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第二章 剣士となりて

第三十八話 出発

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Szene-01 ダン家

 エールタインは、ヨハナに仕立ててもらった装備を身に着ける。
 その横ではティベルダも、ヨハナがこっそり新調していた武具を装着していた。

「エール様はこれでいいでしょう。はい、ティベルダもね」

 途中まで自分で装着していたティベルダは、にっこり笑って動きを止めた。
 ヨハナが手伝ってくれると分かって「はい!」と言わんばかりに両腕をㇵの字に広げる。

「ティベルダは甘えるのが上手だから、構いたくなるのよね」

 ヨハナはティベルダの前で床に膝を付け、ティベルダの前髪を撫でる。
 そして顔をしっかりと見ながら言う。

「あなたはブーズの防衛を指揮するエール様の従者。今までより立ち場が上がるわ。言葉遣いや振る舞いを、これまで以上に気を遣うこと。私たちブーズ出身者として特訓の成果を見せる時。相応の恰好をしましょうね」

 ヨハナは柔らかい表情を見せつつも、先輩従者ならではの言葉を贈った。
 それを聞いたティベルダは、両腕をㇵの字にしたまま固まっている。
 クスクスと笑いながら、着々と装備を取り付けてゆく。
 エールタインはティベルダの頬を人差し指で撫でながら言う。

「ティベルダはボクと一緒にブーズを助けるんだ。ボクが剣士として、ティベルダはブーズ代表として。ボク達二人がブーズ防衛に携わる事に意味がある。二人じゃなきゃだめなんだよ。緊張することなんてない。剣士として町を守る、それだけさ」

 エールタインの話に区切りがついたところで、ヨハナは装着を完了させた。

「ねえヨハナ。ティベルダを可愛くし過ぎじゃない?」
「気づきました? せっかくの大仕事。ここで気合を入れない理由は無いですよ」
「気合の入れどころが――」

 ティベルダはミニワンピースにタイツとロングブーツ。
 エールタインも同じ恰好だ。
 これはヘルマと同じスタイルである。

「エール様がすぐに女性だと分かる姿をして外出されるなんて、町の人達は驚くでしょうね」
「恥ずかしいなあ。戦いの時はいつもの服にするからね」
「今回はブーズの民と話すために必要な事なので我慢してくださいな」
「分かっているよ」

 エールタインは短い裾を引っ張りながら言う。
 ティベルダはうっとりとエールタインを見つめている。

「エール様、素敵。でも少し残念」

 ヨハナが尋ねる。

「あら、素敵なのにどうして?」
「だって、ダン家の家族だけが見られる女性エール様なのに」

 エールタインの家着は、ティベルダと同じくラフなミニワンピースが多い。
 町の気温は低めのため、防寒としてロングワンピースやストールを巻くこともあるが、ティベルダと寝る時はワンピースのみである。

「ティベルダは一緒に寝ているのだから独占しているのよ。お仕事の時ぐらい構わないでしょ」
「でも……」

 ティベルダの独占欲が頭を出し始める。
 そこへダンが割って入った。

「準備はできたか? そろそろブーズへ向かうぞ」

 ティベルダはダンの声で改めて緊張を感じ、独占欲は抑え込まれた。
 エールタインが自身に気合を入れる。

「よし、行ってくるね!」

Szene-02 ルイーサ家前

 エールタインとティベルダは、ダンとヘルマに続いてブーズへ向かう。
 その途中でルイーサ家に寄る四人。
 エールタインが扉を叩いた。

「ルイーサ、エールタインだよ。準備は出来てる?」

 ルイーサ家の後ろにある茂みからガサゴソと音が聞こえる。
 音を出している正体は、ルイーサと親しければ容易に分かるものだった。

「アムレットたちは元気そうですね」

 ティベルダが茂みを見上げながら言った。
 音が鳴り止むと、ルイーサ家の扉が開かれた。

「おはよう、エールタイン。いつでも行けるわ」

 普段から剣士らしさに拘っているルイーサである。
 ヒルデガルドと共に、いつも通りの恰好で家から出てきた。
 ダン達に気づくと、ヒルデと共にカーテシーによる挨拶をする。
 エールタインはルイーサ達の挨拶が終わるや否や、話し始めた。

「二人とも、よろしくね。ボク一人でブーズの人達を納得させられるかどうか、想像もつかないからさ」
「大丈夫よ。エールタインが日頃から気にしていた事を伝えるのだから、必ず受け止めてもらえるわ」
「ルイーサにそう言ってもらえると、安心するよ。変に考えず、思っていることを言うね」
「そうよ、それでいい。間違いないわ」

 ルイーサはエールタインと話せたからか、機嫌よくダン一行に混ざる。

「さて、そろそろ向かってもいいかな?」

 ダンはエールタイン達に出発を促した。
 それに頷きで答える剣士二人を見ると、改めてブーズへと歩み出す。
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