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第一章 見習い剣士と新人奴隷
第四十六話 昇格の決め手
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Szene-01 ダン家前、草原
ティベルダの能力について探るには、遠方へ出向く必要がある。
ダンが取り急ぎ能力について知っていそうな者から仕入れた情報だ。
剣聖であるダンが長い間町から離れるわけにはいかない。
町長に続いて町に関する権限を有する者だからだ。
「逆手で剣を操るのならば撫でるように斬るのではなく、真っ直ぐ突き刺すか手前に引っ掛けるように扱うんだ」
「速さがあれば斬りつけられると思ったんだけどなあ」
これまでの修練では、エールタインのセンスに任せて思うようにさせていたダン。
しかしエールタインは自身が感じている壁を自力で乗り越えられずにいた。
ダンは長い目で見守るつもりであったが、剣士への昇格を迫られる時期を迎えたために技術的な面を教えざるを得なくなった。
「親心で待ち過ぎたようですね」
ヘルマが言うとダンは片手の平を見せて否定の仕草をする。
「事情が変わったのだ。俺は平和な状況に胡坐をかいていた。かえってエールにも悪い事をしてしまったな」
「ダン様はアウフ様を受け継いだ思いがあるのです。エール様を大事に育てようとされるのは仕方がないと思われます」
ダンはヘルマの言葉によりエールタインの父、アウフリーゲンを思い出したようだ。
「そういえばあいつの所へ顔を見せに行っていなかったな。ティベルダを連れたエールを見せてやらねば」
エールタインと約束をしていた墓参り。
様々な出来事が起きたこともあり、いまだに行けていなかった。
「それならばエール様が剣士になられた時にどうですか? アウフリーゲン様もきっとお喜びになられます」
「うむ。剣士の認定書を出した日に行くとするか」
見習い剣士が剣士に昇格する条件。
まず見習い剣士が弟子入りしている師匠に認められなければならない。
そして師匠が町に認定書を提出することで剣士へと昇格する。
弟子が剣士としてあるまじき行為を行った場合、師匠共々格下げとなる。
格下げは剣士にとって非常に厳しい処罰であるため、師匠は弟子を簡単に昇格させる事ができないようになっている。
剣士として求められる基準の維持のみでなく、上級剣士以上の者が師匠としての自覚を持つようにするためである。
Szene-02 ドミニク家、修練場
ルイーサはヒルデガルドと共に師匠であるドミニクと修練を続けていた。
エールタインとゆっくり話ができたルイーサ。
それもエールタインの住むダン家で会う事ができた。
「ヒルデ!」
「はい!」
ヒルデガルドを愛称呼びするようになるほどご機嫌だった。
今は二人の連携構築中。
より完成度を上げるためドミニクに向けて真剣に攻めていた。
「ええい! その攻撃はイライラさせおる。地味に効く良い方法だ。メリア!」
「はい!」
師匠ドミニクが嫌がる攻撃とは。
小石を親指で弾いて相手の目元や指先、喉元などを狙うというもの。
打ちながら剣で斬り込みに行くか、フェイントとして用いる。
ルイーサが考案した。
親指だけで弾いて相手との距離を稼ぎつつ当たればそれなりのダメージ。
その域に達するまで随分と時間が掛かったようだ。
親指の爪が他の指に比べて分厚いことで苦労が伺える。
そして助手無しで相手をしていたドミニクがメリアを参戦させるまでになった。
「あれだけ修練をさぼり続けたわりにはやるじゃないか」
「私が手を抜いていたとでも?」
「ここまで出来るのなら、もっと早くやれと言っておるのだ!」
その言葉を聞いたヒルデガルドは目の前で拳をにぎって肘を上下に一度振った。
主人の努力が実った瞬間である。
目を輝かせながらルイーサの動きに合わせ続ける。
「嬉しいです、わっ!」
喜びを掛け声にして大剣を後ろへ一回転させる。
その勢いに任せて剣先で地面を撫でると砂塵が舞い上がった。
「ほう! 他にも――――」
ドミニクが口走ろうとしたのを止めるように大剣がほこりの中から現れる。
反射的に剣の腹で受け止める師匠。
両脚の靴底が地面を五足分ほど削って衝撃を止める。
受け止め切られたルイーサは、浮いていた身体を二つの足音を立てて降ろした。
「くっ!」
歯を食いしばるルイーサ。
それを見たドミニクが一言伝える。
「なぜこれを見せなかった? いい形が出来ているじゃないか」
ドミニクの後ろへ回り込んでいたメリアも軽く歯を食いしばっていた。
「ドミニク様、遅れてしまい申し訳ありません」
「いや、今回は構わんよ。俺も受け止めることしかできていない」
ドミニクは後ろを振り返りメリアに言う。
「初めて見る攻めだったのだ。この歳になっても良い経験ができるとはな」
「……はい」
師匠が弟子について感慨に浸りかけたその時、ヒルデガルドが動いた。
師匠の隙を突こうと模造のショートソードを構えながら師匠へと向かって行く。
それに気づくメリアがすかさずドミニクの前に出てダガーを構えた。
ヒルデガルドはフェイントも無く真っ直ぐに突っ込む。
しかし模造剣はメリアのダガーにより弾かれた。
「そこまではさせないわよ」
メリアはニヤリとして言う。
「残念です」
ヒルデガルドは払われた模造剣を持ったままつぶやいた。
「ふむ。二人共成長していたか。まだ時間がかかると思っていたが、いけるな」
ルイーサは大剣を鞘へ戻して背筋を伸ばした。
そして首を傾げて問う。
「いける?」
ヒルデガルドもルイーサの横に並んでドミニクの話に耳を傾けた。
「ああ。先の魔獣討伐の件も加味すれば認定できるだろう」
「どういうこと?」
ヒルデガルドは気づいたようで、思わずルイーサの腕をつかんだ。
「何よ。あなたは分かったの?」
「ヒルデガルドも大変だな、察しの悪い主人を持って」
片足で地面を蹴るルイーサ。
「もう! 私だけわからないのは納得できない! 早く教えてよ」
「剣士に上がるんだよ。これからが本番だぞ。よりいっそう精進しなさい」
ヒルデガルドはつかんでいるルイーサの腕を引っ張りながら喜びを表現する。
「ルイーサ様! おめでとうございます!」
「わ、私が剣士に……なれるの?」
ティベルダの能力について探るには、遠方へ出向く必要がある。
ダンが取り急ぎ能力について知っていそうな者から仕入れた情報だ。
剣聖であるダンが長い間町から離れるわけにはいかない。
町長に続いて町に関する権限を有する者だからだ。
「逆手で剣を操るのならば撫でるように斬るのではなく、真っ直ぐ突き刺すか手前に引っ掛けるように扱うんだ」
「速さがあれば斬りつけられると思ったんだけどなあ」
これまでの修練では、エールタインのセンスに任せて思うようにさせていたダン。
しかしエールタインは自身が感じている壁を自力で乗り越えられずにいた。
ダンは長い目で見守るつもりであったが、剣士への昇格を迫られる時期を迎えたために技術的な面を教えざるを得なくなった。
「親心で待ち過ぎたようですね」
ヘルマが言うとダンは片手の平を見せて否定の仕草をする。
「事情が変わったのだ。俺は平和な状況に胡坐をかいていた。かえってエールにも悪い事をしてしまったな」
「ダン様はアウフ様を受け継いだ思いがあるのです。エール様を大事に育てようとされるのは仕方がないと思われます」
ダンはヘルマの言葉によりエールタインの父、アウフリーゲンを思い出したようだ。
「そういえばあいつの所へ顔を見せに行っていなかったな。ティベルダを連れたエールを見せてやらねば」
エールタインと約束をしていた墓参り。
様々な出来事が起きたこともあり、いまだに行けていなかった。
「それならばエール様が剣士になられた時にどうですか? アウフリーゲン様もきっとお喜びになられます」
「うむ。剣士の認定書を出した日に行くとするか」
見習い剣士が剣士に昇格する条件。
まず見習い剣士が弟子入りしている師匠に認められなければならない。
そして師匠が町に認定書を提出することで剣士へと昇格する。
弟子が剣士としてあるまじき行為を行った場合、師匠共々格下げとなる。
格下げは剣士にとって非常に厳しい処罰であるため、師匠は弟子を簡単に昇格させる事ができないようになっている。
剣士として求められる基準の維持のみでなく、上級剣士以上の者が師匠としての自覚を持つようにするためである。
Szene-02 ドミニク家、修練場
ルイーサはヒルデガルドと共に師匠であるドミニクと修練を続けていた。
エールタインとゆっくり話ができたルイーサ。
それもエールタインの住むダン家で会う事ができた。
「ヒルデ!」
「はい!」
ヒルデガルドを愛称呼びするようになるほどご機嫌だった。
今は二人の連携構築中。
より完成度を上げるためドミニクに向けて真剣に攻めていた。
「ええい! その攻撃はイライラさせおる。地味に効く良い方法だ。メリア!」
「はい!」
師匠ドミニクが嫌がる攻撃とは。
小石を親指で弾いて相手の目元や指先、喉元などを狙うというもの。
打ちながら剣で斬り込みに行くか、フェイントとして用いる。
ルイーサが考案した。
親指だけで弾いて相手との距離を稼ぎつつ当たればそれなりのダメージ。
その域に達するまで随分と時間が掛かったようだ。
親指の爪が他の指に比べて分厚いことで苦労が伺える。
そして助手無しで相手をしていたドミニクがメリアを参戦させるまでになった。
「あれだけ修練をさぼり続けたわりにはやるじゃないか」
「私が手を抜いていたとでも?」
「ここまで出来るのなら、もっと早くやれと言っておるのだ!」
その言葉を聞いたヒルデガルドは目の前で拳をにぎって肘を上下に一度振った。
主人の努力が実った瞬間である。
目を輝かせながらルイーサの動きに合わせ続ける。
「嬉しいです、わっ!」
喜びを掛け声にして大剣を後ろへ一回転させる。
その勢いに任せて剣先で地面を撫でると砂塵が舞い上がった。
「ほう! 他にも――――」
ドミニクが口走ろうとしたのを止めるように大剣がほこりの中から現れる。
反射的に剣の腹で受け止める師匠。
両脚の靴底が地面を五足分ほど削って衝撃を止める。
受け止め切られたルイーサは、浮いていた身体を二つの足音を立てて降ろした。
「くっ!」
歯を食いしばるルイーサ。
それを見たドミニクが一言伝える。
「なぜこれを見せなかった? いい形が出来ているじゃないか」
ドミニクの後ろへ回り込んでいたメリアも軽く歯を食いしばっていた。
「ドミニク様、遅れてしまい申し訳ありません」
「いや、今回は構わんよ。俺も受け止めることしかできていない」
ドミニクは後ろを振り返りメリアに言う。
「初めて見る攻めだったのだ。この歳になっても良い経験ができるとはな」
「……はい」
師匠が弟子について感慨に浸りかけたその時、ヒルデガルドが動いた。
師匠の隙を突こうと模造のショートソードを構えながら師匠へと向かって行く。
それに気づくメリアがすかさずドミニクの前に出てダガーを構えた。
ヒルデガルドはフェイントも無く真っ直ぐに突っ込む。
しかし模造剣はメリアのダガーにより弾かれた。
「そこまではさせないわよ」
メリアはニヤリとして言う。
「残念です」
ヒルデガルドは払われた模造剣を持ったままつぶやいた。
「ふむ。二人共成長していたか。まだ時間がかかると思っていたが、いけるな」
ルイーサは大剣を鞘へ戻して背筋を伸ばした。
そして首を傾げて問う。
「いける?」
ヒルデガルドもルイーサの横に並んでドミニクの話に耳を傾けた。
「ああ。先の魔獣討伐の件も加味すれば認定できるだろう」
「どういうこと?」
ヒルデガルドは気づいたようで、思わずルイーサの腕をつかんだ。
「何よ。あなたは分かったの?」
「ヒルデガルドも大変だな、察しの悪い主人を持って」
片足で地面を蹴るルイーサ。
「もう! 私だけわからないのは納得できない! 早く教えてよ」
「剣士に上がるんだよ。これからが本番だぞ。よりいっそう精進しなさい」
ヒルデガルドはつかんでいるルイーサの腕を引っ張りながら喜びを表現する。
「ルイーサ様! おめでとうございます!」
「わ、私が剣士に……なれるの?」
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