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命懸けの仕事

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滝と、噴水が設置され、
管理の行き届いた庭の植木達。
ギリシャ彫刻が2列にずらりと並んでいる。

その中に落ち着いた存在感を放つ、
スタンドガラスで彩られた、趣深い洋館。
まさに、誰もが羨む大邸宅。

その主である、N氏が、家に帰り、
ようやく一息ついて、
戸棚のワインを開けようとしたその時。



窓ガラスを破る音が聞こえ、
覆面の男が現れた。
銃口を突きつけている。

「おい、金を出せ。
 早くだ。」

命には換えられない。
N氏は慌てて、金庫のダイヤルをいじる。

恐る恐る聞いてみた。

「穏やかでは無いな。
 どうして命を張ってまで
 こんな危険な事を繰り返すのだ。」



少し余裕が出来たのか、
男は、室内のインテリアを眺めていた。

「それにしても、良い家だな。
 嫌な感じだ。 

 実に呑気な暮らし。
 お前には想像もできないだろう。
 
 世の中には、
 毎日飯を食うためだけ。
 そんな理由だけで、体を張り、
 命を賭けなければならない者達は
 大勢いるんだぞ。

 俺の様に。」



男が喋り終わったその時だった。

奥の部屋から、
いきなり、特殊部隊が現れ、
男を確保する。

「いやぁ、おとり捜査の
 ご協力頂きありがとうございました。

 この辺りを騒がせていた強盗です。
 本当に助かりました。
 
 か弱き市民のために、
 まさに成功者としての義務を
 ご立派に果たされましたな。」

部隊は、満足気に帰って行った。



N氏は、ほっとして、
屋敷中の警報装置を作動させ、
ボディーガードを呼び戻した。

「飯を食うために命を賭ける。か。」

あの強盗は昔の私の姿である。
食うのに困り、どんな事でも
命を削って働かざるを得なかった。

もう二度とこんな思いはしたく無いと、
財を成し、
命の危険の無い、
平和で豊かで安定した暮らしを
ようやく実現したと言うのに。


「成功者としての義務」
まさか、そんなくだらないもののために、
命を賭けなければならない羽目になるとは…
 



 
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