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第二章 剣士となりて
第十八話 剣士の仕事、本番
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Szene-01 レアルプドルフの西、東西街道沿い森中
エールタインが初めて請け負った案件である中型魔獣の駆除。
魔獣の動きが鈍い時期となる寒期後に増える依頼だ。
しかし寒期後は人にとっても動きがとりづらい時期。
依頼は増えるが引き受ける者が少ないため、報酬が高いのが特徴である。
「なんだか可哀そうに思えてしまいますね」
「人が困らないのならね。でも肉や毛を得るためでもあるから、仕方のないことだよ」
駆除の対象はヴォルフ。
大型魔獣討伐の場所からさらに森の奥へ進むとグレンゼ川が見渡せる崖に出る。
その手前にある岩場にヴォルフの巣穴があった。
岩と岩が向かい合い、偶然出来たであろう空洞に何頭かの眠る姿が見える。
巣穴の前では一頭のヴォルフがゆっくりと徘徊し、警戒をしているようだ。
「アムレット、無理なら鞄にいていいからね」
一緒に案件を遂行する四人は、ヴォルフの姿が見えるギリギリの地点で様子を伺っていた。
ヒルデガルドに抱えられたアムレットは小刻みに震えている。
「あなたは大型魔獣を討伐した時、一緒にいたでしょ?」
ルイーサが主としての言葉をかける。
「気を引くだけよ。それもあの一頭だけ。後は私たちが捕獲するから、アムレットはヒルデの鞄に戻ればいいわ。なんなら仲間たちと帰ってもいい」
ルイーサはアムレットにやり遂げるよう発破を掛けた。
ヒルデガルドは黙って抱え、撫で続けていた。
「エールタイン、まずはあの一頭だけ捕獲できればいいのよね」
「うん。まあその捕獲が難しいんだけどさ。依頼とは違うことだし」
案件は中型魔獣の駆除だ。
捕獲では駆除にはならない。
そして失敗すれば大惨事となる可能性もある。
「ヒルデガルドがテイムできるかどうか。その答えが分かり次第、討つ」
エールタインは肩を寄せているルイーサへ簡潔に作戦を伝えた。
ティベルダは、ルイーサを主人から離れさせて二人の間に割って入る。
「何よ」
「私しか触れては駄目です」
「はあ!?」
エールタインが人差し指を口に当てて静かにするよう合図をした。
「あのさ、声は小さくしてくれる?」
「だってこの子、エールタインと小さい声で話をするために寄っただけなのに」
ティベルダがエールタインの腕に抱き着いてルイーサを睨みつけている。
エールタインはティベルダの頭を撫でて諭す。
「ティベルダ。今は大事な事を話している。主人同士がこの作戦を無事に成功させるためだ。分かるよね?」
主人へは甘える目を見せるティベルダ。
大きく頷くが、おねだりは欠かさない。
「帰ったら……」
「はいはい。帰ったらね」
ルイーサはティベルダの後ろ姿に片眉を吊り上げて睨んだ。
そしてプイッとそっぽを向く。
さらに後ろでルイーサの姿を見ていたヒルデガルドがクスッと笑った。
「ルイーサ様、かわいい」
Szene-02 ダン家
ダンが町役場へ出かけた後、暖炉の前ではヘルマが天井を見上げたまま呆けていた。
「ヘルマ、まだ思い出しているの?」
「あの二人、可愛過ぎよ」
ヨハナも一休みをするために暖炉前の椅子に座る。
「まったく、ヘルマには呆れるわ。私たちはいつでも会える立場なのよ」
「それでも、それでもなのよ!」
ヨハナは笑いながら深緑色の髪を耳に掛けて言う。
「気持ちはよく分かるわ。確かに可愛い」
「あはは。あなたも私と同じなのは知ってる。そういえば、受けた依頼を片付けに行っている頃よね」
「あの四人ならこなすとは思うけど、初めてというだけで心配になるわね」
天井を見ていた姿勢を戻すヘルマ。
暖炉の灯りが金茶色の目を光らせる。
「エール様は英雄の血が守ってくださっているのよ。素晴らしい従者と素敵な仲間が寄ってきたことが物語っているわ」
大丈夫だと自身に言い聞かすようにヘルマは呟いた。
エールタインが初めて請け負った案件である中型魔獣の駆除。
魔獣の動きが鈍い時期となる寒期後に増える依頼だ。
しかし寒期後は人にとっても動きがとりづらい時期。
依頼は増えるが引き受ける者が少ないため、報酬が高いのが特徴である。
「なんだか可哀そうに思えてしまいますね」
「人が困らないのならね。でも肉や毛を得るためでもあるから、仕方のないことだよ」
駆除の対象はヴォルフ。
大型魔獣討伐の場所からさらに森の奥へ進むとグレンゼ川が見渡せる崖に出る。
その手前にある岩場にヴォルフの巣穴があった。
岩と岩が向かい合い、偶然出来たであろう空洞に何頭かの眠る姿が見える。
巣穴の前では一頭のヴォルフがゆっくりと徘徊し、警戒をしているようだ。
「アムレット、無理なら鞄にいていいからね」
一緒に案件を遂行する四人は、ヴォルフの姿が見えるギリギリの地点で様子を伺っていた。
ヒルデガルドに抱えられたアムレットは小刻みに震えている。
「あなたは大型魔獣を討伐した時、一緒にいたでしょ?」
ルイーサが主としての言葉をかける。
「気を引くだけよ。それもあの一頭だけ。後は私たちが捕獲するから、アムレットはヒルデの鞄に戻ればいいわ。なんなら仲間たちと帰ってもいい」
ルイーサはアムレットにやり遂げるよう発破を掛けた。
ヒルデガルドは黙って抱え、撫で続けていた。
「エールタイン、まずはあの一頭だけ捕獲できればいいのよね」
「うん。まあその捕獲が難しいんだけどさ。依頼とは違うことだし」
案件は中型魔獣の駆除だ。
捕獲では駆除にはならない。
そして失敗すれば大惨事となる可能性もある。
「ヒルデガルドがテイムできるかどうか。その答えが分かり次第、討つ」
エールタインは肩を寄せているルイーサへ簡潔に作戦を伝えた。
ティベルダは、ルイーサを主人から離れさせて二人の間に割って入る。
「何よ」
「私しか触れては駄目です」
「はあ!?」
エールタインが人差し指を口に当てて静かにするよう合図をした。
「あのさ、声は小さくしてくれる?」
「だってこの子、エールタインと小さい声で話をするために寄っただけなのに」
ティベルダがエールタインの腕に抱き着いてルイーサを睨みつけている。
エールタインはティベルダの頭を撫でて諭す。
「ティベルダ。今は大事な事を話している。主人同士がこの作戦を無事に成功させるためだ。分かるよね?」
主人へは甘える目を見せるティベルダ。
大きく頷くが、おねだりは欠かさない。
「帰ったら……」
「はいはい。帰ったらね」
ルイーサはティベルダの後ろ姿に片眉を吊り上げて睨んだ。
そしてプイッとそっぽを向く。
さらに後ろでルイーサの姿を見ていたヒルデガルドがクスッと笑った。
「ルイーサ様、かわいい」
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「ヘルマ、まだ思い出しているの?」
「あの二人、可愛過ぎよ」
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「まったく、ヘルマには呆れるわ。私たちはいつでも会える立場なのよ」
「それでも、それでもなのよ!」
ヨハナは笑いながら深緑色の髪を耳に掛けて言う。
「気持ちはよく分かるわ。確かに可愛い」
「あはは。あなたも私と同じなのは知ってる。そういえば、受けた依頼を片付けに行っている頃よね」
「あの四人ならこなすとは思うけど、初めてというだけで心配になるわね」
天井を見ていた姿勢を戻すヘルマ。
暖炉の灯りが金茶色の目を光らせる。
「エール様は英雄の血が守ってくださっているのよ。素晴らしい従者と素敵な仲間が寄ってきたことが物語っているわ」
大丈夫だと自身に言い聞かすようにヘルマは呟いた。
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