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第二章 剣士となりて
第四十三話 思い焦がれる
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Szene-01 カシカルド王国、ツヴァイロート
数々の町や村が所属している国の一つ、カシカルド王国。
主要都市ツヴァイロートには、国を治める女王ローデリカが住まうカシカルド城がある。
レアルプドルフへ派遣された人材調査員は、護衛と共に城へ戻ってきた。
門を潜って場内へ入ると、歩いている秘書官と目が合った。
「おお! ご無事で何より」
「ありがとうございます。遅くなって申し訳ありません」
「山越えがある上で謁見となれば、それなりの時間が掛かるものですよ。寧ろ早くて驚いています」
遅くなったことを気にしていた調査員は、帰りが早いと言われて胸をなでおろしたようだ。
門を潜る時まで硬かった表情が徐々に柔らかくなってゆく。
秘書官は王室のある方向へ手を差し向けて言う。
「陛下は部屋におられますよ」
「……はい。すぐに向かいます」
「ああ、陛下は物思いにふけってはいますが、落ち着いていらっしゃいますからね」
秘書官は、調査員の口調から気にしていることを悟ったのか、ローデリカの様子を教えた。
「ふう、そうですか……では結果をお伝えに行きます」
「ええ。どんな知らせでも、あなたが無事であることと、レアルプドルフの様子が分かれば、陛下はお喜びになられますよ」
「はい」
調査員はほっとした様子で王室を目指した。
秘書官はその姿を見送りながら呟く。
「少しは元気になってくれると良いのですが」
Szene-02 レアルプドルフ、エールタイン家
ブーズでの町壁増築計画について代表者たちに話をしたエールタイン。
差し当たり、すでに設置されている街道の門を改築することから始める。
そのための役割分担を決めて初日は終わった。
ヨハナから、もう少しダン家で泊まってはどうかと提案されたが、数日空けていた自宅へ帰ることにした。
「大丈夫そうだね。じゃあ入ろっか」
念のために家の周囲を見回り、状態を確認してから家に入る。
「ダンの家に感覚が戻っていて、扉を開けるのに違和感を感じちゃう」
「私たちのおうちですよ! またゆっくり二人の匂いにしましょう」
エールタインがランタンを灯し、家内を照らす。
昼間とは違って赤色を発した壁には、二人の影がゆらゆらと浮かび上がっている。
「匂い?」
「そうです。二人で住み始めて間もない上に空けてしまったので、まだ木から出る香りが木の匂いのままじゃないですか」
エールタインは天井へ目をやり、ティベルダの言っていることを整理してみる。
「ええっと、要するにボクたちの家に成り切っていないってこと?」
ティベルダは、思いっきりエールタインに抱き着いた。
「そうです、その通りです! 私のご主人様は素敵過ぎです!」
抱き着きながら顔を擦りつけるティベルダ。
いつもの事になっているためか、エールタインはそのまま次のランタンを灯しに動く。
「ティベルダってさ、ボクのことが何でも素敵に見えるんだね」
「だって、素敵なんですもん」
「そうなの?」
「そうです」
玄関から暖炉前までにあるランタンを灯し終わり、二人は床に座った。
「お疲れさま。とうとうブーズで話しちゃった」
「エール様、お疲れ様です。お話はみんな驚いたみたいでしたけど、エール様のお気持ちはしっかり伝わったみたいでした」
「ほんと!? それなら嬉しいな。ティベルダの手を握って必死に話してたから、上手く話せているかすら分からなかったんだ」
ティベルダの目がオレンジ色に変わる。
ヒールを始めたようだ。
「あれ? ボク元気だよ」
「いいえ、体が冷えてきています。少し温めようと思って」
「そっか、暖炉に火を入れてなかったね。このままじゃ寝られないから」
エールタインはティベルダの頭に手をやり、ヒールを止めさせた。
「ティベルダ、ヒールは随分加減ができるようになってきたね。偉いよ」
「そうですか? 嬉しい」
ティベルダは、エールタインと常に手を繋いでいることで、主人の様々な状況での変化を感じ取っていた。
それにより、ヒールを発動するか否か、するならどれぐらいか、という加減を自然に出来るようにさせていたようだ。
「ティベルダの能力……いや、能力を持っている人たちについてもっと知りたいな」
暖炉の中から薪の爆ぜる音が響く。
徐々に大きくなる炎の前で、エールタインはティベルダを抱き寄せた。
「知らない方がいいかもしれない。でも、能力があるから困っている人もいるような気がしているんだ」
「エール様は優し過ぎます。まずは町壁を作りましょう。その事だけを考えてくださいね」
ティベルダがエールタインへ進言をした。
エールタインは頬にキスをしてから言う。
「うわあ、ティベルダが成長している。はあ……凄く安心しちゃった」
エールタインはティベルダの頭を抱えたり強く抱き締めたりしている。
嬉しい気持ちを感じてもらえる形で伝えようと、半ば必死とも取れるほどに構う。
「エール様、ちゃんと伝わっていますよ。ちゃんと――」
暖炉の火のように、徐々に気持ちを揺らしながら高ぶらせるエールタイン。
ティベルダは主人の溢れる思いを黙って受け止めていた。
数々の町や村が所属している国の一つ、カシカルド王国。
主要都市ツヴァイロートには、国を治める女王ローデリカが住まうカシカルド城がある。
レアルプドルフへ派遣された人材調査員は、護衛と共に城へ戻ってきた。
門を潜って場内へ入ると、歩いている秘書官と目が合った。
「おお! ご無事で何より」
「ありがとうございます。遅くなって申し訳ありません」
「山越えがある上で謁見となれば、それなりの時間が掛かるものですよ。寧ろ早くて驚いています」
遅くなったことを気にしていた調査員は、帰りが早いと言われて胸をなでおろしたようだ。
門を潜る時まで硬かった表情が徐々に柔らかくなってゆく。
秘書官は王室のある方向へ手を差し向けて言う。
「陛下は部屋におられますよ」
「……はい。すぐに向かいます」
「ああ、陛下は物思いにふけってはいますが、落ち着いていらっしゃいますからね」
秘書官は、調査員の口調から気にしていることを悟ったのか、ローデリカの様子を教えた。
「ふう、そうですか……では結果をお伝えに行きます」
「ええ。どんな知らせでも、あなたが無事であることと、レアルプドルフの様子が分かれば、陛下はお喜びになられますよ」
「はい」
調査員はほっとした様子で王室を目指した。
秘書官はその姿を見送りながら呟く。
「少しは元気になってくれると良いのですが」
Szene-02 レアルプドルフ、エールタイン家
ブーズでの町壁増築計画について代表者たちに話をしたエールタイン。
差し当たり、すでに設置されている街道の門を改築することから始める。
そのための役割分担を決めて初日は終わった。
ヨハナから、もう少しダン家で泊まってはどうかと提案されたが、数日空けていた自宅へ帰ることにした。
「大丈夫そうだね。じゃあ入ろっか」
念のために家の周囲を見回り、状態を確認してから家に入る。
「ダンの家に感覚が戻っていて、扉を開けるのに違和感を感じちゃう」
「私たちのおうちですよ! またゆっくり二人の匂いにしましょう」
エールタインがランタンを灯し、家内を照らす。
昼間とは違って赤色を発した壁には、二人の影がゆらゆらと浮かび上がっている。
「匂い?」
「そうです。二人で住み始めて間もない上に空けてしまったので、まだ木から出る香りが木の匂いのままじゃないですか」
エールタインは天井へ目をやり、ティベルダの言っていることを整理してみる。
「ええっと、要するにボクたちの家に成り切っていないってこと?」
ティベルダは、思いっきりエールタインに抱き着いた。
「そうです、その通りです! 私のご主人様は素敵過ぎです!」
抱き着きながら顔を擦りつけるティベルダ。
いつもの事になっているためか、エールタインはそのまま次のランタンを灯しに動く。
「ティベルダってさ、ボクのことが何でも素敵に見えるんだね」
「だって、素敵なんですもん」
「そうなの?」
「そうです」
玄関から暖炉前までにあるランタンを灯し終わり、二人は床に座った。
「お疲れさま。とうとうブーズで話しちゃった」
「エール様、お疲れ様です。お話はみんな驚いたみたいでしたけど、エール様のお気持ちはしっかり伝わったみたいでした」
「ほんと!? それなら嬉しいな。ティベルダの手を握って必死に話してたから、上手く話せているかすら分からなかったんだ」
ティベルダの目がオレンジ色に変わる。
ヒールを始めたようだ。
「あれ? ボク元気だよ」
「いいえ、体が冷えてきています。少し温めようと思って」
「そっか、暖炉に火を入れてなかったね。このままじゃ寝られないから」
エールタインはティベルダの頭に手をやり、ヒールを止めさせた。
「ティベルダ、ヒールは随分加減ができるようになってきたね。偉いよ」
「そうですか? 嬉しい」
ティベルダは、エールタインと常に手を繋いでいることで、主人の様々な状況での変化を感じ取っていた。
それにより、ヒールを発動するか否か、するならどれぐらいか、という加減を自然に出来るようにさせていたようだ。
「ティベルダの能力……いや、能力を持っている人たちについてもっと知りたいな」
暖炉の中から薪の爆ぜる音が響く。
徐々に大きくなる炎の前で、エールタインはティベルダを抱き寄せた。
「知らない方がいいかもしれない。でも、能力があるから困っている人もいるような気がしているんだ」
「エール様は優し過ぎます。まずは町壁を作りましょう。その事だけを考えてくださいね」
ティベルダがエールタインへ進言をした。
エールタインは頬にキスをしてから言う。
「うわあ、ティベルダが成長している。はあ……凄く安心しちゃった」
エールタインはティベルダの頭を抱えたり強く抱き締めたりしている。
嬉しい気持ちを感じてもらえる形で伝えようと、半ば必死とも取れるほどに構う。
「エール様、ちゃんと伝わっていますよ。ちゃんと――」
暖炉の火のように、徐々に気持ちを揺らしながら高ぶらせるエールタイン。
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