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第四章 ボクたちの町
第三話 歯痒い結果
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Szene-01 レアルプドルフ、武具屋
「少々手こずりやしたが、スクリアニアの動きに関する情報が入りやした」
「ほう、どんな動きがあったんじゃ?」
「それが入りはしたんですがね、数人の行商人から聞き出すのがやっとでして――」
「それは構わん。無理をすると、相手にとって有利な状況を作りやすい。で、何が起きている?」
「兵の修練が活発になっている、というのが一つ。それと、スクリアニア公が衛兵を連れて城から馬を走らせたそうですぜ」
店主は半開きのままだった裏口の扉を閉めて、傍にある椅子に腰かけた。
手下の束ね役も作業台に潜り込んでいる椅子を引き出して座る。
店内では、毎日のように手伝をしに来ている見習い少女剣士が客の対応をしていた。
「おじさんっ、弓の修理と改造の注文ですっ」
作業場の扉が開き、依頼人ごとに分けられている弓を抱えた見習い剣士が覗き込んで店主に伝えた。
「わかりやした。壁に並べておいてくだしゃあ」
「はーい。おいで、さっきと同じように並べるよ」
見習い剣士は従者と共に、依頼品を作業場の壁沿いに立てかけてゆく。
「お願いしまーす」
「はいはい。話が終わったら代わりますで、そしたら休んでくだせえ」
「ありがとうございまーす」
見習い剣士は張りのある声で返事をしながら店内へと向かい、従者は軽い会釈をして扉を閉めた。
「剣より弓の方が相性がよいと言う剣士様が現れてきちまってなあ。ちょいと複雑な気持ちじゃな」
「飛び道具は身を晒さず攻撃が出来やすから、有利に思える人もいる。しかし剣士が目の前に現れたら一溜りもない。やはり剣士が一番だと思いますがね」
「弓の数によるんじゃよ。大勢の弓隊で攻められると近づくことが出来ねえ。弓に対抗するには相応の弓が必要じゃ」
店主は言い終わると、長い鼻息を出してから改めて束ね役の顔を見た。
「ああ、スクリアニアじゃったな。自らどこかへ出向いたと?」
「そうっす。すれ違ったというだけの情報なんすけど、あの城の北方で見かけたとか」
「ほう、自ら出向くとは珍しい。はて、どこへ向かったのか――」
「その一番欲しい情報が手に入りやせんで、自分ももどかしいばかりという始末でして」
「まあまあ。言ったじゃあねえか、無理はしなくていいんじゃよ。あちらさんが動いているのは確か。ならば今わからないことは後にわかるはず、それでいい」
束ね役は店主から言われたことに小さくうなずいた。
Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城門前
傭兵依頼をするため、海賊のアジトへ自ら足を運んだスクリアニア公が帰城した。
アジトから走りづめだった馬は、強く鼻息を吐いて首を揺さぶる。揺れがおさまるのを待ってからスクリアニア公は馬を下りた。城付きの執事が出迎える。
「お帰りなさいませ閣下」
「うむ、城は問題なかったか?」
「はい、至って平穏でございます」
「俺がいないから――お前たちのことだ、そんなところであろう」
「いえ、とんでもございません。兵の修練も欠かさず行われております」
「兵と言えるようになったのか? まあいい、傭兵が加われば少しはマシになるだろう」
スクリアニア公はスタスタと城の門を潜ってゆく。執事は取り急ぎ、馬に乗せられたままの荷物を城内に運び込むよう衛兵や門番に合図を送ってスクリアニア公を追った。
執事は、廊下を早歩きしているスクリアニア公になんとか付いて歩き、交渉の結果を尋ねた。
「依頼は受け入れられたということでしょうか」
「まだわからぬ。金品だけでは動かぬようだ。あいつら仕事の場数を踏んでいる分、交渉にも慣れている。相手の立場などは関係ないようだ。俺が出向いたのは逆効果だったのかもしれんな」
「閣下が直々に出向いたというのに――」
「会話で感じ取る限り、おそらく依頼は受け入れるとは思うが――金品以外の要求があるかもしれんな」
王室に向かって早歩きで近づくスクリアニア公に気付いた女中が、王室の扉を開けて深く礼をする。
スクリアニア公が城内の風を切りながら王室へと入ると、執事の入室を見届けながら女中が扉を閉めた。
「少々手こずりやしたが、スクリアニアの動きに関する情報が入りやした」
「ほう、どんな動きがあったんじゃ?」
「それが入りはしたんですがね、数人の行商人から聞き出すのがやっとでして――」
「それは構わん。無理をすると、相手にとって有利な状況を作りやすい。で、何が起きている?」
「兵の修練が活発になっている、というのが一つ。それと、スクリアニア公が衛兵を連れて城から馬を走らせたそうですぜ」
店主は半開きのままだった裏口の扉を閉めて、傍にある椅子に腰かけた。
手下の束ね役も作業台に潜り込んでいる椅子を引き出して座る。
店内では、毎日のように手伝をしに来ている見習い少女剣士が客の対応をしていた。
「おじさんっ、弓の修理と改造の注文ですっ」
作業場の扉が開き、依頼人ごとに分けられている弓を抱えた見習い剣士が覗き込んで店主に伝えた。
「わかりやした。壁に並べておいてくだしゃあ」
「はーい。おいで、さっきと同じように並べるよ」
見習い剣士は従者と共に、依頼品を作業場の壁沿いに立てかけてゆく。
「お願いしまーす」
「はいはい。話が終わったら代わりますで、そしたら休んでくだせえ」
「ありがとうございまーす」
見習い剣士は張りのある声で返事をしながら店内へと向かい、従者は軽い会釈をして扉を閉めた。
「剣より弓の方が相性がよいと言う剣士様が現れてきちまってなあ。ちょいと複雑な気持ちじゃな」
「飛び道具は身を晒さず攻撃が出来やすから、有利に思える人もいる。しかし剣士が目の前に現れたら一溜りもない。やはり剣士が一番だと思いますがね」
「弓の数によるんじゃよ。大勢の弓隊で攻められると近づくことが出来ねえ。弓に対抗するには相応の弓が必要じゃ」
店主は言い終わると、長い鼻息を出してから改めて束ね役の顔を見た。
「ああ、スクリアニアじゃったな。自らどこかへ出向いたと?」
「そうっす。すれ違ったというだけの情報なんすけど、あの城の北方で見かけたとか」
「ほう、自ら出向くとは珍しい。はて、どこへ向かったのか――」
「その一番欲しい情報が手に入りやせんで、自分ももどかしいばかりという始末でして」
「まあまあ。言ったじゃあねえか、無理はしなくていいんじゃよ。あちらさんが動いているのは確か。ならば今わからないことは後にわかるはず、それでいい」
束ね役は店主から言われたことに小さくうなずいた。
Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城門前
傭兵依頼をするため、海賊のアジトへ自ら足を運んだスクリアニア公が帰城した。
アジトから走りづめだった馬は、強く鼻息を吐いて首を揺さぶる。揺れがおさまるのを待ってからスクリアニア公は馬を下りた。城付きの執事が出迎える。
「お帰りなさいませ閣下」
「うむ、城は問題なかったか?」
「はい、至って平穏でございます」
「俺がいないから――お前たちのことだ、そんなところであろう」
「いえ、とんでもございません。兵の修練も欠かさず行われております」
「兵と言えるようになったのか? まあいい、傭兵が加われば少しはマシになるだろう」
スクリアニア公はスタスタと城の門を潜ってゆく。執事は取り急ぎ、馬に乗せられたままの荷物を城内に運び込むよう衛兵や門番に合図を送ってスクリアニア公を追った。
執事は、廊下を早歩きしているスクリアニア公になんとか付いて歩き、交渉の結果を尋ねた。
「依頼は受け入れられたということでしょうか」
「まだわからぬ。金品だけでは動かぬようだ。あいつら仕事の場数を踏んでいる分、交渉にも慣れている。相手の立場などは関係ないようだ。俺が出向いたのは逆効果だったのかもしれんな」
「閣下が直々に出向いたというのに――」
「会話で感じ取る限り、おそらく依頼は受け入れるとは思うが――金品以外の要求があるかもしれんな」
王室に向かって早歩きで近づくスクリアニア公に気付いた女中が、王室の扉を開けて深く礼をする。
スクリアニア公が城内の風を切りながら王室へと入ると、執事の入室を見届けながら女中が扉を閉めた。
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