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第二章 剣士となりて
第四十話 森が引き出す思い
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Szene-01 東西街道、ブーズの森
レアルプドルフを東西に分けるグレンゼ川を渡り切ったダン一行。
ブーズを囲む森へと入ってゆく。
「この道は変わらないな。色んなことを思い出しちまう」
「ダン様がブーズへ顔を出す日が再び訪れるなんて。町が変わる時が来たのでしょうね」
十年前の防衛戦により貧富の差が目立つようになったレアルプドルフ。
貧しい者は光石や森で入手できる資材などを売る生活へと変えていった。
森は防衛戦が激しかった場所であるため、剣士たちは寄り付かなくなる。
「中途半端な交流しかしてこなかった俺は情けない奴だ」
ダンは親友の意志を継いでいないように感じている。
「時間が空いたのは確かですが、今こうしてブーズを訪れるのです。ちゃんと受け継いでいるではないですか」
ヘルマはダンに非は無いと補足した。
しかしダンは首を横に振る。
「いや、受け継いでいるのはエールなんだよ。あの子こそ常にブーズへの考えを改めたいと言い続けてきた。あいつのおかげでこの面を出せるのだから」
ヘルマはダンの顔を覗き込んで言った。
「あの、私はブーズ出身です。その私がブーズへ足を運んでくださることに感激しているんですよ? これまでダン様に仕えてきたことを、今更がっかりさせないでくださいね」
そう言うとヘルマは、歴戦を支えたとは思えない美しい手を握り、拳をダンの腹に軽く当ててみせた。
「ははは、主人の隙を突くとは。俺は従者に恵まれているな。お前がいなければ、再びこの地を踏むことなどできなかったはずだ」
「感謝するのは私ですよ。こんな冗談を受け止めてくれるご主人様に仕えることができているのですから」
ブーズを間近にして、普段は隠している思いが溢れて語り合う二人。
今回の計画が、あえて抑えていたものを引き出すきっかけとなったようだ。
エールタインもそんな二人と同じく、ティベルダに胸の内を語っていた。
「一度来てはいるけどさ、ブーズのために何かをしたいって考えがあるだけだった。ティベルダ、来るの二度目だよ? もう実現しに来たって言えるなんてね」
数あるデュオの中で、手を繋いで歩くことが当たり前となっている組はまだいない。
今のところ唯一と言えるデュオの従者、ティベルダは主人に言う。
「アウフリーゲン様の熱い思いと、それを受け継いだご主人様の強い思いが導いてくれたのですよ。そんなご主人様に見つけてもらえた私は、それだけで幸せ者なのです」
手のひら繋ぎから指を絡ませるティベルダ。
それを自然に受け入れるエールタイン。
手を繋いで歩く二人の後ろでルイーサは躊躇していた。
「私たちって、場違いな気がしてきたわ」
「いいえ、ルイーサ様。エールタイン様からの要請で出向いているのです。指揮を執るエールタイン様から一緒に指揮を執って欲しいと」
「そ、そうかしら……ねえ、エールタイン?」
ルイーサは勢いでエールタインに声を掛けてしまった。
「ん? どうしたのルイーサ」
「その……本当に私で良かったのかしら」
エールタインはルイーサに振り返り足を止めた。
にっこり笑って質問に答える。
「緊張してきたの? なんだ、ルイーサって可愛い人だ。頼んで良かった」
エールタインはティベルダには気づかれないように、ウインクを贈った。
ルイーサは片手を胸に当てて真顔になってしまい、ヒルデガルドの手を握る。
「私、倒れるかと思ったわ」
「エールタイン様は、ドキッとすることを無意識にされますね」
「そこが魅力ではあるのだけど、心がそれに追いつけない。やっぱり好き」
ヒルデガルドも頬を赤くする主人を見て、心を熱くしていた。
レアルプドルフを東西に分けるグレンゼ川を渡り切ったダン一行。
ブーズを囲む森へと入ってゆく。
「この道は変わらないな。色んなことを思い出しちまう」
「ダン様がブーズへ顔を出す日が再び訪れるなんて。町が変わる時が来たのでしょうね」
十年前の防衛戦により貧富の差が目立つようになったレアルプドルフ。
貧しい者は光石や森で入手できる資材などを売る生活へと変えていった。
森は防衛戦が激しかった場所であるため、剣士たちは寄り付かなくなる。
「中途半端な交流しかしてこなかった俺は情けない奴だ」
ダンは親友の意志を継いでいないように感じている。
「時間が空いたのは確かですが、今こうしてブーズを訪れるのです。ちゃんと受け継いでいるではないですか」
ヘルマはダンに非は無いと補足した。
しかしダンは首を横に振る。
「いや、受け継いでいるのはエールなんだよ。あの子こそ常にブーズへの考えを改めたいと言い続けてきた。あいつのおかげでこの面を出せるのだから」
ヘルマはダンの顔を覗き込んで言った。
「あの、私はブーズ出身です。その私がブーズへ足を運んでくださることに感激しているんですよ? これまでダン様に仕えてきたことを、今更がっかりさせないでくださいね」
そう言うとヘルマは、歴戦を支えたとは思えない美しい手を握り、拳をダンの腹に軽く当ててみせた。
「ははは、主人の隙を突くとは。俺は従者に恵まれているな。お前がいなければ、再びこの地を踏むことなどできなかったはずだ」
「感謝するのは私ですよ。こんな冗談を受け止めてくれるご主人様に仕えることができているのですから」
ブーズを間近にして、普段は隠している思いが溢れて語り合う二人。
今回の計画が、あえて抑えていたものを引き出すきっかけとなったようだ。
エールタインもそんな二人と同じく、ティベルダに胸の内を語っていた。
「一度来てはいるけどさ、ブーズのために何かをしたいって考えがあるだけだった。ティベルダ、来るの二度目だよ? もう実現しに来たって言えるなんてね」
数あるデュオの中で、手を繋いで歩くことが当たり前となっている組はまだいない。
今のところ唯一と言えるデュオの従者、ティベルダは主人に言う。
「アウフリーゲン様の熱い思いと、それを受け継いだご主人様の強い思いが導いてくれたのですよ。そんなご主人様に見つけてもらえた私は、それだけで幸せ者なのです」
手のひら繋ぎから指を絡ませるティベルダ。
それを自然に受け入れるエールタイン。
手を繋いで歩く二人の後ろでルイーサは躊躇していた。
「私たちって、場違いな気がしてきたわ」
「いいえ、ルイーサ様。エールタイン様からの要請で出向いているのです。指揮を執るエールタイン様から一緒に指揮を執って欲しいと」
「そ、そうかしら……ねえ、エールタイン?」
ルイーサは勢いでエールタインに声を掛けてしまった。
「ん? どうしたのルイーサ」
「その……本当に私で良かったのかしら」
エールタインはルイーサに振り返り足を止めた。
にっこり笑って質問に答える。
「緊張してきたの? なんだ、ルイーサって可愛い人だ。頼んで良かった」
エールタインはティベルダには気づかれないように、ウインクを贈った。
ルイーサは片手を胸に当てて真顔になってしまい、ヒルデガルドの手を握る。
「私、倒れるかと思ったわ」
「エールタイン様は、ドキッとすることを無意識にされますね」
「そこが魅力ではあるのだけど、心がそれに追いつけない。やっぱり好き」
ヒルデガルドも頬を赤くする主人を見て、心を熱くしていた。
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