熊吉と本作とを、よろしくお願い申し上げます!
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