171 / 218
第四章 ボクたちの町
第十七話 森のざわつきⅢ
しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ、ブーズ東門
レアルプドルフの町長指示のもとに結成されたダン剣聖率いるザラ救援部隊は、ブーズの東門に到着した。
レアルプドルフ東地区――ブーズの区長は、ダンと共に東門まで付いて歩いて近況を説明していた。
「エールタイン様は町壁の作業員たちと合流して、川に到着した頃でしょう。まだ伝令が来ていない上に森も静かなので、ザラに会えてはいないようですが」
「ふむ、エールタインたちを前衛として考えた方が早いな。あの子たちと前衛交代できる編成で後方支援をしよう」
ダンは後ろを振り返り、上級剣士二人を見た。
「今の並びのまま、まず俺たちの班が最初に前衛交代班でいく。交代は早めに決断して俺に伝えてくれ。都度指示を出す」
「ダン様、聞いている流れですと、スクリアニアと交戦することを前提とされているようですが」
ダンは剣の柄先を軽く握って答えた。
「追手は必ず来る。城を出たという情報事態が信じ難い中で、事実だと確認されている以上スクリアニアが見過ごすわけがないだろう。ザラは追われていると考えるべきで、そのまま一斉攻撃に転じる可能性はありうる」
「一斉攻撃――戦争ってことですか?」
「でなければ魔獣討伐隊をそのまま動かしやしねえよ。弓を扱えるようになった剣士には弓も持たせているだろう。誰が決めたのかは知らねえが、何事も舐めてかかるとロクな目に遭わないらしい」
ダンは上級剣士の頭越しに、後ろに並ぶ剣士たちへ声を掛ける。
「これからエールタインの援護を始める。各自上級剣士の指示に従って動くように。俺の弟子とその仲間を安心させてやってくれ」
ダンからの言葉に剣士一同は一斉に答えを返した。
「はい!」
Szene-02 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川東側岸沿い
南北に分かれてザラを追うスクリアニア公に従う兵士たちは、ザラ逃走に関する何かしらの跡が無いか川の両岸に茂る森から川底に至るまで、隈なく探しつつ歩みを進めていた。
「おい、これを見てくれるか」
一人の兵士が何かを見つけて仲間に知らせた。
「石の表面にすり跡――新しいな。魔獣か人かどっちだ」
「魔獣の跡ならば新旧揃ってあちこちにある。獣ならばこの一つだけということに違和感が――ははは、川底にはくっきりと一つ人の足跡があるぞ」
その場にいる兵士全員が、一人ずつ浅い川岸際を覗き込んだ。
「ようやく見つけたか。川の中とはいえ、よくここまで跡を残さなっかったな。俺たちが無能なのかと少々焦りを感じ始めていたところだった。がしかし、あちらさんの失敗でようやくだからな、俺たちもまだまだ訓練が足らないようだ」
「俺たちのことは後回しだ。この向きからすると川を下っているはず。あっちの班を呼び戻して追うぞ」
一人の兵士がもう一つの班のいる方向を指差して言うと、残りの兵士はそれぞれの持つ武器を手に持っていつでも使えるように整えた。
Szene-03 ウンゲホイアー川、西岸森中
エールタインとルイーサたちのデュオは、ブーズの班員たちを置いていくように森を駆け抜けていた。
「ティベルダ、声を聞けていないから寂しいんだけど、何か話して」
ティベルダは、ルイーサとのやりとりで区長に叱られてからというもの、エールタインに対してほぼ話しかけていない。
外では常に手を繋ぎ、話をしながら事をこなしていたエールタインは、違和感を拭いきれずにいた。
エールタインはつないでいる手に力を入れて、ティベルダを急かしてみる。
「エール様」
「うん、何?」
「私、エール様とどのように接したらいいのかわからなくなってしまって。ただ、エール様から離れたくないし、離したくない――あ、これは言っちゃだめなんですよね?」
「やっぱりまだ気にしていたんだ。ボクと二人きりの時は今まで通りでいいよ。都合が悪ければボクが止めるでしょ。ティベルダはボクを独占している気かもしれないけどね、ボクが主人なんだからティベルダを独占しているのはこのボク。ティベルダの主人が離れろなんて言った?」
ティベルダはエールタインの手を握り返して言う。
「言われていません」
「ならそういうこと。ティベルダが離れる方がボクは怒る。ボクとのことが不安になったら指輪を見て。暗い顔をした君は見たくない」
ティベルダはエールタインに言われて指輪を見つめる。
「エール様、その――やっぱり大好きです!」
「うん、知ってる。それならさ、ボクが嫌われているのかなって気にならないように、元気でいてよ」
「――はい!」
エールタインは元気よく返事をしたティベルダのこめかみへ、自分の頬をちょこんと当てた。
「ティベルダ止まって。火が見える」
エールタインは前方に火を目撃したため、後ろに付いて走っていたルイーサとヒルデガルドに向けて、止まるよう背後で手を振った。
「どうしたの?」
「ルイーサ、あそこに火が見える。ザラさんかもしれないからボクが見てくるよ」
「火なんて起こしていたら追手に見つかるじゃない。でもエールタイン、一人で大丈夫?」
「ザラさんかどうか確かめるだけだから。ここからなら一瞬で行って帰って来るよ」
心配そうにするルイーサの横からヒルデガルドが口を挟んだ。
「アムレットに行かせましょうか?」
「見える所まで来ているからボクが行くよ。ザラさんにしてみれば、早くレアルプドルフの人と話をしたいだろうからさ。ザラさんだと分かればルイーサたちを呼ぶからすぐに来て」
「わかったわ、あなたがそう言い出したら止められないものね。違うかもしれないのだから、何かあったら合図してよ」
「もちろん」
ルイーサとヒルデガルドは、エールタインとティベルダが蹴った土の音を耳に残し、走ってゆく二人の背中を見守っていた。
レアルプドルフの町長指示のもとに結成されたダン剣聖率いるザラ救援部隊は、ブーズの東門に到着した。
レアルプドルフ東地区――ブーズの区長は、ダンと共に東門まで付いて歩いて近況を説明していた。
「エールタイン様は町壁の作業員たちと合流して、川に到着した頃でしょう。まだ伝令が来ていない上に森も静かなので、ザラに会えてはいないようですが」
「ふむ、エールタインたちを前衛として考えた方が早いな。あの子たちと前衛交代できる編成で後方支援をしよう」
ダンは後ろを振り返り、上級剣士二人を見た。
「今の並びのまま、まず俺たちの班が最初に前衛交代班でいく。交代は早めに決断して俺に伝えてくれ。都度指示を出す」
「ダン様、聞いている流れですと、スクリアニアと交戦することを前提とされているようですが」
ダンは剣の柄先を軽く握って答えた。
「追手は必ず来る。城を出たという情報事態が信じ難い中で、事実だと確認されている以上スクリアニアが見過ごすわけがないだろう。ザラは追われていると考えるべきで、そのまま一斉攻撃に転じる可能性はありうる」
「一斉攻撃――戦争ってことですか?」
「でなければ魔獣討伐隊をそのまま動かしやしねえよ。弓を扱えるようになった剣士には弓も持たせているだろう。誰が決めたのかは知らねえが、何事も舐めてかかるとロクな目に遭わないらしい」
ダンは上級剣士の頭越しに、後ろに並ぶ剣士たちへ声を掛ける。
「これからエールタインの援護を始める。各自上級剣士の指示に従って動くように。俺の弟子とその仲間を安心させてやってくれ」
ダンからの言葉に剣士一同は一斉に答えを返した。
「はい!」
Szene-02 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川東側岸沿い
南北に分かれてザラを追うスクリアニア公に従う兵士たちは、ザラ逃走に関する何かしらの跡が無いか川の両岸に茂る森から川底に至るまで、隈なく探しつつ歩みを進めていた。
「おい、これを見てくれるか」
一人の兵士が何かを見つけて仲間に知らせた。
「石の表面にすり跡――新しいな。魔獣か人かどっちだ」
「魔獣の跡ならば新旧揃ってあちこちにある。獣ならばこの一つだけということに違和感が――ははは、川底にはくっきりと一つ人の足跡があるぞ」
その場にいる兵士全員が、一人ずつ浅い川岸際を覗き込んだ。
「ようやく見つけたか。川の中とはいえ、よくここまで跡を残さなっかったな。俺たちが無能なのかと少々焦りを感じ始めていたところだった。がしかし、あちらさんの失敗でようやくだからな、俺たちもまだまだ訓練が足らないようだ」
「俺たちのことは後回しだ。この向きからすると川を下っているはず。あっちの班を呼び戻して追うぞ」
一人の兵士がもう一つの班のいる方向を指差して言うと、残りの兵士はそれぞれの持つ武器を手に持っていつでも使えるように整えた。
Szene-03 ウンゲホイアー川、西岸森中
エールタインとルイーサたちのデュオは、ブーズの班員たちを置いていくように森を駆け抜けていた。
「ティベルダ、声を聞けていないから寂しいんだけど、何か話して」
ティベルダは、ルイーサとのやりとりで区長に叱られてからというもの、エールタインに対してほぼ話しかけていない。
外では常に手を繋ぎ、話をしながら事をこなしていたエールタインは、違和感を拭いきれずにいた。
エールタインはつないでいる手に力を入れて、ティベルダを急かしてみる。
「エール様」
「うん、何?」
「私、エール様とどのように接したらいいのかわからなくなってしまって。ただ、エール様から離れたくないし、離したくない――あ、これは言っちゃだめなんですよね?」
「やっぱりまだ気にしていたんだ。ボクと二人きりの時は今まで通りでいいよ。都合が悪ければボクが止めるでしょ。ティベルダはボクを独占している気かもしれないけどね、ボクが主人なんだからティベルダを独占しているのはこのボク。ティベルダの主人が離れろなんて言った?」
ティベルダはエールタインの手を握り返して言う。
「言われていません」
「ならそういうこと。ティベルダが離れる方がボクは怒る。ボクとのことが不安になったら指輪を見て。暗い顔をした君は見たくない」
ティベルダはエールタインに言われて指輪を見つめる。
「エール様、その――やっぱり大好きです!」
「うん、知ってる。それならさ、ボクが嫌われているのかなって気にならないように、元気でいてよ」
「――はい!」
エールタインは元気よく返事をしたティベルダのこめかみへ、自分の頬をちょこんと当てた。
「ティベルダ止まって。火が見える」
エールタインは前方に火を目撃したため、後ろに付いて走っていたルイーサとヒルデガルドに向けて、止まるよう背後で手を振った。
「どうしたの?」
「ルイーサ、あそこに火が見える。ザラさんかもしれないからボクが見てくるよ」
「火なんて起こしていたら追手に見つかるじゃない。でもエールタイン、一人で大丈夫?」
「ザラさんかどうか確かめるだけだから。ここからなら一瞬で行って帰って来るよ」
心配そうにするルイーサの横からヒルデガルドが口を挟んだ。
「アムレットに行かせましょうか?」
「見える所まで来ているからボクが行くよ。ザラさんにしてみれば、早くレアルプドルフの人と話をしたいだろうからさ。ザラさんだと分かればルイーサたちを呼ぶからすぐに来て」
「わかったわ、あなたがそう言い出したら止められないものね。違うかもしれないのだから、何かあったら合図してよ」
「もちろん」
ルイーサとヒルデガルドは、エールタインとティベルダが蹴った土の音を耳に残し、走ってゆく二人の背中を見守っていた。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
凶器は透明な優しさ
楓
恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。
初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている
・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。
姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり
2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・
そして心を殺された
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる