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Folge 61 圧勝

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 下校途中。
 靴の底がベロのようにべろ~んと剥がれた。
 これでは歩けないと、仕方なく体育館シューズに替える。
 恥ずかしい。
 裸足よりはマシよ、と二人に励まされながら帰る。
 道中カラスに襲われる。
 くちばしで突かれまくり。
 痛すぎる。
 も~いたい~よ~と歌を歌った。
 途端にカラスはフラフラと飛び去った。
 電柱のてっぺんや民家の屋根。
 マンションのベランダや看板。
 何羽にやられているんだか。
 それぞれの場所に着いた途端、全羽地面へと落下した。

「サダメちゃんの歌、殺傷能力高いんですね」

「お歌はやめようよ。なんで襲われたのに歌えるの?」

「わかんねえ」

 歌でカラスがやられただと?
 まさか。

「二人共酷いよ」

「でも、今の見ましたよね?」

 見たけども。
 認めたくないのだよ。

「どうしてもって言うなら、ボクが口を塞いであげるね」

「じゃあ歌おうかな」

「サダメ、ボクとしたいの?」

「私とはしたくないのですか? したくないんですね」

「いや歌だよ? そんな話になっちゃうの?」

「もう歌はどうでもいいんですよ。私とキスをしたいかどうか、です」

「美咲、キスはボクの担当だってば。無理しないでいいよ」

「サダメちゃん、私の虜になるほどにキスをしてあげますよ」

「美咲? 牛乳飲んだっけ。飲んでないよね?」

 明らかに美咲の目つきが変わっている。
 咲乃からの圧が刺激になってしまったのかも。
 美咲も独占欲は強いんだよな。
 普段は隠しているけれど。
 一度顔を出すと、ヤバい。

「何を言っているのかしら。サダメちゃんは私の。だからキスをするの」

「渡さないからね! ボクのだから美咲には渡さない」

「渡すとか渡さないなんて元々無いでしょ。だって、私のなんだから」

 お、オレはどうしたらいいんだ。
 まだどちらかをなんて、決められないし、決められる立場じゃないんだ。
 だって、どちらも素敵じゃないか。
 そうか。
 妹の時と同じようにしよう。
 それがオレのやり方で、それしかできない。

「二人共、ごめんな。どっちとか決められないんだ」

 左腕で美咲、右腕では咲乃。
 思いっきり抱きしめた。

「ちょっと、私が抱えるんですから、逆よ」

「サダメ、きついよ。優しくして。ボクは逃げないから」

「黙って抱えられていろよ!」

 力を増す。
 痛くなるのは承知の上で。
 その痛さもオレの気持ちとして受け取ってもらいたかった。
 ただ、必死に抱きしめる。

「……分かったわ。今はサダメちゃんの好きにしていいですから」

「……あん。ボクはいつもサダメの好きにしていいんだから、落ち着いて」

 そういや、ここは外だった。
 体育館シューズを履いて、カラスに突かれ乱れた髪。
 その容姿で美人姉妹を抱きしめている。
 路上で。
 カッコいい? カッコ悪い?
 ご近所さんは慣れているはずだけど。
 抱いているのは妹じゃないからなあ。
 目立っているよなあ。
 急に恥ずかしくなってきた。
 二人を開放しよう。

「サダメからあんな言葉を言われるなんて、ドキっとしたよ」

「サダメちゃん。あなたからの想い、確かに受け取りました。離さないわ」

 美咲は変わっていないね。
 結構オレなりに頑張ってみたのだけど。
 本心からの勢い。
 慣れていないから手が震えてきたよ。

「驚かせてごめん。でもな、今の気持ちだよ。この手の震え、笑えるだろ」

 改めてそれぞれの腕に二人は抱き着く。

「帰ろう。テスト終わりの休みが欲しい」

「待って。サダメのお尻が――」

 お尻?
 咲乃、どこ見てるんだよ。

「それってカラスの糞じゃないかしら」

 ああ!?
 爆撃までしてやがったのか!
 また綺麗に谷間へ掛けやがって。
 汚ねえなあ。
 でも替えは無いし。
 なんてこった。
 体育館シューズを履いて、髪は乱れ、鳥糞を付けたズボン。
 まさか。
 これって、裕二の呪い!?
 あいつ、侮れないな。
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