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第二章 剣士となりて
第五十話 計画完了
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Szene-01 ブーズ北地区、北西の森
ブーズを囲む町壁の建築は、任命された班の手際が良く、順調に進んだ。
残すは北西の一部だけとなっている。
最初の計画である東地区――いわゆるブーズを壁で囲むという作業が完了する。
「随分早かったですね。みなさん、さすがです」
エールタインたちは、区長と共に完成を見届けに来た。
区長は手を後ろで組み、壁を見渡して満足気な顔をしている。
「いやあ、安心感がありますな。エールタイン様、ありがとうございます」
「いいえ――ボクの方こそ、こんな小娘の言葉に耳を傾けてくださった方々に、感謝しないといけません」
エールタインとティベルダの横には、ルイーサ達が並んでいる。
ヒルデガルドがティベルダに声を掛けた。
「ティベルダ、そちらはどうだった?」
「怪しい人とか魔獣とか、戦うようなことが無かったから大丈夫だったよ。エール様と一緒にお散歩できてうれしかったあ」
ヒルデガルドはティベルダの返事に微笑む。
「私もずっとルイーサ様とあちこち見て回ったけど、西で歩くのとは違って楽しかったわ」
従者二人は、主人と二人きりの時間を満喫したようだ。
楽しそうに話す二人を見て、作業を交代した班員が二人に尋ねる。
「ところで、ティベルダとヒルデガルドは東地区だろ? 何か能力は出せたのかい?」
笑い合っていたティベルダとヒルデガルドの動きが止まった。
二人はそれぞれの主人へゆっくりと振り返る。
主人たちは従者二人の横にいるので、質問は聞こえている。
エールタインがティベルダに片手を見せて、代わりに答える合図をした。
「西ではまだ言わない方がいいので、内密にしてもらえますか?」
「持っているのですね……わかりました。区長?」
振られた区長は大きくうなずいて言う。
「今ここで聞く者は口にしないように。他の者には私から伝えておきますよ。実は私も気になっていましたからな、はっはっは」
区長の笑いで、緊張した空気になりそうだった場が和む。
エールタインも話しやすくなったのか、区長に軽く会釈をした。
ティベルダの頭に手を乗せ、質問に答える。
「ではティベルダから。今までにヒール、フリーズ、バースト・レイジの三つを発揮しています。まだ上手く操りきれていない面がありますが、どれも高い能力ですね」
「おお!」
話の聞こえる者たちは、皆口を揃えて感嘆の声をあげる。
「ヒールだけでも凄いのに、三つもですか。おまけに他の二つは珍し過ぎる」
「フリーズとバースト・レイジについては、まだよくわかっていません。これから調べていくつもりです」
ティベルダが優しい笑顔を絶やしていない。
頭に乗せられたエールタインの手が、いつしか撫でていたからのようだ。
「ヒルデガルドは――」
エールタインは、ちらりとルイーサを見る。
ルイーサから話すよう目で促され、エールタインがそのまま続けた。
「魔獣を手懐けることができます。今のところ、リスとヴォルフに成功しています」
「魔獣を!? それも素晴らしい。他の国で飼われている獣と同じように扱うことができるかも知れない」
「焦らないであげてください。彼女一人では限界がありますし、まだ色々と試している段階なので」
ヒルデガルドは戸惑ったが、ルイーサが背中に手を当てるとホッとした表情になった。
腰の小鞄にいるはずのアムレットも静かにしている。
ヒルデガルドの不安を払拭するかのように、区長がエールタインの意見に賛成する。
「そうですよ、みなさん。どんな能力を持っているかを聞いただけ。いいですね?」
「つい気持ちが高ぶってしまって。みんな! 優秀な子を送り出せているようだ」
西地区へ送り出した子たちが、どのように扱われているのか。
一方的に報酬が送られてくるだけの側からすれば、気にするのは当然であろう。
これまでの憂いが緩和されたようで、休んでいる者と作業中の者、区長も含めて笑顔を浮かべていた。
Szene-02 レアルプドルフ、町役場
ダンとヘルマは、町の西側対策と今後の動きについて話すため、町役場に来ている。
最近は役場の隅にある談話席で、二人と町長が話している光景が日常化してきた。
「ほう、トゥサイの村長がねえ」
「やましい証拠ですね。逃げられないようにしたいと思うのですが――」
町長はダンに、トゥサイ村の村長が荷物をまとめているという情報を伝えたところだ。
ダンは手をあごに持っていき、しばし考える。
役人たちの作業音だけが耳に入る中で、ダンは案が浮かんだようだ。
「何か仕事を与えてやる――というのはどうか。それも次から次へと」
ダンの案を聞いた町長は、話に合わせて言う。
「仕事が舞い込み続ければ、常に人の目が向くことに――ふむ、面白いかもしれませんな」
「地味ではあるが、監視ができる。構わず逃げ出せばそれを合図に占領へ」
ダンと町長は交互に話している。
掛け合いが進むにつれ、笑みがこぼれてゆく二人をヘルマはじっと見ていた。
町長がダンに続けて言う。
「東の壁がほぼ完成だとか。民はとても良い働きをしたようですな。予想よりはるかに早く仕上げてしまった」
「様子を見に行った剣士の話では、エールタインとルイーサが話す時、真剣に聞いていたそうだ」
「受け入れられた、ということですか。やはり英雄の血のなせるわざ――なのでしょうな」
二人の掛け合いが止まり、再び役人たちの作業音だけが届く談話席。
そこでようやくヘルマが口を開いた。
「それなら……いつでもトゥサイを制圧できますね」
剣聖と元領主は一瞬固まる――そして一気に解けた。
「なんと間抜けな……小細工なんぞ考える必要は無い。エールたちがやり遂げたというのに、師匠がそれを抜きに考えるとは。エールに謝らねばならんな」
「同じく。ですが、やるべき事を進めてからにしましょう。早速支度に入りますか」
ヘルマの一言で掛け合いが止まり、話がすんなりと進み出した。
どうやらヘルマは、話し始めから気付いていたようだ。
ダンは、またしてもヘルマに踊らされていたのかもしれない。
ブーズを囲む町壁の建築は、任命された班の手際が良く、順調に進んだ。
残すは北西の一部だけとなっている。
最初の計画である東地区――いわゆるブーズを壁で囲むという作業が完了する。
「随分早かったですね。みなさん、さすがです」
エールタインたちは、区長と共に完成を見届けに来た。
区長は手を後ろで組み、壁を見渡して満足気な顔をしている。
「いやあ、安心感がありますな。エールタイン様、ありがとうございます」
「いいえ――ボクの方こそ、こんな小娘の言葉に耳を傾けてくださった方々に、感謝しないといけません」
エールタインとティベルダの横には、ルイーサ達が並んでいる。
ヒルデガルドがティベルダに声を掛けた。
「ティベルダ、そちらはどうだった?」
「怪しい人とか魔獣とか、戦うようなことが無かったから大丈夫だったよ。エール様と一緒にお散歩できてうれしかったあ」
ヒルデガルドはティベルダの返事に微笑む。
「私もずっとルイーサ様とあちこち見て回ったけど、西で歩くのとは違って楽しかったわ」
従者二人は、主人と二人きりの時間を満喫したようだ。
楽しそうに話す二人を見て、作業を交代した班員が二人に尋ねる。
「ところで、ティベルダとヒルデガルドは東地区だろ? 何か能力は出せたのかい?」
笑い合っていたティベルダとヒルデガルドの動きが止まった。
二人はそれぞれの主人へゆっくりと振り返る。
主人たちは従者二人の横にいるので、質問は聞こえている。
エールタインがティベルダに片手を見せて、代わりに答える合図をした。
「西ではまだ言わない方がいいので、内密にしてもらえますか?」
「持っているのですね……わかりました。区長?」
振られた区長は大きくうなずいて言う。
「今ここで聞く者は口にしないように。他の者には私から伝えておきますよ。実は私も気になっていましたからな、はっはっは」
区長の笑いで、緊張した空気になりそうだった場が和む。
エールタインも話しやすくなったのか、区長に軽く会釈をした。
ティベルダの頭に手を乗せ、質問に答える。
「ではティベルダから。今までにヒール、フリーズ、バースト・レイジの三つを発揮しています。まだ上手く操りきれていない面がありますが、どれも高い能力ですね」
「おお!」
話の聞こえる者たちは、皆口を揃えて感嘆の声をあげる。
「ヒールだけでも凄いのに、三つもですか。おまけに他の二つは珍し過ぎる」
「フリーズとバースト・レイジについては、まだよくわかっていません。これから調べていくつもりです」
ティベルダが優しい笑顔を絶やしていない。
頭に乗せられたエールタインの手が、いつしか撫でていたからのようだ。
「ヒルデガルドは――」
エールタインは、ちらりとルイーサを見る。
ルイーサから話すよう目で促され、エールタインがそのまま続けた。
「魔獣を手懐けることができます。今のところ、リスとヴォルフに成功しています」
「魔獣を!? それも素晴らしい。他の国で飼われている獣と同じように扱うことができるかも知れない」
「焦らないであげてください。彼女一人では限界がありますし、まだ色々と試している段階なので」
ヒルデガルドは戸惑ったが、ルイーサが背中に手を当てるとホッとした表情になった。
腰の小鞄にいるはずのアムレットも静かにしている。
ヒルデガルドの不安を払拭するかのように、区長がエールタインの意見に賛成する。
「そうですよ、みなさん。どんな能力を持っているかを聞いただけ。いいですね?」
「つい気持ちが高ぶってしまって。みんな! 優秀な子を送り出せているようだ」
西地区へ送り出した子たちが、どのように扱われているのか。
一方的に報酬が送られてくるだけの側からすれば、気にするのは当然であろう。
これまでの憂いが緩和されたようで、休んでいる者と作業中の者、区長も含めて笑顔を浮かべていた。
Szene-02 レアルプドルフ、町役場
ダンとヘルマは、町の西側対策と今後の動きについて話すため、町役場に来ている。
最近は役場の隅にある談話席で、二人と町長が話している光景が日常化してきた。
「ほう、トゥサイの村長がねえ」
「やましい証拠ですね。逃げられないようにしたいと思うのですが――」
町長はダンに、トゥサイ村の村長が荷物をまとめているという情報を伝えたところだ。
ダンは手をあごに持っていき、しばし考える。
役人たちの作業音だけが耳に入る中で、ダンは案が浮かんだようだ。
「何か仕事を与えてやる――というのはどうか。それも次から次へと」
ダンの案を聞いた町長は、話に合わせて言う。
「仕事が舞い込み続ければ、常に人の目が向くことに――ふむ、面白いかもしれませんな」
「地味ではあるが、監視ができる。構わず逃げ出せばそれを合図に占領へ」
ダンと町長は交互に話している。
掛け合いが進むにつれ、笑みがこぼれてゆく二人をヘルマはじっと見ていた。
町長がダンに続けて言う。
「東の壁がほぼ完成だとか。民はとても良い働きをしたようですな。予想よりはるかに早く仕上げてしまった」
「様子を見に行った剣士の話では、エールタインとルイーサが話す時、真剣に聞いていたそうだ」
「受け入れられた、ということですか。やはり英雄の血のなせるわざ――なのでしょうな」
二人の掛け合いが止まり、再び役人たちの作業音だけが届く談話席。
そこでようやくヘルマが口を開いた。
「それなら……いつでもトゥサイを制圧できますね」
剣聖と元領主は一瞬固まる――そして一気に解けた。
「なんと間抜けな……小細工なんぞ考える必要は無い。エールたちがやり遂げたというのに、師匠がそれを抜きに考えるとは。エールに謝らねばならんな」
「同じく。ですが、やるべき事を進めてからにしましょう。早速支度に入りますか」
ヘルマの一言で掛け合いが止まり、話がすんなりと進み出した。
どうやらヘルマは、話し始めから気付いていたようだ。
ダンは、またしてもヘルマに踊らされていたのかもしれない。
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