上 下
120 / 218
第三章 平和のための戦い

第二十三話 溢れる気持ちの届け合い

しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ五番地区、地区道

 ヴォルフにブーズの護衛を頼んだエールタインたち四人は、自宅に戻るところである。
 ほっと胸をなで下ろしたヒルデガルドが言う。

「よかったですね、ヴォルフが協力してくれて」
「主人だと認めてからは、ヒルデガルドのために動くことを何よりも優先しているね」

 ティベルダに腕を振る遊びをされながらエールタインが言った。ルイーサも続けて言う。

「ブーズでの巣ってどうしたらいいのか困っていたけれど、確かにあの子たちが探した方がいいわよね。納得いく場所はあの子たちが一番よく知っているのだから」

 ルイーサの家が見えてくると、アムレットの仲間がいる茂みからゴソゴソとざわめくのが聞こえてきた。

「それじゃあね、エールタイン。次の指示に備えて待っているわ。アムレットか茂みの子たちに時々行かせるから、何かあればいつでも言ってちょうだいな」
「ありがと、とっても心強いよ」

 主人同士と従者同士が各々挨拶を交わして自宅を目指す。
 二人きりになった途端、ティベルダは振って遊んでいた主人の腕に抱き着いた。

「えへへ、やっとエール様を独占です」
「二人きりの時間は多いと思うけど、ティベルダは足りないの?」
「ずっと二人きりがいいですから……知っているのに聞くのはあ、言わせたかったってことですかあ?」

 エールタインはティベルダの肩を抱き寄せると、頭を雑に撫でまわした。

「そうだよー。ボクもティベルダに言わせたい時があるんだ」
「どうしてですかあ?」
「あー、主人で遊ぶのをやめないんだね? 今日から一人で寝てもらうよー」
「べ、別にエール様がそれでいいなら私はご主人さまに従うだけです……わかりました、一人で寝るようにします」

 エールタインはその場に止まり、撫でるのをやめてから両手でティベルダの頬を挟んだ。
 ティベルダの両頬が盛り上がるのを見て、エールタインは軽く噴き笑いをした。
 主人の反応を見て、ティベルダの顔には眉間のしわも追加された。

「ぷっ――よーし、それじゃあ今日から別々で寝よう」

 エールタインが頬から手を離すと、ティベルダはブーツの紐を直すように地面へ片膝をついてみる。

「あ、ひもを直さなくっちゃ。全部ほどいてやり直し」

 ぶつぶつ言いながら、ティベルダはタイツで隠されている脚の根元まで裾から出した。
 エールタインは何をするのかとティベルダの様子を見ているが、主人の目線が脚へ向いていることにティベルダは気づく。
 ブーツを直し終わったのか立ち上がり、腕まくりを始めるティベルダ。白くて細い腕が表に出された。

「どこかにぶつけたのかなあ、この辺に傷があったら治さなきゃ」

 独り言を呟きながら、ティベルダは片腕を伸ばして二の腕の裏をのぞくような仕草をする。
 エールタインが半笑いの呆れ顔で口を開いた。

「はあ――はいはい。そんな風にワザとらしく、それも外で肌を見せないように。ボクしかいないからいいけど」
「どうしたんですかあ? 私は気になるから見ただけですよお」
「むう、ティベルダが段々悪い子になっている気がするなあ。主人の愛情が伝わっていないのか、残念だなあ」

 ティベルダが一瞬腰を下げてから、勢いをつけてエールタインの胸に飛び込んだ。

「エール様、大好きッ! ちゃんと相手してくれる素敵なご主人様!」
「あはは、ボクの勝ちだね」
「エール様には初めから負けています。思いっきり負けて、思いっきり愛してもらえたら幸せです」

 ティベルダはエールタインの胸に顔を埋めたまま、幸せそうな顔が止まらない。

「まあ、ボクもティベルダに負けたから選んだのだろうね――いや、勝ち負けじゃなくてさ、会うべくして会ったってことにしない? たぶん、本当にそうだと思うし。だからこそ仲良く出来ていると思うんだ」

 ティベルダが主人の胸から頭を上げて、エールタインの顔をうっとりと見つめる。
 エールタインはそれに答えるように見下ろして、ティベルダの目をじっと見つめ返した。

「ティベルダの目はよく澄んでいてきれいだなあ。じーっと見ちゃう。でもさ、見てると青色がオレンジに変わって、紫色になるんだよね。いつも紫色になったなあってところで記憶がなくなっちゃう」
「……エール様の目もきれいだから、いつも見つめてしまいます。見ていると、この人は私だけのって気持ちが止まらなくなって――気づいたらもう、頭の中はむちゃくちゃになっています」
「無茶苦茶になっているんだ」
「はい。だから紫色と赤色の時って覚えていないし、調整できないんです」

 エールタインはティベルダのおでこから前髪を上げて、顔がよく見えるようにする。

「これから二人でやることがいっぱい待っているはず。国の女王様にあったり、魔獣と一緒に戦うかもしれないし、人もたくさん消してしまうかもしれない。でもこれから起こることは全部二人でやっていくんだ。よろしくね」
「――はい」

 エールタインとティベルダは、自宅が間近に見える道のど真ん中で、二人の時間に浸っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます

こびとのまち
ファンタジー
百合ゲー『フラワーエデン』の世界にTS転生したら、悪役令嬢の取り巻きジト目少女でした。 でも悪役令嬢の末路はたいしたことなかったので、自由気ままに生きていこうと思います。 ジト目少女「悪役なんだし、パンツくらい覗いても……いいよね?」 百合ゲー主人公「ハアハア……そのジト目をわたしに向けて!寮に戻ってイチャイチャしたいよぉ」 悪役令嬢「何かが間違ってます! 何かが間違ってますわ?!」 悪役令嬢として悪名を響かせるはずが、すっかり苦労人ポジになってしまったお嬢様は、今日も嘆きが止まらない――。

処理中です...