33 / 218
第一章 見習い剣士と新人奴隷
第三十三話 従者の募る思い
しおりを挟む
Szene-01 ダン家、食卓
ダン家ではいつも通りの朝を迎えていた。
朝食が済み、皆が一息ついている。
そしてティベルダは目をオレンジにしてエールタインの腕にしがみついていた。
「ティベルダは起きてからずっとオレンジね」
「昨日の夜寝る前からずっとオレンジなんだ。朝起きたら戻っていると思っていたけど……そのままだね。ずっとヒール状態だからボクは元気になっているよ」
「んふふ、エール様ぁ」
主人の腕に頬ずりをして楽しんでいるティベルダ。
エールタインへの懐き方に拍車がかかっているようだ。
「エール様への気持ちによって目の色が変わるのかしら」
「うん。ボクに向けて普段とは違う気持ちが溢れるとオレンジになるみたい。でも最近この状態から戻りにくくなっていてさ」
エールタインはこの状態を抑える方法としてキスをしていた。
ところが近頃はキスをしてあげると一旦戻りはするのだが、すぐに目はオレンジへと変わってしまうようになっていた。
「でもこうしているティベルダって可愛いでしょ? このままでもいいのかなって」
「どうなのでしょう。ダン様はどう思われます?」
「うーむ」
腕組みをして悩んでいるような恰好をするダンだが、どうも顔に真剣さが見受けられない。
「そうだなあ。エールが困っていないことと剣士としての行動に支障が無ければいいんじゃないか……正直言って、わからん」
ティベルダ以外の三人はダンの言葉に苦笑い。
「ダン様に女の子の仲について聞いても無駄でしたね」
「なにっ! む……無駄まで言わなくてもいいだろう」
「では分かるのですか?」
ヘルマが意地悪な笑みを浮かべながら主人に問う。
「……わからん」
三人とも「ほらね」とダンを注目している目で同時に言った。
「エール様はヒールを流し続けられたままでも大丈夫そうですね。慣れたのでしょうか」
「なのかな。今は心地よさだけを楽しめている気がするよ。気が付くと身体の痛みだとか悪い所が治っていてさ。初めは不思議な感じだったけれど今は普通になったし、無いと寂しくなる」
ティベルダの腕への頬ずりは肩まで移動している。
「ティベルダ、そろそろ頬っぺたが痛くならない?」
「なりませんよぉ。治していますからぁ」
「痛くはなっていたんだね」
ティベルダはエールタインへの甘えが止められなくなってしまったようだ。
主人が受け入れているので主従関係であるように見えなくなりつつある。
「もう姉妹としか思えないですね」
ヨハナはティベルダのいつも捲りあがり気味なワンピースの裾を直しながら言った。
「いいんじゃない? 家族らしくて。私たちは家族だから」
ヘルマの言葉に皆が納得する。
ティベルダは懐くことに夢中だが。
ダンの家で生活している全員は血のつながりが無い。
そう、他人同士である。
心が通じ合うか合わないかは紙一重。
だが五人の絆は非常に強いものとなっている。
まさに『出会い』という偶然が起こした奇跡。
「そう言われるとボクたちって相性がいいよね。デュオだけじゃなくてみんな仲がいいって素敵だよ」
エールタインの言葉を聞いてヨハナが思わず後ろを向いてエプロンを目元に押し当てた。
ヘルマも主人に安堵した表情をして目をやる。
それにダンは頷くことで答えた。
Szene-02 ダン家、ダンの部屋
ダンはヘルマと自室にいた。
食後に聞いたエールタインの言葉について話をしている。
「エール様があのようなことを思ってくださっていて良かったですね」
「ああ。少しはアウフが望んでいた通りに出来たのだろうか」
「アウフ様は同じ考えを持つダン様だからこそ託されたのですよ! それを踏まえつつダン様の思う家族にして欲しいと願われたのだと思っております。きっと今の生活を見て喜んでおられますよ」
ダンはヘルマの肩へ手を乗せる。
「お前がいなければ叶わなかったことだ。俺一人ではアウフのことを引きずりっぱなしで何もできなかっただろう。感謝する」
「勿体ないお言葉です」
二人は静かに互いを労っていた。
Szene-03 ダン家、エールタインの部屋
ティベルダは相変わらずエールタインにくっついている。
エールタインはそれを楽しみつつも修練をしたそうにそわそわしていた。
すると突然ティベルダが声を上げた。
「あ!」
「何、どうしたの?」
「お約束……」
「約束……あ」
そう。
今日はルイーサと話をするという約束の日である。
「えーと、鐘が鳴る頃に泉広場だったよね。今からなら間に合うか」
「思い出せて良かったです。お約束は守らないと」
「そうだね。思い出してくれてありがとう。まだあの人のことよくわからないんだけど、一緒に戦ってくれたしね。早速着替えて行こうか」
「はい!」
ティベルダは助手として役にたったようで喜びながら着替え始める。
見習い剣士とはいえ、それなりの装備はしなければならない。
いつ召集がかかってもよい様に常に待機状態だ。
「行けるかい?」
「行けます!」
ティベルダがエールタインの手を掴み、玄関へと向かい始めた。
「おっと。ヨハナぁ、人と会う約束があったから泉広場に行ってきまーす」
エールタインの発した言葉が玄関の閉じる扉に消されながら家内に届いた。
「そうでしたか。お気を付けて……あら、もういないわ」
ダン家ではいつも通りの朝を迎えていた。
朝食が済み、皆が一息ついている。
そしてティベルダは目をオレンジにしてエールタインの腕にしがみついていた。
「ティベルダは起きてからずっとオレンジね」
「昨日の夜寝る前からずっとオレンジなんだ。朝起きたら戻っていると思っていたけど……そのままだね。ずっとヒール状態だからボクは元気になっているよ」
「んふふ、エール様ぁ」
主人の腕に頬ずりをして楽しんでいるティベルダ。
エールタインへの懐き方に拍車がかかっているようだ。
「エール様への気持ちによって目の色が変わるのかしら」
「うん。ボクに向けて普段とは違う気持ちが溢れるとオレンジになるみたい。でも最近この状態から戻りにくくなっていてさ」
エールタインはこの状態を抑える方法としてキスをしていた。
ところが近頃はキスをしてあげると一旦戻りはするのだが、すぐに目はオレンジへと変わってしまうようになっていた。
「でもこうしているティベルダって可愛いでしょ? このままでもいいのかなって」
「どうなのでしょう。ダン様はどう思われます?」
「うーむ」
腕組みをして悩んでいるような恰好をするダンだが、どうも顔に真剣さが見受けられない。
「そうだなあ。エールが困っていないことと剣士としての行動に支障が無ければいいんじゃないか……正直言って、わからん」
ティベルダ以外の三人はダンの言葉に苦笑い。
「ダン様に女の子の仲について聞いても無駄でしたね」
「なにっ! む……無駄まで言わなくてもいいだろう」
「では分かるのですか?」
ヘルマが意地悪な笑みを浮かべながら主人に問う。
「……わからん」
三人とも「ほらね」とダンを注目している目で同時に言った。
「エール様はヒールを流し続けられたままでも大丈夫そうですね。慣れたのでしょうか」
「なのかな。今は心地よさだけを楽しめている気がするよ。気が付くと身体の痛みだとか悪い所が治っていてさ。初めは不思議な感じだったけれど今は普通になったし、無いと寂しくなる」
ティベルダの腕への頬ずりは肩まで移動している。
「ティベルダ、そろそろ頬っぺたが痛くならない?」
「なりませんよぉ。治していますからぁ」
「痛くはなっていたんだね」
ティベルダはエールタインへの甘えが止められなくなってしまったようだ。
主人が受け入れているので主従関係であるように見えなくなりつつある。
「もう姉妹としか思えないですね」
ヨハナはティベルダのいつも捲りあがり気味なワンピースの裾を直しながら言った。
「いいんじゃない? 家族らしくて。私たちは家族だから」
ヘルマの言葉に皆が納得する。
ティベルダは懐くことに夢中だが。
ダンの家で生活している全員は血のつながりが無い。
そう、他人同士である。
心が通じ合うか合わないかは紙一重。
だが五人の絆は非常に強いものとなっている。
まさに『出会い』という偶然が起こした奇跡。
「そう言われるとボクたちって相性がいいよね。デュオだけじゃなくてみんな仲がいいって素敵だよ」
エールタインの言葉を聞いてヨハナが思わず後ろを向いてエプロンを目元に押し当てた。
ヘルマも主人に安堵した表情をして目をやる。
それにダンは頷くことで答えた。
Szene-02 ダン家、ダンの部屋
ダンはヘルマと自室にいた。
食後に聞いたエールタインの言葉について話をしている。
「エール様があのようなことを思ってくださっていて良かったですね」
「ああ。少しはアウフが望んでいた通りに出来たのだろうか」
「アウフ様は同じ考えを持つダン様だからこそ託されたのですよ! それを踏まえつつダン様の思う家族にして欲しいと願われたのだと思っております。きっと今の生活を見て喜んでおられますよ」
ダンはヘルマの肩へ手を乗せる。
「お前がいなければ叶わなかったことだ。俺一人ではアウフのことを引きずりっぱなしで何もできなかっただろう。感謝する」
「勿体ないお言葉です」
二人は静かに互いを労っていた。
Szene-03 ダン家、エールタインの部屋
ティベルダは相変わらずエールタインにくっついている。
エールタインはそれを楽しみつつも修練をしたそうにそわそわしていた。
すると突然ティベルダが声を上げた。
「あ!」
「何、どうしたの?」
「お約束……」
「約束……あ」
そう。
今日はルイーサと話をするという約束の日である。
「えーと、鐘が鳴る頃に泉広場だったよね。今からなら間に合うか」
「思い出せて良かったです。お約束は守らないと」
「そうだね。思い出してくれてありがとう。まだあの人のことよくわからないんだけど、一緒に戦ってくれたしね。早速着替えて行こうか」
「はい!」
ティベルダは助手として役にたったようで喜びながら着替え始める。
見習い剣士とはいえ、それなりの装備はしなければならない。
いつ召集がかかってもよい様に常に待機状態だ。
「行けるかい?」
「行けます!」
ティベルダがエールタインの手を掴み、玄関へと向かい始めた。
「おっと。ヨハナぁ、人と会う約束があったから泉広場に行ってきまーす」
エールタインの発した言葉が玄関の閉じる扉に消されながら家内に届いた。
「そうでしたか。お気を付けて……あら、もういないわ」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。
太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。
鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォ
春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。
一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。
華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。
※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。
春人の天賦の才
料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活
春人の初期スキル
【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】
ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど
【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得 】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】
≪ 生成・製造スキル ≫
【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】
≪ 召喚スキル ≫
【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる