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洗濯
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アキラは、
大きく音を立ててドアを閉め、
ズボン、シャツを洗濯機へ放り投げた。
震える手で運転開始のボタンを押した。
心地よい周期的なリズムと、
水の回転する音、
時折聞こえる洗濯槽のキュッという音が
いささか彼の心を慰めた。
「良いなぁ お前らは。
どんなに汚れてもすぐ綺麗になって。」
彼は少し涙交じりに呟いた。
彼は彼女に別れを告げられたばかり。
この心の傷は当分癒えそうもない。
過去自分の犯した様々な過ちが思い返された。
それらが全て深い傷となって襲いかかった。
それらは決して消える事はなく、
今後も彼の心を蝕み続けるだろう。
心の傷は残り続けるのだ。
年と共に、それは増えていく一方だ。
洗濯物のように全てを無かった事にできたら
楽なのに…
洗濯槽は止まる事なく回っている…
古代エジプト。
朝、ナイル川近くの大農場。
ライラは、他の10数人の奴隷と共に、
巨大な桶に入った大量の洗濯物を足で踏み、
洗っていた。
真夏。この時期の朝の洗濯は
涼しくて最高である。
昼からは作物の世話、牛の世話、織物作り、
様々な仕事が待っているが、
毎日同じことの繰り返しである事に変わりはない。
先祖代々、変わらないこの暮らし。
私もそうであるし、子どもも孫もそうだろう。
いささか、退屈さは感じるが、
生活は保証され、
なんと言っても、世界一の都市、エジプト。
たまに街へ行けば、進んだものも見られる。
ライラはこの生活に満足していた。
しかし、このような気持ちの良い朝には
普段しないような色んな妄想が広がる。
足元で服を踏みながら考える。
私もこの洋服たちのように、
前世や色々な物の汚れを取り切り、
全く新しい物として生まれ変われたら、
どんなに良いだろうか…
今日はそんな考えまで広がる。
洗濯物を踏む気持ち良い音が続く。
旧石器時代。 よく晴れた朝。
ウベは、愛用している毛皮を
家の裏に広げて干した。
昨日、今日の狩でたくさん汗をかいた。
着続けると、いささかかゆくなっていた。
こう言う時は陰干しでもすると、
また新しく着る事ができる。
不思議な物だ。
どんなに汚れていても、
どんなに臭くても、
洗って干せば新しくまた使えるのだ。
人間はそうはいかないのに。
いや、人間ももしそうだとしたら
面白いのではないか…
彼は何かに気づいた。
それがあるから、ネアンデルタール人に
打ち勝ったと言われ、
「法律」「約束」「計画」「福祉」「死生観」の
基盤を作り、
人類の発展を促し、
人間社会の根幹を築いたとされる宗教は、
不思議な事に、
「死」「再生」「復活」
世界中どこへ行っても
この概念から形作られている。
その概念の元は、太陽と考えられてきたが、
もっと生活に根差し、全ての人が行い、
ウキウキした気分や、
人によっては、少々センチメンタルにもなる
この瞬間に発明されたのかも知れない。
人間には持ち合わせていない能力であり、
川の近くで行いやすく、
またそれ故にそこで宗教が発展し、
都市が作られたのかも知れない。
そして、人間が楽園を追放された瞬間より、
服があれば必ず必要となる。
すなわち、「洗濯」…
大きく音を立ててドアを閉め、
ズボン、シャツを洗濯機へ放り投げた。
震える手で運転開始のボタンを押した。
心地よい周期的なリズムと、
水の回転する音、
時折聞こえる洗濯槽のキュッという音が
いささか彼の心を慰めた。
「良いなぁ お前らは。
どんなに汚れてもすぐ綺麗になって。」
彼は少し涙交じりに呟いた。
彼は彼女に別れを告げられたばかり。
この心の傷は当分癒えそうもない。
過去自分の犯した様々な過ちが思い返された。
それらが全て深い傷となって襲いかかった。
それらは決して消える事はなく、
今後も彼の心を蝕み続けるだろう。
心の傷は残り続けるのだ。
年と共に、それは増えていく一方だ。
洗濯物のように全てを無かった事にできたら
楽なのに…
洗濯槽は止まる事なく回っている…
古代エジプト。
朝、ナイル川近くの大農場。
ライラは、他の10数人の奴隷と共に、
巨大な桶に入った大量の洗濯物を足で踏み、
洗っていた。
真夏。この時期の朝の洗濯は
涼しくて最高である。
昼からは作物の世話、牛の世話、織物作り、
様々な仕事が待っているが、
毎日同じことの繰り返しである事に変わりはない。
先祖代々、変わらないこの暮らし。
私もそうであるし、子どもも孫もそうだろう。
いささか、退屈さは感じるが、
生活は保証され、
なんと言っても、世界一の都市、エジプト。
たまに街へ行けば、進んだものも見られる。
ライラはこの生活に満足していた。
しかし、このような気持ちの良い朝には
普段しないような色んな妄想が広がる。
足元で服を踏みながら考える。
私もこの洋服たちのように、
前世や色々な物の汚れを取り切り、
全く新しい物として生まれ変われたら、
どんなに良いだろうか…
今日はそんな考えまで広がる。
洗濯物を踏む気持ち良い音が続く。
旧石器時代。 よく晴れた朝。
ウベは、愛用している毛皮を
家の裏に広げて干した。
昨日、今日の狩でたくさん汗をかいた。
着続けると、いささかかゆくなっていた。
こう言う時は陰干しでもすると、
また新しく着る事ができる。
不思議な物だ。
どんなに汚れていても、
どんなに臭くても、
洗って干せば新しくまた使えるのだ。
人間はそうはいかないのに。
いや、人間ももしそうだとしたら
面白いのではないか…
彼は何かに気づいた。
それがあるから、ネアンデルタール人に
打ち勝ったと言われ、
「法律」「約束」「計画」「福祉」「死生観」の
基盤を作り、
人類の発展を促し、
人間社会の根幹を築いたとされる宗教は、
不思議な事に、
「死」「再生」「復活」
世界中どこへ行っても
この概念から形作られている。
その概念の元は、太陽と考えられてきたが、
もっと生活に根差し、全ての人が行い、
ウキウキした気分や、
人によっては、少々センチメンタルにもなる
この瞬間に発明されたのかも知れない。
人間には持ち合わせていない能力であり、
川の近くで行いやすく、
またそれ故にそこで宗教が発展し、
都市が作られたのかも知れない。
そして、人間が楽園を追放された瞬間より、
服があれば必ず必要となる。
すなわち、「洗濯」…
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