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第二章 剣士となりて

第二十九話 大役と捕獲

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Szene-01 トゥサイ村、村長宅

 エールタインたちの動きを探らせていたトゥサイ村の村長。
 向かわせた者が一人も帰って来ないことに焦りを感じていた。

「なんてこった。あれから何の案も浮かばねぇ。分かっているのはヤバいってことだけだ」

 村長は八つ当たりをするように、樽型のコップを机に叩きつけた。
 飲みかけのハーブティーが勢いよく机に飛び散る。

「……詰んだのか? いや、逃げるのは簡単だ。情報が無いわけでもねえ。少々盛って何やら怪しい事をしているとしておくか。事実、俺は勘繰る事しかできねえ状況だ」

 村長は顔を引きつりながらも、淡い期待を込めた笑みを浮かべて一人納得していた。

Szene-02 レアルプドルフ一番地区、町役場

 エールタインはダンと共に町役場を訪れている。
 前日の夜、ダンと今後についての大雑把な段取りを確認したエールタイン。
 正式な任命を受けることで町民への指揮権を得ることができる。

「エールタイン様、ブーズの防衛と発展に関する指揮権を分権します」

 役場の一角にある一つの机。
 行政に関する重要な話をする際に使用される場所だ。
 そこで分権書類へ町長がサインをする。
 書き終わると町長はエールタインへ向けて机上で書類を反転させた。

「サインを」

 エールタインは胸に手を当てて息を整える。
 気持を落ち着かせてから町長の書いたサインの横に自身の名前を書いてゆく。
 ダンと町長はその姿を見ると、感慨深げな表情で目線を交わした。

「受け入れてくださりありがとうございます。勿論、全てを丸投げするわけではなく、権利を持っていただいたということ。困ることだらけでしょうし、何かを始める時に一報は欲しい。私と一緒に進めていきましょう」
「それを聞いて安心しました。全て一人でやると思って色々と考えていたので」

 町長が笑う。

「いやいや。剣士としての仕事もこなしていただかなければなりませんし、いきなり一人で民を統率するなど私なら断りますよ」

 エールタインの隣に座っているティベルダは、膝の上で両手を握りしめて動かないように我慢している。
 向かいの町長と並んで座っているダンがエールタインに声を掛けた。

「剣聖の俺でも剣士の統率までしかしていない。弟子にそれ以上の事をさせるってのは、今でも複雑な思いだ」
「ダン様にも協力をしていただくようお願いしています。ご安心を」

 町長がダンの言葉に補足した。
 ダンも付け加える。

「言われるまでも無いがな」

 エールタインはホッとしたように、少しだけ肩を下ろしてみせる。
 受付係がカウンター越しにエールタインとティベルダを見守っていた。

Szene-03 ルイーサ家前

 エールタインが町役場を訪れている頃、ルイーサは自宅前で腕組みをして立っていた。
 眉間に皺が寄っている。

「ルイーサ様、お顔が……」

 ヒルデガルドが主人の表情に耐えられなくなったようで、ひと声掛けた。

「顔? 褒める以外は受け付けないけど」
「素敵なお顔が台無しになりそうでしたので」
「え?」
「随分と厳しい顔をされています」
「あら」

 ルイーサは気づかぬうちに皺が寄っていたようだ。
 ヒルデガルドに言われ、柔らかい表情へと変えた。

「エールタインって、私を忘れがちではないかしら」
「大役を任されるとなると、お忙しいのでしょう」
「それよ! そんな大事な事こそ仲間に伝えるべきでしょ」

 ルイーサの眉間に皺が寄り始める。

「ルイーサ様、お顔を」
「あら」

 ヒルデガルドの抜かりない主人観察により、改めて表情を柔らかくするルイーサ。

「ヒルデ、助かるわ」
「恐縮です」

Szene-04 レアルプドルフ、西門

 西門では、普段より増員された衛兵が門の内外を監視している。
 そこへ一人の男が尋ねてきた。

「町の外へ出たいのですが」
「どちらへ?」
「他の町、としかまだ決めていません」

 衛兵は淡々と手続きを進めているように見せる。
 その一方で他の衛兵に片足で合図を送っていた。

「旅人さん? 荷物が少ないようですが」
「ええ。最低限の物しか持たないんですよ」
「道中辛そうですね」
「次の町までもてばなんとかなるもんですよ」

 衛兵は男に結果を伝える。

「それではこちらからどうぞ」
「この門は出られないんですか?」
「ええ。困ったことに不具合がありましてね」
「はあ」

 衛兵が男を門から離れた場所へと連れていく。
 すると剣士三人が現れた。

「ど、どういうことですか?」
「あんた、どこの村の人?」
「いや、旅をしていると――」
「なんでも旅と言えば通ると思っているのかな?」

 一人の剣士が剣を抜き、剣先を男に向けた。

「正直に言え。でなければ……その先は言うまでもないな」

 男は両手を下ろし、諦めたようにうな垂れる。
 剣士は男の正面に向けた剣先を少しだけずらしてみせる。
 すると剣を抜いていない剣士の横を走り抜けようとした。

「させねえよ!」

 横をすり抜けられそうになった剣士が男に脚をひっかけて転ばせた。

「ちっ!」
「この町の剣士をなめんな」

 倒れた男はうつ伏せのまま抑え込まれ、後ろ手縛りをされた。

「トゥサイの者だな。町長の所へ連れて行こう」
「剣先を外したぐらいで引っかかるとはな」
「こうして奴らが動いていることがわかったんだ。改めて気を引き締めるぞ」

 トゥサイ村の男を捕らえた衛兵たちは、一層気を引き締めて配置に戻った。
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