118 / 218
第三章 平和のための戦い
第二十一話 対面と作戦の仕込み
しおりを挟む
Szene-01 カシカルド王国、ツヴァイロート
レアルプドルフの町長からローデリカへの手紙を託された一人の剣士が、カシカルド城のある町ツヴァイロートに到着した。
「王国を意識して来たから、城は大都市にあるものだと思ってたけど、普通の町だったのか」
無所属の町で育った町民は、ほとんどの者が山脈を越えた経験はない。
剣士の請け負う案件もほとんどが山脈の中腹までで、まれに峠にある野営地まで旅人や行商人に付き添うことがある程度。
レアルプドルフを抜けている東西街道は、町から山脈までの間にトゥサイしかない。
山脈が大きな壁のようになっている上、行商人やトゥサイとの交易があれば事足りていたため、わざわざ山を越える必要がない。
歩く先に見える別の山脈を背にしたカシカルド城を見つけ、剣士は城を中心に町をキョロキョロと見ながら呟いた。
「これからは山越えも増えそうだな」
Szene-02 レアルプドルフ、ヴォルフ巣穴
エールタインからダンとの話を伝えられたルイーサとヒルデガルドは、早速ヴォルフにブーズを守る手伝いをお願いするために巣穴を訪れていた。エールタインとティベルダも同行している。
「みんな揃ってるね、元気にしてた?」
ヴォルフの一家が一頭ずつ巣穴から出てきて、そのままヒルデガルドに触れながら一周する。
続けてティベルダにも同じように懐いてみせた。
「わあ来てくれた。挨拶してくれるのうれしいな」
ティベルダが懐いてくるヴォルフを順番に撫でていく。従者二人の次に主人二人へ挨拶をするヴォルフ。
「別にかまわないのだけど、私たちが後なのね」
「しかたないよ、魔獣にしてみれば初めに主人となるのがヒルデガルドだから」
「わかってるの。でもちゃんとこうして来てくれるし、別にかまわないのだけど」
頭を撫でられているヴォルフは、頭をぐるりと回してルイーサの手に擦りつけると、エールタインへ移動してゆく。
ヴォルフの口は、人の手ならば難なく頬張れる大きさだ。しかし、懐かれている四人が怯むことは無い。
「可愛いからいいわ」
「ははは。ルイーサは一番じゃないと不満そうだね」
「できれば一番がいいに決まっているじゃない。エールタインにとっても一番だったらって思うわ――あ、今のは忘れて」
ルイーサは思わず口にしたことを隠したくなったのか、次のヴォルフに気を移したフリをしてごまかした。
「ボクの中では一番の友達だけど。だから一番だよ?」
「……あなたってずるい」
「え、なんでえ?」
主人二人のやり取りを、ヒルデガルドが楽しそうに見ていた――ティベルダの様子を伺いながら。
全員に挨拶し終わり、戻って来たヴォルフにヒルデガルドは言った。
「またあなたたちにお願いをしに来たの。できれば遊びだけで来たいのだけど、ごめんね」
ヒルデガルドは座ったヴォルフに囲まれながら、ブーズのことについて話した。
Szene-03 カシカルド王国、カシカルド城王室
レアルプドルフから派遣された剣士は、訪れたツヴァイロートの見物をしながらカシカルド城の敷地内へと足を踏み入れる。
岩肌の山脈を背にしている上、湾曲した川の内側に構えるカシカルド城。
質素な外観ながらも、城に必要な条件は満たしているように見える。
敷地の境界から城を回るように敷かれた道には、複数の門が築かれている。
剣士はそれぞれの門に常駐する門番たちに、門から門へ交代で付き添われて城の内部へと案内される。
「見た目より良く考えられたお城ですね」
「貧弱な砦を改築してようやくここまでになりましたが、まだまだ弱点が多くて。陛下から改築の指示は出っ放しですよ」
案内をする門番は、ローデリカが贔屓にしているレアルプドルフからの客人ということで、不出な事情まで話してしまう。
「城の情報は言わない方が良いのでは?」
「おお、余計な心配をおかけしてしまいました。陛下から丁重に扱うよう言われていたのでつい。しかし情報を漏らすという意味ではないですね。失礼しました」
剣士の方が対応に困ってしまったが、これから会うローデリカの人柄を垣間見たようにも感じる。
案内役が王室付きの侍女に変わるが、始めの門番から侍女に至るまで丁重な扱いを徹底されながら王室に到着した。侍女が王室の扉を叩く。
「陛下、レアルプドルフの剣士様をお連れしました」
「そうか! 話しの場を用意しなさい」
「かしこまりました」
侍女が扉を開けると剣士は部屋へ入るよう促され、緊張した面持ちで入室した。
レアルプドルフの町長からローデリカへの手紙を託された一人の剣士が、カシカルド城のある町ツヴァイロートに到着した。
「王国を意識して来たから、城は大都市にあるものだと思ってたけど、普通の町だったのか」
無所属の町で育った町民は、ほとんどの者が山脈を越えた経験はない。
剣士の請け負う案件もほとんどが山脈の中腹までで、まれに峠にある野営地まで旅人や行商人に付き添うことがある程度。
レアルプドルフを抜けている東西街道は、町から山脈までの間にトゥサイしかない。
山脈が大きな壁のようになっている上、行商人やトゥサイとの交易があれば事足りていたため、わざわざ山を越える必要がない。
歩く先に見える別の山脈を背にしたカシカルド城を見つけ、剣士は城を中心に町をキョロキョロと見ながら呟いた。
「これからは山越えも増えそうだな」
Szene-02 レアルプドルフ、ヴォルフ巣穴
エールタインからダンとの話を伝えられたルイーサとヒルデガルドは、早速ヴォルフにブーズを守る手伝いをお願いするために巣穴を訪れていた。エールタインとティベルダも同行している。
「みんな揃ってるね、元気にしてた?」
ヴォルフの一家が一頭ずつ巣穴から出てきて、そのままヒルデガルドに触れながら一周する。
続けてティベルダにも同じように懐いてみせた。
「わあ来てくれた。挨拶してくれるのうれしいな」
ティベルダが懐いてくるヴォルフを順番に撫でていく。従者二人の次に主人二人へ挨拶をするヴォルフ。
「別にかまわないのだけど、私たちが後なのね」
「しかたないよ、魔獣にしてみれば初めに主人となるのがヒルデガルドだから」
「わかってるの。でもちゃんとこうして来てくれるし、別にかまわないのだけど」
頭を撫でられているヴォルフは、頭をぐるりと回してルイーサの手に擦りつけると、エールタインへ移動してゆく。
ヴォルフの口は、人の手ならば難なく頬張れる大きさだ。しかし、懐かれている四人が怯むことは無い。
「可愛いからいいわ」
「ははは。ルイーサは一番じゃないと不満そうだね」
「できれば一番がいいに決まっているじゃない。エールタインにとっても一番だったらって思うわ――あ、今のは忘れて」
ルイーサは思わず口にしたことを隠したくなったのか、次のヴォルフに気を移したフリをしてごまかした。
「ボクの中では一番の友達だけど。だから一番だよ?」
「……あなたってずるい」
「え、なんでえ?」
主人二人のやり取りを、ヒルデガルドが楽しそうに見ていた――ティベルダの様子を伺いながら。
全員に挨拶し終わり、戻って来たヴォルフにヒルデガルドは言った。
「またあなたたちにお願いをしに来たの。できれば遊びだけで来たいのだけど、ごめんね」
ヒルデガルドは座ったヴォルフに囲まれながら、ブーズのことについて話した。
Szene-03 カシカルド王国、カシカルド城王室
レアルプドルフから派遣された剣士は、訪れたツヴァイロートの見物をしながらカシカルド城の敷地内へと足を踏み入れる。
岩肌の山脈を背にしている上、湾曲した川の内側に構えるカシカルド城。
質素な外観ながらも、城に必要な条件は満たしているように見える。
敷地の境界から城を回るように敷かれた道には、複数の門が築かれている。
剣士はそれぞれの門に常駐する門番たちに、門から門へ交代で付き添われて城の内部へと案内される。
「見た目より良く考えられたお城ですね」
「貧弱な砦を改築してようやくここまでになりましたが、まだまだ弱点が多くて。陛下から改築の指示は出っ放しですよ」
案内をする門番は、ローデリカが贔屓にしているレアルプドルフからの客人ということで、不出な事情まで話してしまう。
「城の情報は言わない方が良いのでは?」
「おお、余計な心配をおかけしてしまいました。陛下から丁重に扱うよう言われていたのでつい。しかし情報を漏らすという意味ではないですね。失礼しました」
剣士の方が対応に困ってしまったが、これから会うローデリカの人柄を垣間見たようにも感じる。
案内役が王室付きの侍女に変わるが、始めの門番から侍女に至るまで丁重な扱いを徹底されながら王室に到着した。侍女が王室の扉を叩く。
「陛下、レアルプドルフの剣士様をお連れしました」
「そうか! 話しの場を用意しなさい」
「かしこまりました」
侍女が扉を開けると剣士は部屋へ入るよう促され、緊張した面持ちで入室した。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる