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第二章 剣士となりて
第三十五話 追加情報と愛情追加
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Szene-01 一番地区、武具屋
店の奥に通されたダンとヘルマ。
そこは店主の住まいでもある部屋だ。
店主は机と椅子へ手を差し出す。
「まあまあ、座ってくだせえ」
店主も自分の椅子に座るが、すぐに立ち上がる。
「いつものでさあ」
店主は例の持久力が上がると言われているティーを差し出した。
改めて自分の椅子に座り、自身もティーを一口飲む。
「それにしても客の入りがいいな」
「久しぶりに剣士本来の仕事が始まろうってんですぜ。道具の新調や手入れに力が入るのは当然でさあ」
ダンは肩ひじを机に乗せて店主を注目する。
ヘルマは軽く背筋を伸ばし、太ももの上で手を重ねた。
「さてと。情報ですな」
店主は独特な口調で話してゆく。
「ここに通したってことは、何か分かったのか?」
「少しですがね。それでも情報ってのは何が重要になるか分かりませんからな。手に入れたものは全てダン様にお伝えするつもりでさあ」
客の入りが多くて機嫌の良さが滲み出ていた店主は、裏の仕事の顔に変えて話をする。
「エールタイン様に関する一連の騒動、あれはトゥサイが他から請け負った話のようですぜ」
ダンは大きく鼻から息をもらすとティーを口にした。
下の上で転がしてからごくりと飲む。
「だろうな。あの村は後ろ盾が無けりゃ何もしないはず」
「その後ろ盾がこの町のはずなんですがねえ」
部屋と店の間には扉が無いため、客の賑わいが直に伝わっている。
その様子を背に店主は話を続ける。
「その頼んだ側ってえのが……」
言い難そうにする店主を見てダンは不思議そうな顔をする。
「なんだよ、あんたがさらっと言わないなんて珍しい」
「カシカルド……らしいんでさあ」
ダンの言葉を消すように店主は言った。
店からの音のみとなる部屋。
ティーを飲む店主に釣られてか、思わずヘルマもティーを口にする。
ダンは絶句して固まっていたが、ゆっくりと体を起こして言う。
「ありえねえ」
店から見習い剣士が申し訳なさそうに顔を出した。
「お話し中にすみません。おじさん、荷が届いたので受け取りをお願いします」
「ダン様と同じ思いでさあ。今裏を取りに行かせてますんで」
その場で二度三度、踵を上げ下げして見習い剣士が言う。
「お客さんが待っていますから、急いでください!」
「わかりやした、すぐ行きますで! 見習いでも剣士様なので言う事聞かねえと。店主が雇われてるみてえだ。また寄ってくだせえ。急ぎの話があれば人を走らせますんで」
ダンとヘルマは、店に戻る店主の後ろ姿を笑顔で送った。
Szene-02 ダン家
ダン家の居間の床では、ティベルダが横たわるエールタインを押さえつけていた。
ティベルダは、ハムハムと主人の耳を甘噛みしている。
そこへヨハナがやってきた。
「エール様、そのまま動かないでくださいね」
ヨハナは何やらエールタインの脚に合わせている。
「動くもなにも、これじゃ動けないよ」
「ハムハム……ハムハム」
エールタインが小柄なティベルダを退かせられないわけがない。
ティベルダの好きにさせてあげる。
それがエールタイン的なティベルダのあやし方のようだ。
「おかげで助かります。まだあるのでティベルダよろしくね」
「ハムハム……はい!」
「いや、ティベルダにお願いしないでくれる?」
ヨハナは食卓を使って細工をしながらエールタインに言う。
「ティベルダの甘えが増していますけど、何かあったのですか?」
「それが……寝る時にね、ティベルダがボクにフリーズを使ってさ」
「あらまあ」
ティベルダが一瞬止まった。
止めたのかと思いきや、反対の耳を甘噛みする。
「何をされたのか分からないんだけど、朝になったらこの通りご機嫌で。でも耳を銜えるのは止めてくれないんだ」
甘噛みを続けるティベルダにヨハナが尋ねる。
「ティベルダ、ご主人様にすることではないわ。いくらご主人様が許しても、私たちが守るべきことがあるでしょ?」
ティベルダの動きが止まる。
小さな口を大きく開けて、エールタインの耳を解放した。
「すみません。エール様を味わっていたら耳が気に入ってしまって。これ、癖になるんですよ。あ、ベタベタなので綺麗にしておきます」
ティベルダはもう一度耳を銜えると、エールタインの顔を間近で見た。
「また夜にしますね。寝るのが楽しみです、ふふふ」
不敵な笑みを浮かべながらエールタインから離れるティベルダ。
エールタインに手を差し出して、起きるのを手伝う。
「寝る時だけだからね」
「エール様が優しくし過ぎなのですよ。私たちには主人らしくビシッと指示してくださいまし」
「ビシッとね。ところで、ヨハナは何をしているの?」
細工を続けるヨハナを見てエールタインが尋ねた。
「エール様がブーズで指揮を執るので、今お召の物より仕立ての良い物を身に着けてもらおうと思いまして」
剣聖であるダンの家には、上質な材料が揃っている。
ヨハナの計らいで、それらを使ってエールタイン用の装着物を新調していたのだ。
「ヨハナ……」
「いつも私たちの事をお考えになってくださるエール様へ、心ばかりの品です」
エールタインはヨハナの後ろから首に腕を回した。
「ボクも役に立てそうで嬉しいよ。これからもよろしくね」
ヨハナはティベルダにも抱き着かれたため、作業を止めざるを得ない。
しかし嬉しそうに受け入れていた。
店の奥に通されたダンとヘルマ。
そこは店主の住まいでもある部屋だ。
店主は机と椅子へ手を差し出す。
「まあまあ、座ってくだせえ」
店主も自分の椅子に座るが、すぐに立ち上がる。
「いつものでさあ」
店主は例の持久力が上がると言われているティーを差し出した。
改めて自分の椅子に座り、自身もティーを一口飲む。
「それにしても客の入りがいいな」
「久しぶりに剣士本来の仕事が始まろうってんですぜ。道具の新調や手入れに力が入るのは当然でさあ」
ダンは肩ひじを机に乗せて店主を注目する。
ヘルマは軽く背筋を伸ばし、太ももの上で手を重ねた。
「さてと。情報ですな」
店主は独特な口調で話してゆく。
「ここに通したってことは、何か分かったのか?」
「少しですがね。それでも情報ってのは何が重要になるか分かりませんからな。手に入れたものは全てダン様にお伝えするつもりでさあ」
客の入りが多くて機嫌の良さが滲み出ていた店主は、裏の仕事の顔に変えて話をする。
「エールタイン様に関する一連の騒動、あれはトゥサイが他から請け負った話のようですぜ」
ダンは大きく鼻から息をもらすとティーを口にした。
下の上で転がしてからごくりと飲む。
「だろうな。あの村は後ろ盾が無けりゃ何もしないはず」
「その後ろ盾がこの町のはずなんですがねえ」
部屋と店の間には扉が無いため、客の賑わいが直に伝わっている。
その様子を背に店主は話を続ける。
「その頼んだ側ってえのが……」
言い難そうにする店主を見てダンは不思議そうな顔をする。
「なんだよ、あんたがさらっと言わないなんて珍しい」
「カシカルド……らしいんでさあ」
ダンの言葉を消すように店主は言った。
店からの音のみとなる部屋。
ティーを飲む店主に釣られてか、思わずヘルマもティーを口にする。
ダンは絶句して固まっていたが、ゆっくりと体を起こして言う。
「ありえねえ」
店から見習い剣士が申し訳なさそうに顔を出した。
「お話し中にすみません。おじさん、荷が届いたので受け取りをお願いします」
「ダン様と同じ思いでさあ。今裏を取りに行かせてますんで」
その場で二度三度、踵を上げ下げして見習い剣士が言う。
「お客さんが待っていますから、急いでください!」
「わかりやした、すぐ行きますで! 見習いでも剣士様なので言う事聞かねえと。店主が雇われてるみてえだ。また寄ってくだせえ。急ぎの話があれば人を走らせますんで」
ダンとヘルマは、店に戻る店主の後ろ姿を笑顔で送った。
Szene-02 ダン家
ダン家の居間の床では、ティベルダが横たわるエールタインを押さえつけていた。
ティベルダは、ハムハムと主人の耳を甘噛みしている。
そこへヨハナがやってきた。
「エール様、そのまま動かないでくださいね」
ヨハナは何やらエールタインの脚に合わせている。
「動くもなにも、これじゃ動けないよ」
「ハムハム……ハムハム」
エールタインが小柄なティベルダを退かせられないわけがない。
ティベルダの好きにさせてあげる。
それがエールタイン的なティベルダのあやし方のようだ。
「おかげで助かります。まだあるのでティベルダよろしくね」
「ハムハム……はい!」
「いや、ティベルダにお願いしないでくれる?」
ヨハナは食卓を使って細工をしながらエールタインに言う。
「ティベルダの甘えが増していますけど、何かあったのですか?」
「それが……寝る時にね、ティベルダがボクにフリーズを使ってさ」
「あらまあ」
ティベルダが一瞬止まった。
止めたのかと思いきや、反対の耳を甘噛みする。
「何をされたのか分からないんだけど、朝になったらこの通りご機嫌で。でも耳を銜えるのは止めてくれないんだ」
甘噛みを続けるティベルダにヨハナが尋ねる。
「ティベルダ、ご主人様にすることではないわ。いくらご主人様が許しても、私たちが守るべきことがあるでしょ?」
ティベルダの動きが止まる。
小さな口を大きく開けて、エールタインの耳を解放した。
「すみません。エール様を味わっていたら耳が気に入ってしまって。これ、癖になるんですよ。あ、ベタベタなので綺麗にしておきます」
ティベルダはもう一度耳を銜えると、エールタインの顔を間近で見た。
「また夜にしますね。寝るのが楽しみです、ふふふ」
不敵な笑みを浮かべながらエールタインから離れるティベルダ。
エールタインに手を差し出して、起きるのを手伝う。
「寝る時だけだからね」
「エール様が優しくし過ぎなのですよ。私たちには主人らしくビシッと指示してくださいまし」
「ビシッとね。ところで、ヨハナは何をしているの?」
細工を続けるヨハナを見てエールタインが尋ねた。
「エール様がブーズで指揮を執るので、今お召の物より仕立ての良い物を身に着けてもらおうと思いまして」
剣聖であるダンの家には、上質な材料が揃っている。
ヨハナの計らいで、それらを使ってエールタイン用の装着物を新調していたのだ。
「ヨハナ……」
「いつも私たちの事をお考えになってくださるエール様へ、心ばかりの品です」
エールタインはヨハナの後ろから首に腕を回した。
「ボクも役に立てそうで嬉しいよ。これからもよろしくね」
ヨハナはティベルダにも抱き着かれたため、作業を止めざるを得ない。
しかし嬉しそうに受け入れていた。
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