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第一章 見習い剣士と新人奴隷

第二十八話 魔獣討伐Ⅲ

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Szene-01 レアルプドルフ、西側山中

 ダン率いる小隊は、大型魔獣との闘いが続いていた。
 しかし、剣士たちの疲労も増しているためローテーションしながらの攻撃にも陰りが見えはじめている。
 魔獣も四方から剣を浴びせられているため、身体中に傷ができている。
 それでも致命傷を負っているわけではないようで、倒れる気配は感じられなかった。
 ダンとヘルマは剣士たちに立て直す時間を与えるため、攻撃に参加する回数を増やしていた。

「ヘルマ、まだ行けるか?」
「だめならこちらからお伝えしますよ! ダン様と同じだけ場数を踏んでいるのですから、そう簡単には止まりません」
「はっはっは。いい相棒を持ったよ。それに俺もまだやれるなあ。身体が思い出してきたようで動きが軽くなってきたぞ」
「エール様のおかげかもしれませんね。あの速さを毎日受け止めていたことで身体も鈍る暇がなかったのかも」

 剣をにぎり直して次の攻撃態勢をとりながらヘルマに言葉を返す。

「ああ。あの子の脚力は尋常じゃない。俺もよく毎日合わせられていたなと自分に驚いているよ。動体視力も衰えていない。感謝しないとな」
「攻撃が途切れそうです」
「よし、斬り込みを入れに行くか!」

 再びダン達が魔獣へと向かう。
 彼らの後方ではエールタインとティベルダが森をまっすぐ駆け抜けていた。

Szene-02 東西街道北側、森中の獣道

「ティベルダ、この速さで大丈夫?」
「なんとか大丈夫です! エール様はこれでも遅いのですよね?」
「んーと、そうだね。でも他の人なら段々遅くなるはずなのについてくるティベルダは足が速いと思うよ」

 エールタインはティベルダの様子に合わせて速さを調整していたが、一定の速度で走ることができている。
 荷物もそれなりに持っていることを考えると、ティベルダの脚力もよく鍛えられているようだ。

「走る練習は欠かさずしていたので遅くはないと思います。あと回復ができているからではないでしょうか。エール様は遅くしてこの速さでしょ? かっこ良過ぎですよお。あ、言葉……」

 主人に対しての丁寧語が抜けてしまったことに気づいて困惑するティベルダ。
 エールタインは聞きなれないティベルダの話し方に反応した。

「かわいい! ボクはその方が好きだなあ。もちろん丁寧に話す君も好きだけど、くだけた話し方の方がグッと近づいたようでうれしいよ」
「エール様、私に甘すぎませんか?」
「だって……かわいいし、好きだもん。いいじゃん」
「あの、私はどうしたらいいんでしょうか?」
「ん? どうしたらって……そのまま可愛くボクに懐いてくれればいいんだよ」

 ティベルダはひたすら森を駆け抜けているからかエールタインの言葉に反応してか、顔を真っ赤にしている。

「困ります。こんなに幸せでは困ります」
「なんでさ。幸せを感じるに越したことはないよ。そうか、幸せだと思ってくれているんだね。ボクはティベルダを選んで良かったな。来てくれてありがと」
「どうなっても知りませんよ?」
「そうなの? ボクが嫌なことならやめて欲しいけど、そうじゃないなら構わないよ」

 エールタインはティベルダの手をつかむ。
 そう。
 これまで手をつながずに走っていたのだ。
 それ故にエールタインが驚くことは当然であった。

「うわ。すごく熱いものが流れてくる! もしかして……」

 ティベルダの目をみるとオレンジ色に光っていた。

「これなら疲れずにダンの手伝いができそうだ」

Szene-03 東西街道北側、森中獣道合流地点

 ルイーサとヒルデガルドはエールタイン達と同じく森の中を移動していた。
 森の中に入ってからは茂みに阻まれて進みづらかったが、途中で獣道に合流した。

「ここからはこの獣道が魔獣のいる場所まで続いています」
「これなら走れるわね」

 二人共迷いなく走りはじめた。

「この道をエールタインさん達は走っているはず。着いたら戦闘よね。ヒルデガルド、覚悟をしてね」
「私のことはご心配なく。帰ることが出来ればルイーサ様の抱擁が待っていますから」
「ふふ。あなたって子は」

 見習い剣士二人とその従者は初の実戦を魔獣討伐という大仕事で迎えようとしていた。
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