上 下
70 / 218
第二章 剣士となりて

第二十三話 試みの成果

しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ、町役場

 レアルプドルフ鐘楼の向かいにある町役場にエールタインの師匠、ダンがいた。
 昔からの知り合いでもある受付係とカウンター越しに話をしている。

「ティベルダの様子はどうですか?」
「あの子はエールの事が相当お気に入りでな。エールもよく構っているから仲良くやっているよ」
「エールタイン様はお優しいから。ティベルダも安心しているんでしょうね。ここに来た子の中でも元気が無さ過ぎて、奴隷担当の時に心配していたんです。良い縁に恵まれて安心しました」

 受付係はエールタインがティベルダを迎えた時の担当だった。
 ティベルダについては日ごろから気にしている。

「あと、能力も随分と持っていたみたいですね」
「ああ。日増しに何かを起こしているようだ。そのうちエールから話があると思う」

 ダンはカウンターに両肘をつき、声を小さくして話す。

「能力絡みの話は聞かれるとまずい。騒ぐ連中がいるからな」
「そうですね。あの子の能力は随分レベルが高いようですし」

 ダンが三本の指を立てながら言う。

「今のところ三つだ。まだあるのか、これで打ち止めかはわからん」
「三つ……やはり東地区の子は持っていますね」
「その辺の理由もエールが情報を仕入れている。遠方の国へは無理に行く必要が無いかもしれん。エールにはレベルの高い奴隷を従える素質があったようだな」

 受付係は感心するように大きく息を吐きだした。

「やはり偉大な剣聖の血だからなのでしょうか」
「はっはっは。あいつが聞いたら「止めろ、そういうんじゃねえ」と言うだろうな」

 カウンター越しの二人はクスクスと笑い合う。
 アウフリーゲンを知る者同士が話す時は、いつもそこに英雄がいるような雰囲気で話が弾む。
 エールタインの父は、それほどに今でも町民から愛され、慕われ、憧れられている存在なのである。

Szene-02 東西街道沿い森中、ヴォルフの巣穴

 中型の魔獣ヴォルフのテイムを試したヒルデガルド。
 同じヴォルフの傷を治すことでヒールを操る練習をしたティベルダ。
 ヒルデガルドはテイムに成功し、ヴォルフの傷もティベルダのヒールによって完治した。
 ヴォルフは傷が癒されてすぐ、ヒルデガルドに穏やかな表情を見せた。 
 また、傷を治したのがティベルダであることも分かっているようで、甘え声を出すほどよく懐いている。

「想像以上に上手くいったみたいだね」
「ええ。ヒルデ、早速で悪いのだけど、巣穴の仲間からこちらへの敵意を除くようにお願いしてくれる?」
「はい、すぐに」

 ヒルデガルドがヴォルフと話し始める。
 自身の中で作戦中最大の役目を終えたティベルダは、主人の元へと場所を変えた。
 エールタインより一歩後ろの位置で止まったティベルダにルイーサが話かける。

「その血、思いのほか掛かっているわね。本当に大丈夫なの?」

 ティベルダは思い出したようにタイツや袖を引っ張る。

「気持ち悪いです」
「え!? ヒールをする力は残っている?」

 ルイーサはティベルダを気遣う。
 怪我は無いというものの、見た目が血まみれだ。
 間近で見ると、どうにも無事とは思えない状況。
 エールタインが言うより先にルイーサが気にするほどだ。

「私は大丈夫ですよ。服がくっつくのが気持ち悪くて」

 あちこちを肌から離す動きをしている。
 その動きから、早く着替えたいという気持ちが伝わる。

「気持ち悪いってそちらのことね。それならいいわ……理由を知らないから良いのか分からないけれど」
「ルイーサの言う通りだ。血まみれになるなんて、余程の事が起きないとそうはならないからさ」

 エールタインはルイーサの言葉に同調した。

「ルイーサ様は私の事が心配なのですか?」
「協力関係にあるエールタインのお供を心配するのは当然でしょ? あなたも仲間なのだから」

 普段ルイーサには威嚇行動をとるティベルダ。
 しかし、ルイーサからの言葉は嬉しかったようだ。

「ルイーサ様がエール様とお話するのは目を瞑ります。ただ、エール様が私のものであることを分かってもらえば、ですけど」
「まったく、呆れた子ね。私を許すとかどうとか、なんなのよ」

 ルイーサはティベルダから巣穴の方へと向き直りながらため息をついた。
 エールタインは苦笑いをしている。

「ティベルダ、ルイーサはボクと同じ剣士だよ。ヒルデガルドの主人なのだから、立場は気にしようね」

 主人として従者のわきまえるべき事を伝えるエールタイン。

「はあい。エール様がそうおっしゃるなら気を付けます」

 ティベルダは渋々主人からの忠告に従った。
 そこへヒルデガルドが合流する。
 横には小柄な身長のヒルデガルドと同じ程のヴォルフが寄り添っている。

「おっと。上手くできて良かったね、ヒルデガルド。すごいなあ」
「ありがとうございます。皆さんのお力あってのことですから、全員の成果ですよ」
「ルイーサもいい子に出会えて良かったね」

 エールタインからの言葉にほんのり頬を赤くしたルイーサは、少し笑みも零れている。

「ま、まあね。私の従者が務まるのだから優秀なのは当然よ」
「それって、ルイーサ様のお供は大変って――もごもご」

 エールタインが慌ててティベルダの口を抑えた。

「こら。立場をわきまえるようにと言ったばかりだよ? 血の件もそうだし、今日は説教の日になりそうだね」
「そんなあ」

 ヴォルフの巣穴を前に緊張が走るはずの場面であるが、相変わらず四人は緊張感の無い空気を作り出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます

こびとのまち
ファンタジー
百合ゲー『フラワーエデン』の世界にTS転生したら、悪役令嬢の取り巻きジト目少女でした。 でも悪役令嬢の末路はたいしたことなかったので、自由気ままに生きていこうと思います。 ジト目少女「悪役なんだし、パンツくらい覗いても……いいよね?」 百合ゲー主人公「ハアハア……そのジト目をわたしに向けて!寮に戻ってイチャイチャしたいよぉ」 悪役令嬢「何かが間違ってます! 何かが間違ってますわ?!」 悪役令嬢として悪名を響かせるはずが、すっかり苦労人ポジになってしまったお嬢様は、今日も嘆きが止まらない――。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...