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第三章 平和のための戦い

第十八話 報告と次の作戦

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Szene-01 レアルプドルフ、ダン家

 エールタイン達と同じくして、武具屋からの伝令がダン家に到着した。

「エールタイン様?」

 玄関扉を叩こうとしたエールタインは、声の主へと振り返った。

「だれ……ですか?」
「すいやせん。武具屋からダン様へお伝えすることがありやして」
「武具屋から?」

 エールタインの問いに手下が答えようとした時、ダンが扉を開けた。

「ん、誰だ。ああ、エールたちか。どした?」
「うん。区切りがついたから報告だよ、それと――」

 エールタインが後ろへ手先を向けると、手下は軽く会釈をした。

「ダン様、店主からお伝えしたいことが――」
「お前もいたのか。まあ入れや」

 エールタインの腕に抱き着きながら手下を見ていたティベルダは、腕に顔を擦りながら家の中へ振り返る。それをきっかけに足を進めたデュオに続いて、手下も玄関を潜った。

「あれ、二人はいないの?」

 普段なら、家に入るとヨハナかヘルマに声を掛けられるはずだが、明るい二人の声が響いてこない。
 二人の気配に気づいたティベルダが主人に言う。

「お部屋にいるみたいですよ、エール様」
「ほほう。ティベルダはわかるのか?」

 エールタインの質問に答えようとしたダンだが、先にティベルダが答えたことに驚いたようだ。

「はい」
「ティベルダはね、最近少しずつ能力が高くなっているみたいだよ」

 エールタインがティベルダの返事に続けて言うと、ティベルダは嬉しそうに主人の顔を見上げた。

「新しい能力がお目見えしたのか?」
「新しいわけではないと思う……ティベルダ、そうだよね?」
「エール様は気付いていたのですか? えっと、ヒールに気持ちを混ぜ込めるようになった――そんな感じです」

 ダンはティベルダに近づき、にっこりと笑いながら分厚い手で頭を撫でて言った。

「成長と共に能力まで強化されていくのか? お前なら、俺が思うよりもエールをしっかりと支えてくれそうだな。いい子だ。エールタインを喜ばせてやってくれ」

 ティベルダは主人の師匠から褒められて、タレ目がさらに下がるほどにっこりと微笑んでいる。

「ダン様」

 蚊帳の外に置かれてしまった手下が、ダンに声を掛けた。

「おっと、すまんすまん。可愛い子を優先しちまったな。エール、すまんがこっちで待っていてくれるか?」
「わかった。気になることはあったけど、おじさんの話は急用だろうから。後でゆっくり聞いてね」

 軽く手を挙げるとダンは手下と共に自室へと向かった。
 エールタインたちはダンの家に住んでいた時と同じように、暖炉のある部屋の床に座ってくつろぐことにした。

「ダンに褒められて良かったね、ティベルダ。ボクも嬉しいよ」

 エールタインはティベルダの手を引いて、背中からギュッと抱きしめてから頭を撫でる。

「私はエール様に甘えているだけで……それでエール様がうれしくなってくださるなら、もっと甘えちゃいますよ?」
「甘えてくれないほうがイヤだよ。ティベルダならいいんだ、理由なんてどうでもいい。ティベルダがそばにいてくれることが、何より幸せなんだ」
「エールさま――」

 ティベルダは、自分を抱きしめている主人の腕に頬ずりをして、甘えを仕草で伝えた。

Szene-02 ダンの部屋

「スクリアニアが港から武器を調達しているようです」

 ダンの部屋に入るや否や、武具屋の手下が言う。

「まあ、遅かれ早かれそうなることは分かっていたが……早いな」
「うちの頭もそう言っていました。武器の種類はまだわかっていません」
「そりゃあ弓だろうな」
「弓、ですか!?」
「驚くことじゃあねえよ。こっちが剣だけでやってきたことは、あちらさんどころか、どこにでも知られていることだ。魔獣のおかげで騎馬隊や弓隊が来れないだけ。俺たちじゃなく、魔獣にやられちまうからな」

 ダンは肩ひじを机に掛けて、手下の緊張をほぐすような空気を作る。
 剣聖の落ち着いた言い回しで、手下は息を落ち着かせる。ダンは続けて言う。

「ところがブーズに壁が出来ちまった。壁が無くても攻めあぐねていたってのに、これで明らかに攻め込みにくくなったわけだ。あそこの公爵の性格からすれば、選択するのは諦めるではなく、攻め込むになるだろう」

 手下は剣聖の話を一つ一つうなずきながら真剣な面持ちで聞いていた。

「離れて攻撃が出来るから弓だと、俺が勝手に考えているだけだ。武器が何なのか分かるまでは想像でしかない。これからエールとブーズについて話をするから、その辺も含めて対策を考える。彼にはそう伝えておいてくれ。引き続き情報を頼むともな」
「わかりやした」

 話にキリが付くと、手下はすぐに立ち上がってダンに軽い会釈をした。

「では、失礼しやす」

 ダンは姿勢を変えずに片手を挙げて答えた。

「さて、可愛い連中と渋い話をするか」

Szene-03 カシカルド王国、カシカルド城王室

 ローデリカからの説教を受けたあと、秘書官は続けて指示を出されていた。落ち込む暇もなくせっせと仕事に励む。

「弓の経験者はいないから、修練用も要りますね。差し当たり、ブーズの分があればいいので――」

 指示を出しながら、ぶつぶつと算段を口に出す秘書官。通りすがりに王室付きの侍女がちらりと見ながら言う。

「やってるやってる。必死になってしまってるじゃない。今度は疲れて倒れなければいいけど」
「あのお、秘書官とは親しい間柄でいらっしゃるのですか?」

 侍女に付いている女中の一人が聞いた。

「ふふふ。あなたたちは私についての妄想で楽しんでいるのね。よく話しているから思うのでしょうけど。お互いにね、陛下から突然役目を仰せつかったの」

 早歩きについてくる女中たちの足音を聞きながら、侍女は続ける。

「秘書官は剣士だから任命されても不思議ではなかったけれど、私はこの町が占拠された時に偶然陛下と目が合ってね。ただの町民だった私に「あなた、いい目をしてるね。私に付いてよ」って」
「陛下って、そのように仰ることがあるのですか?」
「ふふ。陛下は元々とても明るい方でね、剣士仲間とのやりとりなんて友達にしか見えなかったわ。可愛くて素敵だなあって。思わず返事をして侍女になったの」

 城の中を早歩きで移動しながら、侍女と女中は陛下の裏話に花を咲かせていた。

Szene-04 ダン家

 エールタインとティベルダは、待ち時間で出来上がった二人の世界を満喫している。
 それに気づいたかは定かでないが、武具屋の手下が家を出ていった。
 エールタインたちは物音など全く気にしていなかったが、手下に続いてダンが現れると二人の時間は終了した。

「待たせたな……お邪魔だったか?」

 ティベルダに抱き着いたままエールタインが振り返る。

「なんで? ダンと話が出来ない方がすっきりしなくて困るよ」
「何かあったのか?」

 エールタインはティベルダから離れて、ダンが座った食卓へと移動する。
 ティベルダもエールタインの後を追い、隣の席に座った。

「スクリアニアの人がブーズの壁を見たらしくて、それを伝えに戻っていったんだ」
「お前たちは見られた現場にいたのか」
「うん。ヒルデガルドがいたから、アムレットが教えてくれてね。ヴォルフもいたから止めることはできたけど、あえて逃がしたよ」

 ダンは両肘を机について手を組んだ。エールタインをじっと見ながら話す。

「泳がせたのか。武具屋からもそれに絡んだ情報が届いた。どうやら武器を調達しているらしい。壁の知らせが届くより前でないと話の辻褄が合わない。遅かれ早かれこちらを攻撃する気だったとみえる。エールの町壁建築が提案されなかったら危なかった」
「やった! ボクもダンに褒められた。だけど攻められないようにと思って考えたのに、攻める気なのかあ、残念」

 エールタインは肩を落とす。ティベルダが透かさず主人の手を握った。

「強引に町を抱き込んで一気にでかくなりやがったから、調子に乗っているんだろう。魔獣には悩まされているみたいだが――そういやあ、ヒルデガルドのことはバレていないか。まさか魔獣を味方に付けているとは思いもしないだろうな」

 エールタインはヒルデガルドの名前が出たとたん、背もたれから離れて前のめりになる。

「そうだね! ヴォルフが仲間になっているだけでもなんとかなりそう。相手より先手が打てているのかな」
「お前たちのおかげで随分とありがたい状況になっている。この形を崩さないようにしないとな」

 エールタインは先ほどとは違い、ホッとした様子で背もたれに体を預ける。
 続けてティベルダの手を強く握り返し、思いついたことを口にする。

「町の西側は気にしなくてもいいよね?」
「ああ。だがまったくという訳にはいかないから、トゥサイ担当の番人は置くがな」
「それなら、ヴォルフたちにブーズの森へ移動してもらおうかな」
「ヴォルフの巣は西だったな」
「あの子たちも巣が気になるから、頼んでも少し残るみたいだけどね。それはそれで、西が安心できていいよね」

 話しが進むにつれてダンも微妙な緊張感が解けてきたようだ。エールタインと同じく椅子の背もたれに体を預けた。
 エールタインが続けて言う。

「ボクはルイーサたちにこの話をするね。彼女たちと一緒に行動していいでしょ?」
「むしろその方がいいだろう……ブーズに関しちゃエールに任せるのが一番になったからな」
「えへへ。だってさ、まだ西地区の人たちってブーズに触れにくいでしょ? ボクたちが動いていれば隔たりは無くなると思うんだ」

 ダンは身を起こし、エールタインを見つめて言う。

「エール、お前まだ十五歳だよな」
「ちょっと、ダンがボクの歳を確認するなんて寂し過ぎるんだけど」
「いやいや、そういう意味でなくてだな。師匠として褒めているだけだ、ありがたく受け取っとけ」

 ダンはエールタインの頭を雑に撫でて気持ちを伝えると、エールタインは素直に微笑んだ。
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