上 下
27 / 218
第一章 見習い剣士と新人奴隷

第二十七話 魔獣討伐Ⅱ

しおりを挟む
Szene-01 東西街道上、後衛部隊待機場

 森の奥から聞こえてくる戦いの音。
 ルイーサは少し緊張した顔をしていた。
 ただ待っているだけの状況も張り詰めた空気を作る要因になっている。

「ルイーサ様、魔獣は多くの攻撃を受けて弱りつつあるようです」

 従者からの報告に戸惑うルイーサ。
 強張った表情のままヒルデガルドを見る。

「なぜわかるのよ」
「アムレットが教えてくれました」
「……その子能力があるの?」
「魔獣ですし、この子にとっても大型魔獣は天敵。本能的に感じたみたいですね」

 ヒルデガルドは腰の小型カバンにやさしく手をそえながら答えた。

「ふーん。その子かわいいだけじゃないのね。もしかして他にも何かできるのかしら?」
「そうですね……普段この子が他の子としていることですけど、連絡を取り合っているので遠方の情報が入ったり逆にこちらから情報を送ったりできます」

 ヒルデガルドはルイーサや他の人の近くにいる時にアムレットから情報を得ていた。
 それにより突然ルイーサへ情報を伝えることがあったというわけだ。

「他にも何かできそうなのですけど、なかなか試せていなくて」
「かわいい上に私たちの強い味方ってわけね。帰ったらいっぱいなでてあげるわ」
「ルイーサ様はアムレットと遊びたいのではないですか?」
「な、ち、ちょっと! そんな……かわいい子を可愛がっても……いいでしょ?」

 ヒルデガルドはクスッと笑ってしまった。

「いっぱい可愛がってあげてください。ルイーサ様もこの子の主ですから」

 そんなやりとりをしている間にルイーサの表情も和らいでいた。
 ヒルデガルドに上手く調整されたのかもしれない。
 一方エールタインはただ待っている状況に苛立っていた。
 育ての親と言える二人が戦っている状況で自分が何もできていない。
 焦りが出てきているようだ。

Szene-02 東西街道上、後衛待機場最東部

「エール様。待機も任務ですから……でも心配ですよね。行きますか?」

 デュオとしてまともに修練をしていないにも関わらず、ティベルダはエールタインの気持ちに乗って見せた。

「ごめん。多分いや絶対怒られるけど、加勢したい」
「私はエール様の奴隷。全て受け入れます」

 エールタインはティベルダの頭を一度、二度となでる。
 そして一言伝えた。

「実戦をしながらボクたちデュオを形にしていくよ。無茶な事を承知の上で付いてきてくれるかい?」
「はい! エール様の思いを形にするために私はいます。どこまでもお付き合いします」

 二人は周りをさりげなく見回しながら加勢への気持ちを身体に伝える。
 すでに戦闘態勢で待機していたために準備を確認するまでもない。
 確認をしないのは見られていることを想定してのことでもある。
 エールタインがティベルダにささやいた。

「いくよ」
「はい」

 ティベルダはいつの間にかランタンの灯りを消していたため二人は暗闇の中だ。
 ゆっくりと足音を立てずに森へと向かう。
 草の音ができるだけ出ないよう慎重に茂みへと入り込んでゆく。
 そしてさらなる暗闇へと姿を消した。
 その時ヒルデガルドにはアムレットから情報が入る。

「ルイーサ様、エールタイン様が動いたようです」
「どういうこと!?」
「おそらく加勢に向かったのだと思われます」
「あの子ったら……」

 ルイーサは片手を顎へと持っていき悩む仕草をする。
 しかし一瞬でそのポーズは解かれた。

「ヒルデガルド」
「はい。いつでもどうぞ」
「周りは?」
「今なら行けるかと」
「帰ったら思いっきり抱きしめてあげるから付いてきて」
「楽しみにしています」

 待機指示に背いた四人は戦いの音がする森の中へと向かって行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...