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第一章 下拭き
3-6 縮まる距離
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ユシャリーノは、勇者ステータスのことを振り返り、勇者は王都民から嫌われているのではないかと推測した。
ユシャリーノの隣にミルトカルドが座り、素朴な疑問を投げ掛けられたところだ。
「城へ行ってさ、王様に勇者ステータスってやつを教えてもらったんだ……ん? いや違うな。王様はあんまり知らなかったから、秘書さんからだ」
ミルトカルドは表情を曇らせると、軽く頬を膨らませて言う。
「その秘書さんって、薔薇の香りを付けているのね」
「え……なんでわかるんだ? 確かに薔薇の匂いがしていたよ。服とかさ、身に着けるもので似合うと思うことはあっても、香りが似合う人だと思ったのは初めてだったな。それがまたとっても美人でさ、王様も豪華な服を着て貫禄もあるんだけど、秘書さんの方が気になって――」
秘書のことを思い出し、頭の中が困りごとから秘書のことへと切り替わったユシャリーノは、早口で捲し立て始めた。
その途端、ミルトカルドに勢いよく口を塞がれる。
「ふぐっ」
「やめて。それ以上他の女のことを褒める話はしないで。ユシャリーノが気にするのは私だけで十分でしょ? 私はこんなに近くに、それもいくらでも触れられるわ。その秘書なんて、どうせ王様のものでしょ。そんな人のことを気にする必要なんて微塵もない。いい? ユシャリーノが気にする女は、私だけ。私はあなただけを思っているんだから、ちゃんとそれに答えてくれなきゃだめよ」
ユシャリーノは、口を塞がれただけでなく、顎を上げられて動けない。
さらに、ミルトカルドから鋭い目で見つめられ、返事の身振りすらできない。
二人は、しばし目を合わせたままだったが、ユシャリーノは苦しいながらも力を抜いて答えの代わりにした。
「うふっ」
ミルトカルドは、力を抜いたユシャリーノに微笑んで拘束から解放すると頭を撫でた。
「わかってくれたのね」
「うう、見た目からは想像できない力だったぞ。秘書さんは、王様の手伝いをしているんだ。俺が城へ行ったら会わないわけにはいかないよ」
解放はされているが、上を向いたままで真後ろにいるミルトカルドに伝える。
少し首をクイッと回してユシャリーノは話しを続けた。
「ミルトカルド、俺とは会ったばかりなのに――」
「なんでそんなにユシャのことが好きなのかって? そんなの、理由なんてないわ。私はユシャと話したらビビッときちゃったのよ。ああ、この人しかいないって。その人が、探していた勇者だなんて、奇跡だと思わない? こんな素敵な出会いを手放すわけないでしょ?」
話しの主導権を奪われたユシャリーノは、聞こうとしたことと、その答えも言われて言葉に詰まる。
「よくわかんないけど、俺を好きになる女の子に会ったのは初めてだからさ、その――」
頭を掻きながら、ユシャリーノはしどろもどろになっていた。
真後ろにいるミルトカルドの姿を、足元からじわじわと上げていくようにして見上げる。
目が合うと、ミルトカルドはジッとユシャリーノの様子を見つめていた。
そして、優しい笑みを浮かべてユシャリーノの視線を受け止めた。
「私はユシャの好みに合ってる? 他の女に目移りしないぐらい気に入ってくれるとうれしいな」
「俺さあ、今、胸のドキドキがこれまでに感じたことがないくらい速くて驚いてる。改めて考えると、こんなにきれいな女の子がそばにいるのって嘘だろ」
ミルトカルドは目をキラキラとさせ、興味深々の表情で話の続きを待っている。
彼女の笑顔からは、ユシャリーノの言葉に真剣に耳を傾けていることが伝わってくる。
ユシャリーノは、胸が高鳴り、心がときめく感情が湧き上がるが、そのドキドキに負けないようにして続けた。
「俺の好みなんて考えたことないから、女の子を好きになるってことがわからねえ。それに、俺が知っている女の子って言ったら――」
ユシャリーノが出会った女性は、母親、祖母、それに姪っ子くらい。
強いて言えば、案内をした旅人の中に年上の女性がいたり、山仕事仲間のおじさんに「ユシャリーノ、うちの娘だ」と紹介された既婚者ぐらいだった。
勇者ステータスのことでいっぱいだった頭は、すっかりミルトカルドについてのことでいっぱいになってしまった。
鼓動の速さを感じながら、募る思いをぶつけてくるミルトカルドに押されて、対応に困ってしまうユシャリーノ。
そんなユシャリーノの気持ちに満足したのか、ミルトカルドは、勇者ステータスについての話しを聞き直した。
「それにしても、勇者が嫌われているだなんて変な話ね。みんなの代わりに立ち上がってくれた素晴らしい人たちのはずでしょ?」
「同感。それでわけがわからなくなったところさ」
頭の中で、勇者ステータスについてと、ミルトカルドについてを反復横跳びしていたユシャリーノ。
ミルトカルドのさりげない助けにより、勇者ステータスの話に戻すことができた。
ユシャリーノは、ミルトカルドと話しをするだけで、心を落ち着かせていられるような気がした。
ミルトカルドは、ユシャリーノの頭の中を自分だけで埋め尽くしたい一心だが。
今のところ、ユシャリーノにとって良い結果につながっているのだから、静かに見守るべきなのだろう。
ユシャリーノの隣にミルトカルドが座り、素朴な疑問を投げ掛けられたところだ。
「城へ行ってさ、王様に勇者ステータスってやつを教えてもらったんだ……ん? いや違うな。王様はあんまり知らなかったから、秘書さんからだ」
ミルトカルドは表情を曇らせると、軽く頬を膨らませて言う。
「その秘書さんって、薔薇の香りを付けているのね」
「え……なんでわかるんだ? 確かに薔薇の匂いがしていたよ。服とかさ、身に着けるもので似合うと思うことはあっても、香りが似合う人だと思ったのは初めてだったな。それがまたとっても美人でさ、王様も豪華な服を着て貫禄もあるんだけど、秘書さんの方が気になって――」
秘書のことを思い出し、頭の中が困りごとから秘書のことへと切り替わったユシャリーノは、早口で捲し立て始めた。
その途端、ミルトカルドに勢いよく口を塞がれる。
「ふぐっ」
「やめて。それ以上他の女のことを褒める話はしないで。ユシャリーノが気にするのは私だけで十分でしょ? 私はこんなに近くに、それもいくらでも触れられるわ。その秘書なんて、どうせ王様のものでしょ。そんな人のことを気にする必要なんて微塵もない。いい? ユシャリーノが気にする女は、私だけ。私はあなただけを思っているんだから、ちゃんとそれに答えてくれなきゃだめよ」
ユシャリーノは、口を塞がれただけでなく、顎を上げられて動けない。
さらに、ミルトカルドから鋭い目で見つめられ、返事の身振りすらできない。
二人は、しばし目を合わせたままだったが、ユシャリーノは苦しいながらも力を抜いて答えの代わりにした。
「うふっ」
ミルトカルドは、力を抜いたユシャリーノに微笑んで拘束から解放すると頭を撫でた。
「わかってくれたのね」
「うう、見た目からは想像できない力だったぞ。秘書さんは、王様の手伝いをしているんだ。俺が城へ行ったら会わないわけにはいかないよ」
解放はされているが、上を向いたままで真後ろにいるミルトカルドに伝える。
少し首をクイッと回してユシャリーノは話しを続けた。
「ミルトカルド、俺とは会ったばかりなのに――」
「なんでそんなにユシャのことが好きなのかって? そんなの、理由なんてないわ。私はユシャと話したらビビッときちゃったのよ。ああ、この人しかいないって。その人が、探していた勇者だなんて、奇跡だと思わない? こんな素敵な出会いを手放すわけないでしょ?」
話しの主導権を奪われたユシャリーノは、聞こうとしたことと、その答えも言われて言葉に詰まる。
「よくわかんないけど、俺を好きになる女の子に会ったのは初めてだからさ、その――」
頭を掻きながら、ユシャリーノはしどろもどろになっていた。
真後ろにいるミルトカルドの姿を、足元からじわじわと上げていくようにして見上げる。
目が合うと、ミルトカルドはジッとユシャリーノの様子を見つめていた。
そして、優しい笑みを浮かべてユシャリーノの視線を受け止めた。
「私はユシャの好みに合ってる? 他の女に目移りしないぐらい気に入ってくれるとうれしいな」
「俺さあ、今、胸のドキドキがこれまでに感じたことがないくらい速くて驚いてる。改めて考えると、こんなにきれいな女の子がそばにいるのって嘘だろ」
ミルトカルドは目をキラキラとさせ、興味深々の表情で話の続きを待っている。
彼女の笑顔からは、ユシャリーノの言葉に真剣に耳を傾けていることが伝わってくる。
ユシャリーノは、胸が高鳴り、心がときめく感情が湧き上がるが、そのドキドキに負けないようにして続けた。
「俺の好みなんて考えたことないから、女の子を好きになるってことがわからねえ。それに、俺が知っている女の子って言ったら――」
ユシャリーノが出会った女性は、母親、祖母、それに姪っ子くらい。
強いて言えば、案内をした旅人の中に年上の女性がいたり、山仕事仲間のおじさんに「ユシャリーノ、うちの娘だ」と紹介された既婚者ぐらいだった。
勇者ステータスのことでいっぱいだった頭は、すっかりミルトカルドについてのことでいっぱいになってしまった。
鼓動の速さを感じながら、募る思いをぶつけてくるミルトカルドに押されて、対応に困ってしまうユシャリーノ。
そんなユシャリーノの気持ちに満足したのか、ミルトカルドは、勇者ステータスについての話しを聞き直した。
「それにしても、勇者が嫌われているだなんて変な話ね。みんなの代わりに立ち上がってくれた素晴らしい人たちのはずでしょ?」
「同感。それでわけがわからなくなったところさ」
頭の中で、勇者ステータスについてと、ミルトカルドについてを反復横跳びしていたユシャリーノ。
ミルトカルドのさりげない助けにより、勇者ステータスの話に戻すことができた。
ユシャリーノは、ミルトカルドと話しをするだけで、心を落ち着かせていられるような気がした。
ミルトカルドは、ユシャリーノの頭の中を自分だけで埋め尽くしたい一心だが。
今のところ、ユシャリーノにとって良い結果につながっているのだから、静かに見守るべきなのだろう。
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