上 下
117 / 218
第三章 平和のための戦い

第二十話 主人の意地悪と魔獣との仲

しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ、ルイーサ家

 ダンから大事な話のおあずけを食らったエールタインは、ティベルダと共にルイーサの家を訪れていた。

「アムレットが来てくれない。ヒルデガルドはまだ帰っていないみたいですね」

 ルイーサの家に到着したエールタインとティベルダだが、いつもなら真っ先に現れるアムレットの姿が無いことで留守だと知った。

「ティベルダあ、ルイーサも入れてあげなよ」
「えー、あー、ルイーササマモマダノヨウデスネ」
「ははは、ルイーサは嫌われてるなあ。ボクは付き合いやすくて好きだけど」

 ティベルダはエールタインの口から出された「好き」に頬を膨らませる。

「好きなんですかあ? 私よりも? 私の次に? エールさまあ」
「もう、分かって聞いてるでしょ。主人を困らせたいのかな?」

 つないでいる手を振っていたティベルダだが、エールタインにグイッと引かれて倒れそうになった。

「あっ」

 エールタインはティベルダの上半身を傾けて抱え、そのままキスをしてから言う。

「ティベルダが一番好き、これを言わせたいんだよね?」

 鼻の頭をくっつけてさらに言う。

「あんまり何度も聞かれるとさ、少し悲しくなる。ボクの気持ちは伝わらないの?」

 唇が触れそうで触れない距離にしてささやいた主人に、ティベルダは答えた。

「私、いつもエール様を感じていたいから――」

 ティベルダは間近にある主人の唇に触れようとするが、エールタインはティベルダが唇を近づけるのに合わせて顔を引く。

「……キ、キスが、逃げちゃう」
「いい子ならいつでもさせてあげる。今はおあずけだよ」
「そんなあ」

 ティベルダが残念な表情へと変わるが、その時を狙っていたかのようにエールタインがキスをした――いや、何かに頭を押された。

「ん、うわっ!」

 態勢を崩したエールタインになすすべは無く、そのままティベルダと共に地面へと倒れる。

「キキッ」
「アムレット!?」

 エールタインの腕を枕にして、地面に倒れているティベルダが声を上げた。
 それを聞いてエールタインが言う。

「びっくりしたあ。ティベルダ、大丈夫?」
「はい、私はエール様とキスができましたし。エール様こそ大丈夫ですか?」
「なんとか受け身が間に合ったから大丈夫。ティベルダの頭も守れた」
「腕枕っていいですね。今日はこれで寝たいです」
「グルルルル」

 ティベルダの耳元でアムレットが鳴いた。振り向いてティベルダが尋ねる。

「どうしたのアムレット? ご機嫌斜めね」
「グルルルル」
「ありがと。でもね、エール様は何も悪くないのよ。だから怒らないで」

 アムレットは、ティベルダの頬に鼻をツンと付けてから走り去った。
 エールタインは今のやり取りについてティベルダに聞く。

「アムレットはなんて?」
「エール様が私に意地悪をしていると思って、キスをさせようとエール様に乗ったそうです」
「そうなの!? アムレットはティベルダの味方かあ」
「ちょっと、私の家の前でイチャつかないでくれる?」

 肩にアムレットを乗せたヒルデガルドと共にルイーサが現れ、家主として苦情を伝えた。
 エールタインはティベルダと共に半身を起こし、先に立ち上がってからティベルダに手を貸す。
 ティベルダの後ろを払って土を落としてあげながら、エールタインは言った。

「ボクたちも来たばかりだよ」
「遅れてしまってごめんなさいね。私たちが早く帰っていれば、ティベルダが楽しむ暇も無かったはずだし」
「ルイーサあ。せっかくティベルダの機嫌を良くしたのに、台無しになっちゃうよ」
「そんなつもりは無いのだけど、つい、ね。お話があるのよね? 中に入りましょ」

 ルイーサはエールタインの話をさらっと流して、ツカツカと家の玄関へ歩いてゆく。

「ティベルダ、いらっしゃい」

 ヒルデガルドもルイーサに付いて行きながら、ティベルダにひと声かけた。

Szene-02 レアルプドルフ、ダン家

 ヘルマの部屋ではヨハナとヘルマが長い時間語り合い、ようやくヘルマが落ち着いたところだ。

「ありがと、ヨハナ。いずれ来るとわかっていた時だけど、いざ来ると弱気になっちゃった」
「しかたないわ。心にしまっておくのって、とても大変なことだから。たまには吐き出さないと。私なら聞いてあげられるんだから、気にせず使ってちょうだいな」

 ヘルマは、一度大きく頷いてにっこり笑って見せてから言った。

「そろそろダン様のところへ行かないと。従者らしく、ね」

 ヘルマが両頬をパチパチと叩いてから、部屋を出ようとヨハナに目で合図をする。
 ヨハナはヘルマの表情を見て安心をしたのか、笑みを浮かべてヘルマに続いて部屋を出た。

Szene-03 レアルプドルフ、ルイーサ家

 ダンと話したブーズの今後について、エールタインはルイーサに伝えた。

「そう、攻める準備を進めているのね。ヴォルフには壁の建築でも手伝ってもらったし、お願いするのは有りだと思うけれど」

 主人二人がしっかり話せるようにと、ヒルデガルドはティベルダとアムレットを囲んで遊んでいる。

「茂みにはアムレットのお友達がいっぱいいるんでしょ?」
「そうよ。でもみんなよく働いてくれるから、交代であちこち見に行っているみたいなの」
「すごいね。アムレットはヒルデガルドのお供をしているし、みんないい子だよね」

 ティベルダは人差し指をあちこちに動かして、アムレットが前足でつかむのを楽しんでいる。

「あのねティベルダ。あなたから出ている光石の気配って、私より強いみたいよ」
「そうなの?」
「ええ。手懐けた子たちはみんなティベルダへの甘えが強いの。だからもしかしたら、ティベルダも私と同じように手懐けられるんじゃないかしら」

 アムレットが、ティベルダの指をつかもうと真剣になっていた。それを楽しみながらティベルダが答える。

「もしそうだとしても、必要ならってぐらいかな。私はヒルデガルドが魔獣たちの主って方が好き」
「ありがと。なんだか妙に嬉しくなっちゃった」

 従者二人の話が進む中、主人たちの話もサクサクと進んでいた。

「ヴォルフに助けてもらうのはいいとして、あの巣とブーズの行き来がかわいそうね。ブーズ側にも巣を用意できないかしら」
「確かに、いくら足が速くても面倒そうだね。でもヴォルフの巣を用意するのってどうしたらいいのかな」
「ヒルデ、何か案はないかしら?」

 主人の問いにヒルデガルドはすぐに反応した。

「助けてもらうのでしたら、また直接会ってお願いするので、その時に聞いてみます」
「ここはヒルデに任せた方が良さそうね。こちらが勝手に決めることではなさそう」

 ヒルデガルドは、ルイーサとエールタインに向けて軽い会釈で承諾を伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。

太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。 鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ 春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。 一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。 華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。 ※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。 春人の天賦の才  料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活  春人の初期スキル  【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】 ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど 【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得   】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】 ≪ 生成・製造スキル ≫ 【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】 ≪ 召喚スキル ≫ 【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...