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第三章 平和のための戦い
第三十五話 初めての町
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Szene-01 カシカルド王国、ツヴァイロート
レアルプドルフからカシカルド王国女王に謁見するために出向いたダン一行は、ハマンルソス山脈を越えてようやく女王が居住する城のあるツヴァイロート領内に入った。
レアルプドルフしか見ていない少女剣士とその従者たちは、見慣れぬ町のあちこちへ目をやっていた。
「へえ、町の匂いが違うね。見掛ける作業も違うし、面白いなあ」
「建物の形も色々ですね。馬車もいっぱいです」
エールタインとティベルダは、あちこちを見ながら口を開けている。
ルイーサはなぜか不安げな表情をして、ヒルデガルドの手をギュッと握った。
「ヒルデ、そばにいる?」
「はい、しっかりと手をつないでいらっしゃいますけれど」
「ちゃんと隣にいる?」
「はい、山とは違って道が広いですから、真横にいます」
ルイーサとは逆に、ヒルデガルドは笑みを浮かべながら主人と話す。
「ルイーサ様、私はちゃんと付いていますから、気を楽にして見慣れぬ景色をお楽しみくださいませ」
「そ、そうね。アムレットもいるし、大丈夫よね」
「アムレットの顔を見ますか? 周りの目があるので、少しだけですけど」
「お願い」
ヒルデガルドが腰の鞄を半分だけ開けると、ルイーサの目をじっとみるアムレットが鼻をひくひくとさせていた。
「アムレット……元気そうね。大きなしっぽも素敵。ありがとう」
ヒルデガルドは大人しく座ったままのアムレットに木の実を渡すと、鞄のフタを閉じた。
「帰ったらいっぱい走らせてあげましょうね。アムレットも仲間がいないとさびしいでしょうに」
「お仲間さんなら一部はちゃんと付いてきているようです。あの子たちは隠れるのが上手なのでこちらはどこにいるのか分かりませんが。さすがに山は回り込んでいるみたいです」
「そうなのね。山を回り込むのは大変そうだけど、リスなら造作ないことなのかしら」
「普段からあちこち走り回っていますし、無理なら付いては来ないでしょう。おそらく平気なのでしょうね」
ルイーサの緊張を解そうと、ヒルデガルドはアムレット話で気をそらせる。
ルイーサは普段気丈に振る舞っているが根は寂しがりやなので、すぐヒルデガルドに頼る。
従者であるヒルデガルドは、ルイーサが身内には甘えることをよく知っているため、表と裏のギャップを知ってから主人に惹かれるようになった。
ツヴァイロートのことを戦によりよく知っているダンとヘルマ、それにアウフリーゲンの従者ヨハナは淡々と城を目指して歩いてゆく。
エールタインとティベルダは相変わらず目に入るもの全てを一緒に見て、互いに感動し合っている。
ダンが山を背に立つ城を指差しながらエールタインに言う。
「エール、あれが目的地だ。女王のいるところだよ」
「へえ、もっと豪華な建物を想像していたけど、城ってあれぐらいのモノなの?」
「元々この町は国の中心になるような場所ではないんだ。見て感じているとは思うが、お世辞にも王のいる町とは言えない規模だろ?」
「正直……ね。もっとにぎやかなところを想像してた」
「城は昔からこの町にあるただの拠点だったものだ。それを今の女王が改築して、あれでも当時より立派になっているんだよ」
エールタインの後ろでは、ルイーサがダンの説明を食い入るように聞いている。
ダンとの会話が楽しいのか、エールタインは素朴な疑問を続けて言う。
「王がこの町に留まることを決めた理由って何? 余程のことがないとここに決めない気がするんだ」
「ははは、エールのそういう捉え方は好きだぞ。しれっと可愛がりたくなることをしやがる」
ダンと並んで歩くヘルマは、エールタインを見て少しだけ笑みを浮かべた。
「今のが可愛いのかあ。ダンってさ、ボクがやることならなんでも可愛いんじゃないの?」
ヘルマがクスクスと明るく笑った。それを見たエールタインがヘルマに言う。
「よかった、ヘルマが笑ってくれた。ずっと複雑な顔をしていたから心配していたんだよ。どこか調子が悪かったりする? 何かあったらティベルダにヒールを使ってもらおう」
「私でお役に立てるなら、いつでも言ってください!」
話しが自分のことにすり替わってやや驚いた顔をしたヘルマだが、二人の優しさに触れていつもの雰囲気を取り戻した。
「エール様、ありがとうございます。ティベルダもありがと。あなたがいればとっても心強いわ――この町は戦いが終わった場所だから、色々と思い出しちゃうの」
エールタインがヘルマに声を掛けてから不思議そうに見ていたダンは、ヘルマの話を聞いて納得したようだ。
「俺もあの頃のことばかり思い出していた――俺と一緒にいたヘルマも同じ思いになるのは当然だな。今まであえて話さないでいた気がする。色々と話した方が良かったなあ」
「話さずに迎えた結果はこんな感じってことですね。謁見で一気に話すでしょうし」
「だろうなあ。あいつのことだから、またぺらぺらと話すだろう」
「ふふふ、そうですね」
エールタインはダンの話し相手がヘルマに代わって複雑な顔をするが、楽しそうな二人を見て表情を元に戻した。
「なんか楽しそうでいいね。色々経験したからこそなのかな」
「いいなあ。私もエール様とあんな風に話せたらいいな」
「そうしていこうよ。ボクたちの場合はその都度お話したいな」
「はい! いっっっっっぱいお話しましょ!」
ティベルダがエールタインの腕を大きく振って楽しみを表した時、カシカルド城へ向かう道の入り口が眼前にあった。
レアルプドルフからカシカルド王国女王に謁見するために出向いたダン一行は、ハマンルソス山脈を越えてようやく女王が居住する城のあるツヴァイロート領内に入った。
レアルプドルフしか見ていない少女剣士とその従者たちは、見慣れぬ町のあちこちへ目をやっていた。
「へえ、町の匂いが違うね。見掛ける作業も違うし、面白いなあ」
「建物の形も色々ですね。馬車もいっぱいです」
エールタインとティベルダは、あちこちを見ながら口を開けている。
ルイーサはなぜか不安げな表情をして、ヒルデガルドの手をギュッと握った。
「ヒルデ、そばにいる?」
「はい、しっかりと手をつないでいらっしゃいますけれど」
「ちゃんと隣にいる?」
「はい、山とは違って道が広いですから、真横にいます」
ルイーサとは逆に、ヒルデガルドは笑みを浮かべながら主人と話す。
「ルイーサ様、私はちゃんと付いていますから、気を楽にして見慣れぬ景色をお楽しみくださいませ」
「そ、そうね。アムレットもいるし、大丈夫よね」
「アムレットの顔を見ますか? 周りの目があるので、少しだけですけど」
「お願い」
ヒルデガルドが腰の鞄を半分だけ開けると、ルイーサの目をじっとみるアムレットが鼻をひくひくとさせていた。
「アムレット……元気そうね。大きなしっぽも素敵。ありがとう」
ヒルデガルドは大人しく座ったままのアムレットに木の実を渡すと、鞄のフタを閉じた。
「帰ったらいっぱい走らせてあげましょうね。アムレットも仲間がいないとさびしいでしょうに」
「お仲間さんなら一部はちゃんと付いてきているようです。あの子たちは隠れるのが上手なのでこちらはどこにいるのか分かりませんが。さすがに山は回り込んでいるみたいです」
「そうなのね。山を回り込むのは大変そうだけど、リスなら造作ないことなのかしら」
「普段からあちこち走り回っていますし、無理なら付いては来ないでしょう。おそらく平気なのでしょうね」
ルイーサの緊張を解そうと、ヒルデガルドはアムレット話で気をそらせる。
ルイーサは普段気丈に振る舞っているが根は寂しがりやなので、すぐヒルデガルドに頼る。
従者であるヒルデガルドは、ルイーサが身内には甘えることをよく知っているため、表と裏のギャップを知ってから主人に惹かれるようになった。
ツヴァイロートのことを戦によりよく知っているダンとヘルマ、それにアウフリーゲンの従者ヨハナは淡々と城を目指して歩いてゆく。
エールタインとティベルダは相変わらず目に入るもの全てを一緒に見て、互いに感動し合っている。
ダンが山を背に立つ城を指差しながらエールタインに言う。
「エール、あれが目的地だ。女王のいるところだよ」
「へえ、もっと豪華な建物を想像していたけど、城ってあれぐらいのモノなの?」
「元々この町は国の中心になるような場所ではないんだ。見て感じているとは思うが、お世辞にも王のいる町とは言えない規模だろ?」
「正直……ね。もっとにぎやかなところを想像してた」
「城は昔からこの町にあるただの拠点だったものだ。それを今の女王が改築して、あれでも当時より立派になっているんだよ」
エールタインの後ろでは、ルイーサがダンの説明を食い入るように聞いている。
ダンとの会話が楽しいのか、エールタインは素朴な疑問を続けて言う。
「王がこの町に留まることを決めた理由って何? 余程のことがないとここに決めない気がするんだ」
「ははは、エールのそういう捉え方は好きだぞ。しれっと可愛がりたくなることをしやがる」
ダンと並んで歩くヘルマは、エールタインを見て少しだけ笑みを浮かべた。
「今のが可愛いのかあ。ダンってさ、ボクがやることならなんでも可愛いんじゃないの?」
ヘルマがクスクスと明るく笑った。それを見たエールタインがヘルマに言う。
「よかった、ヘルマが笑ってくれた。ずっと複雑な顔をしていたから心配していたんだよ。どこか調子が悪かったりする? 何かあったらティベルダにヒールを使ってもらおう」
「私でお役に立てるなら、いつでも言ってください!」
話しが自分のことにすり替わってやや驚いた顔をしたヘルマだが、二人の優しさに触れていつもの雰囲気を取り戻した。
「エール様、ありがとうございます。ティベルダもありがと。あなたがいればとっても心強いわ――この町は戦いが終わった場所だから、色々と思い出しちゃうの」
エールタインがヘルマに声を掛けてから不思議そうに見ていたダンは、ヘルマの話を聞いて納得したようだ。
「俺もあの頃のことばかり思い出していた――俺と一緒にいたヘルマも同じ思いになるのは当然だな。今まであえて話さないでいた気がする。色々と話した方が良かったなあ」
「話さずに迎えた結果はこんな感じってことですね。謁見で一気に話すでしょうし」
「だろうなあ。あいつのことだから、またぺらぺらと話すだろう」
「ふふふ、そうですね」
エールタインはダンの話し相手がヘルマに代わって複雑な顔をするが、楽しそうな二人を見て表情を元に戻した。
「なんか楽しそうでいいね。色々経験したからこそなのかな」
「いいなあ。私もエール様とあんな風に話せたらいいな」
「そうしていこうよ。ボクたちの場合はその都度お話したいな」
「はい! いっっっっっぱいお話しましょ!」
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