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第三章 平和のための戦い

第七話 主人の弾けた思い

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Szene-01 レアルプドルフ、エールタイン家

 トゥサイ村への準備は各地で着々と進められている。
 その中でも特に重要な役を任されている、エールタインとティベルダの二人。
 自宅にて装備など――そう、装備などを準備中である。

「修練をしていない証拠だね。しっかり防具を付けると動きにくく感じちゃうよ」

 内政の手伝いをしていたため、剣の修練は全くと言っていいほど出来ていなかった。

「ティベルダ、一人で出来る?」
「出来ますよー。エール様は私が何も出来ないと思っていませんか?」
「色んなことが出来る凄い子だと思っているよ――可愛いし」

 ティベルダは装備を付ける手が止まり、ゆっくりと主人へ振り返る。
 エールタインの顔を見ると、頬を赤くした。

「あのー、急にそういうこと言わないでください……ドキッとします」
「あれ? いつも言っているつもりだったけど、言ってなかったっけ?」
「言われますけど、今のはドキッとしたんです」
「可愛いって言うのも難しいんだね。そっかあ、ティベルダを可愛がるのは難しいのかあ」

 エールタインがワザとらしく言ってみせると、ティベルダはお返しとばかりに主人を睨む。

「エ、エール様がお望みなら、可愛がり難くします……けど。でも私しか可愛がってはいけませんよ。私はエール様のであって、エール様は私のですから。エール様が可愛がるのは私であって、私はエール様だけが好きで。だから――――」

 両手を握り締めて必死に語るティベルダに、エールタインが飛びつくように抱きついた。
 エールタインの両腕は、ティベルダが全く動けなくなるほどに締め付けてゆく。
 力を増しながらティベルダを左右に揺さぶるエールタイン。

「か……かわいい! ティベルダはズルいよ。ヒールでボクの気分を良くしてさ、可愛いところばかり見せて。ボクのこと好きで、離れないし。ボクのなら黙って構われてなよ」

 エールタインは、抱きしめから抱き上げに変わっていき、ティベルダの足がブラブラと揺れている。

「うー、ふむ……ふも、エール様。苦し嬉しいです――」

 ティベルダは思いっきり抱きしめられて、息苦しいながらも嬉しいと伝える。
 しかし、エールタインの耳には届いていないようで、抱きしめを止める気配がない。

「寝る時抱きしめているのに、いつ抱きしめても嬉しくなっちゃう」

 エールタインは、モゾモゾと首を動かしているティベルダを見て、腕の力を抜く。
 抱きしめから解放されたティベルダは、エールタインをじっと見て呟いた。

「まったく、もっと好きにさせてどうする気ですか! 気が狂いそうです」

 プンプンと怒ったように喋るティベルダは、エールタインの手を握って続けた。

「どうなっても知りませんよ? 私はあなたを離しません。たとえこの指輪で指が切れても」

 左中指にはめられている主従関係の証、銀の指輪を摩りながらティベルダは言った。

「うーん、ティベルダには何をされても嫌じゃないからなー。指輪が発動するようなことにはならないよ。そうはさせないし――気にならなくなっていたけど、この指輪でもつながっていたね」
「……指輪でも?」
「そう、指輪でも。今は指輪だけじゃなくて心もつながっているよね? だから指輪でも、だよ」
「エール様――」

 ティベルダの両腕が無意識に、そして優しくエールタインを抱きしめた。
 エールタインも反射的に抱きしめ返す。

「いけない、準備しなきゃ。つい二人の時間に酔ってしまうなあ。さあティベルダ、手伝うから装備を着けよう」

 エールタインはティベルダを椅子に座らせてブーツを履かせる。

「はむ」
「え!?」
「へへ。一度してみたかったんだー」

 ティベルダのふくらはぎに、甘噛みしたエールタイン。ティベルダは反応に困っている。

「固まっちゃった。してみたかっただけだから。もうしないよ。驚いたならごめん」
「いえ……エール様ってこういうことしないと思っていたから。私は平気ですし、むしろ嬉しいです。あ、でもキスするからこういうのもあるの――かな」

 エールタインは少し顔を赤くして言う。

「それ以上言わないで。恥ずかしくなってきた。えっと、ちゃんと準備をしよう。そうだよ、準備準備」

 妙に慌ててティベルダに防具を着けていくエールタイン。
 ティベルダは、主人にたっぷり構ってもらえて満面の笑みを浮かべていた。
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