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第三章 平和のための戦い
第一話 兄妹と新米剣士
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Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城
レアルプドルフの東に、町村を半ば強引に取り込んで領土を広げた国がある。
――――スクリアニア公国。
十年ほど前、スクリアニアが侵攻を続けている中、標的となったレアルプドルフ。
しかしレアルプドルフの剣士は、剣術はもちろんのこと地の利も生かしてスクリアニアの攻撃を退けた。
それ以来、両者の一触即発状態が続く。
「次の飯はまだか!」
「お持ちしました」
「俺が言う前に持ってくるのがお前の役目だろ! お前も捨てるか」
「も、申し訳ございません! もっと早く動くように――」
「謝罪など要らないんだよ! 俺の口を無駄な事に使わせるな!」
スクリアニアを治めるのは、ロイベア公カルゲン。
その息子であるフォルター卿は、普段通り朝から八つ当たりをしていた。
「ったく、雇った俺が間抜けに見えるじゃねえか」
食事中のはずだが部屋の隅では、一人の少女が怯えながら兄をじっと見ている。
乱れた前髪の間から上目遣いをしている妹、ケイテ。
ケイテの目線に気付いた兄のフォルターが言う。
「なんだ? 飯を食べろよ。俺と同じ血が流れているお前には何もしねえ」
ケイテは静かに立ち上がると、ゆっくり歩いて食事の並ぶ机へと向かった。
「お前も俺と同じ被害者だ。だけどな、地位を味方に付けている――なんとかなるさ」
兄の言葉を聞きながら、ケイテはゆっくりと椅子を引いて座る。
食事を見つめたまま動こうとしない。
「食べられるうちに食べておけ。こんな家、いつ崩壊するかわからねえんだ。どこで反乱が起きてもおかしくない。贅沢は出来る時にしておかないと、出来なくなってからは夢でしかなくなる」
くちゃくちゃと音を鳴らしながら雑に食べるフォルター。
ケイテも兄に従い小さな口へパンをねじ込んだ。
口へ持っていく度に袖から白い腕が現れ、青あざが浮かび上がる。
フォルターは食べる手は止めずに、ちらりと妹を見た。
「大丈夫か?」
ケイテは兄と同じく食べる手を止めずに小さくうなずいた。
「耐えられなかったら言えよ。邪魔ぐらいなら俺にもできる」
その言葉を最後に、食べ終わるまで言葉が交わされることは無かった。
Szene-02 ダン家
エールタインとルイーサが主人を務めるデュオは、ダン家を訪れていた。
ブーズの町壁建築計画も第一段階を終了したところだ。
二組のデュオは剣聖宅で緊張を解いていた。
「みんな、相変わらず仕事が速い。なんだか私も嬉しくなってしまうわ」
ヨハナはハーブティを振舞いながら言った。
火を起こしていない暖炉前の床でくつろぐ四人。
ヨハナの話がきっかけとなり、四人の会話が弾む。
「まさかもう終わるなんてね。完成する瞬間を見たときは、ボクも安心を感じたよ」
「そうね、確かに。ただ、あれだけきれいな森に壁が出来てしまって、残念でもあるけれど」
エールタインに続けてルイーサが言った。
アムレットを構いながらヒルデガルドが話に加わる。
「でもまた攻め込まれたら、森はひどく荒らされてしまうでしょう。壁があれば森も守れます」
ルイーサが言う。
「ヒルデも壁が出来て安心したの?」
「はい。一番はブーズが無事であることですから」
エールタインが数回うなずく。
「これで次にすることがトゥサイ村への侵攻――このなんとも言えない感覚に慣れないと、剣士としてやっていけないんだよね」
攻めるための防御作りを提案したエールタイン。
だが、一つ目線を変えて考えると狙いがブレてしまう。
「気にしたらだめよ、エールタイン。この町を中心に考えなさいね。レアルプドルフの剣士なのだから、この町を守ることを考えるの。でないと、ティベルダのヒールでも治せない病にかかるわ」
ルイーサがティベルダへ目を向ける。
ティベルダは一瞬驚くが、ルイーサの言葉には同意した。
「エール様、私たちの平和を邪魔しようとする相手を止めるための侵攻です。戦いという形ですけど、この町を守るため。守りたいとお考えのエール様が病んでは、私も一緒に病みます」
「ティベルダが病むというのは……嫌だな。ごめんよ、侵攻って言葉にも慣れていかないと。はあ、ボクはまだまだだね」
ルイーサがエールタインの膝に手を当てて言う。
「私たちってまだ新米剣士よ。一緒に慣れていきましょ。先は長いわ」
ヨハナは、エールタインたちが使った防具の手入れをしながら、会話の弾む四人を眺めて目を細くしていた。
レアルプドルフの東に、町村を半ば強引に取り込んで領土を広げた国がある。
――――スクリアニア公国。
十年ほど前、スクリアニアが侵攻を続けている中、標的となったレアルプドルフ。
しかしレアルプドルフの剣士は、剣術はもちろんのこと地の利も生かしてスクリアニアの攻撃を退けた。
それ以来、両者の一触即発状態が続く。
「次の飯はまだか!」
「お持ちしました」
「俺が言う前に持ってくるのがお前の役目だろ! お前も捨てるか」
「も、申し訳ございません! もっと早く動くように――」
「謝罪など要らないんだよ! 俺の口を無駄な事に使わせるな!」
スクリアニアを治めるのは、ロイベア公カルゲン。
その息子であるフォルター卿は、普段通り朝から八つ当たりをしていた。
「ったく、雇った俺が間抜けに見えるじゃねえか」
食事中のはずだが部屋の隅では、一人の少女が怯えながら兄をじっと見ている。
乱れた前髪の間から上目遣いをしている妹、ケイテ。
ケイテの目線に気付いた兄のフォルターが言う。
「なんだ? 飯を食べろよ。俺と同じ血が流れているお前には何もしねえ」
ケイテは静かに立ち上がると、ゆっくり歩いて食事の並ぶ机へと向かった。
「お前も俺と同じ被害者だ。だけどな、地位を味方に付けている――なんとかなるさ」
兄の言葉を聞きながら、ケイテはゆっくりと椅子を引いて座る。
食事を見つめたまま動こうとしない。
「食べられるうちに食べておけ。こんな家、いつ崩壊するかわからねえんだ。どこで反乱が起きてもおかしくない。贅沢は出来る時にしておかないと、出来なくなってからは夢でしかなくなる」
くちゃくちゃと音を鳴らしながら雑に食べるフォルター。
ケイテも兄に従い小さな口へパンをねじ込んだ。
口へ持っていく度に袖から白い腕が現れ、青あざが浮かび上がる。
フォルターは食べる手は止めずに、ちらりと妹を見た。
「大丈夫か?」
ケイテは兄と同じく食べる手を止めずに小さくうなずいた。
「耐えられなかったら言えよ。邪魔ぐらいなら俺にもできる」
その言葉を最後に、食べ終わるまで言葉が交わされることは無かった。
Szene-02 ダン家
エールタインとルイーサが主人を務めるデュオは、ダン家を訪れていた。
ブーズの町壁建築計画も第一段階を終了したところだ。
二組のデュオは剣聖宅で緊張を解いていた。
「みんな、相変わらず仕事が速い。なんだか私も嬉しくなってしまうわ」
ヨハナはハーブティを振舞いながら言った。
火を起こしていない暖炉前の床でくつろぐ四人。
ヨハナの話がきっかけとなり、四人の会話が弾む。
「まさかもう終わるなんてね。完成する瞬間を見たときは、ボクも安心を感じたよ」
「そうね、確かに。ただ、あれだけきれいな森に壁が出来てしまって、残念でもあるけれど」
エールタインに続けてルイーサが言った。
アムレットを構いながらヒルデガルドが話に加わる。
「でもまた攻め込まれたら、森はひどく荒らされてしまうでしょう。壁があれば森も守れます」
ルイーサが言う。
「ヒルデも壁が出来て安心したの?」
「はい。一番はブーズが無事であることですから」
エールタインが数回うなずく。
「これで次にすることがトゥサイ村への侵攻――このなんとも言えない感覚に慣れないと、剣士としてやっていけないんだよね」
攻めるための防御作りを提案したエールタイン。
だが、一つ目線を変えて考えると狙いがブレてしまう。
「気にしたらだめよ、エールタイン。この町を中心に考えなさいね。レアルプドルフの剣士なのだから、この町を守ることを考えるの。でないと、ティベルダのヒールでも治せない病にかかるわ」
ルイーサがティベルダへ目を向ける。
ティベルダは一瞬驚くが、ルイーサの言葉には同意した。
「エール様、私たちの平和を邪魔しようとする相手を止めるための侵攻です。戦いという形ですけど、この町を守るため。守りたいとお考えのエール様が病んでは、私も一緒に病みます」
「ティベルダが病むというのは……嫌だな。ごめんよ、侵攻って言葉にも慣れていかないと。はあ、ボクはまだまだだね」
ルイーサがエールタインの膝に手を当てて言う。
「私たちってまだ新米剣士よ。一緒に慣れていきましょ。先は長いわ」
ヨハナは、エールタインたちが使った防具の手入れをしながら、会話の弾む四人を眺めて目を細くしていた。
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