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第二章 剣士となりて

第二十八話 英雄の娘

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Szene-01 レアルプドルフ、町役場

 ダンと町長の間でトゥサイ村への侵攻が決められた。
 だがエールタインの進言により、まずはブーズ周辺への町壁建造を急いで行うことになった。
 併せて、壁の建造を含めたブーズの指揮をエールタインに執らせることも決められる。
 町長は、それらの決定事項について町民からの承諾を得るため、伝令剣士を集めた。

「この決定事項をいち早く全ての町民に知らせて欲しい。よろしく頼む」

 トゥサイ侵攻の話が始まると、伝令剣士たちは一様に驚いた。
 町長とダンが感じていた平穏という名のに浸かっていた証拠と言える。
 町長はその様子に一切触れず、ダンと話した内容を一人淡々と話した。
 出来るだけ簡潔に、しかし丁寧に説き、剣士としての士気を上げた。

「皆を集めて心を一つにする。そのために走りたまえ」

 剣士の自覚を改めて持った伝令剣士たちが町の隅々へ向けて走り回る。
 一軒一軒、緊張した面持ちで扉を叩いてゆく。

「すみません、お聞きしたいことがありまして」
「どうかされましたか?」

 普通の会話に聞こえるが、町民の間では伝令剣士が来たという合図である。

「グレンゼ川は今日も穏やかでしたか?」
「ああ。あの川はいつもいい顔を見せてくれるよ」

 レアルプドルフが国であった頃に使われていた合言葉。

『出撃に備えよ』

 久しく行われなかったやりとりだが、町民にはしっかりと刻み込まれていた。
 元領主から発令された出撃準備。
 全ての町民が対応し、地区ごとに町長の元へ集まる。
 門番は町への出入りを禁止。
 外部に情報が漏れないようにするためだ。
 不自然に思われない様、剣士が町で公式の修練を行っているという理由を伝えていた。
 町民はまず町長からの指示を聞くために、各家の代表者が集まる。

「皆、この時がついに来た。なに、相手は小さな村だ。戦力と言えるものは無いに等しい。鈍っているであろう剣士の腕を起こす準備運動だと思ってやってくれ」

 新人たちは困惑気味だが、中堅以上の剣士は皆喜んでいる。
 そんな姿を見渡しながら町長は続ける。

「その前に大事な準備をしなければならない。東地区ブーズの強化だ。町壁の建造を行うぞ。そのブーズに関する指揮は、壁の建造を進言した我らがアウフリーゲン様の娘、エールタイン様にお願いした」

 ほとんどの者はエールタインが女性であると初めて知った瞬間であった。
 驚きの声は上がったが、娘であることを知らないだけで、アウフリーゲンの子という立場は知られている。
 反対意見が出ない空気となる。

「この件を了承してもらいたいのだ。如何かな?」
「あの子はアウフリーゲン様の意思を継がれている。ブーズを仕切るのは彼女しかいないだろう」

 一人の上級剣士が声を上げた。
 その言葉に他の者からも賛成の声が聞こえてくる。
 この流れが全地区の集まりで行われてゆく。

 全部で六つの地区により構成されるレアルプドルフ。
 六地区が順番に町長の話を聞くために集まった。
 全町民の士気が上がり、町の空気がにわかに活気立つ。

Szene-02 レアルプドルフ二番地区前、東西街道

 役場から東西街道上を四番地区へ帰る民の流れが出来ている。
 その流れに乗らず、尋ねる者がいた。

「すみません、今日は何かあったのですか?」
「あんた旅人かい? 今日は恒例の集まりがあったのさ」
「集まり、ですか? 祭りか何か?」
「そんなとこかね。もう終わったけどね」

 そう答えた者は、近くにいた剣士に目で合図をする。
 それを受けて剣士は門番の元へと向かった。

「外の者がいる。探りを入れてきたからトゥサイの者かもしれない。入念に確認、場合によっては……」
「分かった。連絡ご苦労様」

 すでに出入りの強化を聞いている門番は、伝えに来た剣士に皆まで言うなといわんばかりに、話の途中で返事をした。

Szene-03 ダン家

 エールタインとティベルダは、五番地区民として集まりに参加した。
 その後、師匠と今後について話すためにダン家を訪れている。

「恥ずかしかったけど、みんながあんなに応援してくれるとは思わなくて、嬉しかったな」
「今は民を率いる人が少なくなりましたから、皆も気持ちが晴れたということではないでしょうか」

 ヨハナに集まりの様子を話しているエールタイン。
 床に割座をしていると、ティベルダが背中を抱きしめた。
 甘えの止まらないティベルダは、隙あらば主人に触れる。

「あと、ボクが女だって気づいていなかった人が多くて驚いたよ。隠していて言うのも変だけど」
「男性剣士も髪の色が様々で、何故だか長髪にする人もいらっしゃいますから。おかげで誤魔化しやすかったのでしょう」

 エールタインは膝に頭を乗せたティベルダを撫でてあげる。
 撫でられるティベルダは、無言の要求が叶って嬉しそうだ。

「最近は少なくなっているけど、こうしてゆっくりできる時間はいいね」

 ニコニコしているティベルダの顔を見ながら言うエールタイン。
 頭から頬へと撫でる場所を変える。

「ブーズのためにしたかった事を、思ったよりも随分早くやれそうだよ」

 エールタインはティベルダをブーズに見立てるかのように、優しく撫で続けていた。
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