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#.2真向かう現実
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#.2 真向かう現実
『美香、詳しく話してくれるか?』美香は頷くだけだった。
『早く、家に帰りたい』美香が呟く。保健室の窓から外を確認する。マスコミの連中と
美香との接触を避けるために。恐らく、連中は何か勘ぐっているに違いない。
『美香、俺に言ったことを誰かに行ってないか?』『うん。南朋が初めてだよ』
『望結、ちょっと美香の傍に居てくれるか、俺は念のため周りを見てくる』
『わかった。出来るだけ早く帰ってきてね』望結は、少し不安そうに言う。
『りょうかーい、少し気になるだけだから、直ぐ戻る』そう言って、保健室を出る。
廊下は薄暗く、少し気味が悪い。自分の足音だけが鳴り響く。辺りを見回すが気配はない。
5分程し、保健室へ戻る。『薄暗くて、気味悪かったぜ、誰も居てないな』
『よし、今から帰るか。美香の家はマスコミの連中がいてる可能性があるから、俺んちに
行こう』『わかった。でも大丈夫なの』『全然オッケー!そのうち沙紀も帰ってくるしな』
沙紀は口うるさいが、こんな時だけは役に立つ。って口に出して言えねーが(笑)
『南朋、まだ沙紀さん困らしてんの!』急に美香の声のトーンが変わる。
『お前、元気じゃねーか!』いつもの美香が戻って少し戻ったようで安心した。
『良かったー、いつもの美香だぁ』と望結も笑顔を取り戻した。
『よし!そんじゃ、行くか!』『うん、南朋頼むよ!』と美香が背中を押してくれる。
『任せとけって、俺を誰だと思ってんだよー笑』と何気ないやり取りが心地よい。
保健室から、何事もなく裏口までたどり着く。『美香、俺の後ろに乗れよ』
『やだ!望結と二人乗りするんだ笑』『わーたから、早くしろよ』何なんだコイツは…笑
『望結、久々だよね。二人乗りするの』『だね、昔を思い出すなー』お前もかよ…笑
親父さんが亡くなり、さっきまで落ち込んでんじゃ‥まぁ、いいか。
考えてみると、この3人が一緒の時間を過ごすのて、2年振りくらいだなぁ。
こういっちゃ、不謹慎だけど、親父さんが巡り合わせてくれたのかも。運命ってやつ!
『着いたぞ。さぁ早く家に入れよ』『お邪魔しまーす』って既に入ってるし笑
『へー、わりと片付いてるじゃん。あっ、そうか望結に手伝ってもらったんだ』
『なっ、なわけないって…、俺も一緒にやってんだ!』なんだよ、めんどくせーな笑
『アンタね、子供じゃないんだから、沙紀さんの手伝いしなさいよ!』
『うっせーな、沙紀みたいな事言うんじゃねーよ』あー、家に呼ばなきゃ良かった…
これで、沙紀が帰ってきた時の状況を考えると…最悪だ。女3人に総攻撃だな。
ヤバい、ヤバい。早く話しを本題に戻さないと。時間も時間だし、沙紀が帰ってくる。
『取り合えず、座って落ち着こうせ』って、既にくつろいで話してるし…
これだから、女ってのはめんどくせーんだよな。次々に感情がコロコロ変わりあがる。
まぁ、これでいいのかもな。少しの間でも落ち着ける時間が持てれば。
『美香、そろそろ今朝の話しを詳しく聞かせろよ。何があったんだ』と切り込む。
楽し気な会話をしていた二人が一瞬黙り込んだ。そして、重い口を開いて語りだす。
『今日も、いつもの様にお父さんのご飯の準備をして、学校へ行こうとしたの…』
美香の親父さんは、昔から時間に正確で何をするにも、正確に行動する人だ。
以前、何かの約束で遅れていった時、かなり怒られた記憶がある。たった1分でも。
勿論、人に対してだけじゃなくて、自分にも厳しい人だったのは美香に聞いている。
『いつもは、お母さんの写真を見つめているんだけど、その日は違ったんだ。』
『美香、もしかして!』と望結が口を開く。
実は、以前より美香は望結に相談をしており、親父さんが何度か朝に電話をしていると。
それも、聴こえるような声ではなくてヒソヒソと話すと言うのだ。何度か、本人に聞いて
見たんだけど、何か隠しているような様子で、話しを反らされるらしい。
『望結、そうなの。その日も電話をしていたの。しばらく様子を見ようとしたんだけど…』
と美香は時計と睨めっこし、結果的に最後まで見届けづに学校へ行ったとの事なのだ。
『美香、それで警察は親父さんの死因はなんて?』
『精神薬の過剰摂取による中毒死だって。でも最近は飲んでなかった!』と声を荒げた。
美香によると、確かに処方はされていたんだが、調子が良く飲んでなかったらしい。
それに、最近は塞ぎこむだけではなくて、外出する時間も定期的に作っていたようだ。
『最初は、美香のお父さんは自殺だと思っていたけど、話し聞いてると違和感があるよ』
『確かに!謎の電話といい、何もかもが違和感だらけだ!』
とはいえ、確証がないのも事実…
『私は、お父さんに何があったのか知りたいよ。真実を!出来るなら、もう一度話したい』
美香の悲痛な思いだけが虚しく鳴り響く。どうすればいいのか…
頭をフル回転させる。そうだ!さっきいたマスコミなら、何か情報を知っているのかも。
『美香、マスコミ連中なら情報を知っているかも』
『そうだけど、嫌な事まで話さないといけないし…』
『そっか、それはそうだな。それじゃ、俺と望結で何とか情報を聞き出すのはいいか?』
『私は有難いけど。南朋大丈夫なの?望結も?』
『何言ってんだよ、お前らしくもねーな。俺に任せとけって!』
『そうだよ美香。そのために私達がいるんだよ』
『ありがとね。ちょっと、南朋は頼りないから、望結頼んだね』
『お前、一言よけーなんだって、何も心配いらねーからな』
『そうだよ美香。私達に任しといて。確かに、南朋はちょこっと頼りないけどね』
『お前らなーーーーーーー』
後は、どうやって連中に接触するかが問題だ。そもそも、どこまで知っているかも謎だし
とにかく今は、学校からの連絡を待つしかねーかな。お葬式もあることだし。
まずは、親父さんを安らかに見送ってあげる事を優先に考えよう。
『南朋、ただいまー。美香ちゃんは?』ヤベ、沙紀が帰って来た。
『沙紀さーん、お帰り。会いたかったよ』『美香ちゃん、元気そうで良かった』
『望結ちゃんもいてくれたのね。久しぶりだね。望結ちゃんも元気そうで安心したよ』
いったん、自分の部屋に避難した方がよさそうだな。
『こら、南朋!どこに行くの!』『部屋にもどるんだって、沙紀後は頼んだー』
『二人ともゴメンね。相変わらず頼りないでしょ』『だから、いちいち余計な事言うなー』
想定内の展開だ…、こりゃ、逃げるが勝ち。余計に話がややこしくなる。
『沙紀―、晩飯出来たら呼んでー』『南朋、全く変わってないね。おこちゃま笑』
『美香ちゃん、そうでしょ!もっと言ってやってよ!』って意気投合するなって…笑
『りょうかーーい』まぁ、後は沙紀に任せとけばいいか。俺は今後の事について考えるか。
なんせ、謎の電話相手はきになる。そいつが、何かに関わっている事は間違いないな。
部屋に戻るが、下からはペチャクチャと話し声が聴こえてくる。どうやら、一連の事を
美香が沙紀に説明している様子だ。それに対して沙紀なりの見解を聞いているんだろう。
美香や、望結も沙紀と話しを聞いてもらう事で、少しでも気持ちが楽になると思う。
その面で、沙紀には感謝しているんだ。口に出しては死んでも言えないが笑
『沙紀さん、さっき葬儀場の人から電話あって、お葬式の日が決まった』その数分後に
学校から家にも電話がある。どうやら、葬儀の事と今後の予定などだろう。沙紀に後で
聞けばいいか。自殺か他殺かは別として、まずは美香の親父さんを、安らかに見送る事
だな。俺も美香の親父さんには、随分お世話になったからな。哀しい気持ちは一緒だ。
最後は、お疲れ様の言葉と、ありがとうの気持ちを伝えたいから。
日常のあらゆる事が当然で、それは常に居て当たり前の様で、失う事など想像さえしない。
失って初めて気付かされる。なんて酷なんだろう。喪失感ってやつは後から襲ってくる。
それに向き合わないと克服出来ない事は分かってんだ。でも、そんな簡単な事ではない。
それを遮るかのように、あらゆる事で塞ごうとする。無意味な行為かも知れない…
その無意味な行為すらも恐らくは、失った者への最大の敬意なのかも知れない…
そのように考えると、とてつもなく愛おしく掛け替えのない時間を過ごしているかのな。
この瞬間さえも、決して無駄ではないに違いない。色んな事を考え、模索する事が出来る
これは、人間にしか与えられない唯一無二の能力なのかも。
美香の親父さんに何があろうが、親父さんが過ごして来たこれまでの人生の集大成を
最大限の敬意と、愛情に包まれたお別れの場にしなければ。そうでないと親父さに失礼だ
人に限らず、この世に存在するあらゆる物は無限ではない。有限であるからこそ美しい。
少し普遍的で、哲学的な考えかもしれない。忙しく送る日々で心の片隅に追いやってる
かも知れない。死を受け入れるのは容易な事ではない。思いっきり悲しんで、泣いて
でも、最後は笑って見送ってあげたいんだ。
『南朋―、晩御飯――――!』沙紀の声で現実に戻される。
『声でけーよ、分かった!』沙紀は、あれが通常の声量というが…どう考えてもデカい笑
一度、隣近所から苦情がきた程だ。
『って、またロールキャベツかよ、勘弁してくれよ…』
『文句言うなら、食べないでいいから!』
『どうしても、美香ちゃんと望結ちゃんが食べたいってネ。リクエストあったからネ』
『沙紀さんの作るロールキャベツは、世界一だよー。ね、望結』
『そうそう、宇宙一かも知れない』『てか、お前昼も食っただろ』
『沙紀さんのロールキャベツだったら、毎日でもいいなぁ』
『望結ちゃんマジ!ホント嬉しいな。毎日つくちゃおかなー』頼む!それ以上褒めるな!
『さ、ブツブツ文句言ってるのは無視して、食べようネ』おいおい、無視するなよ…
『わかりましたーーー、美味しく食べせてもらいまーーーす』あー、めんどくせーな。
『腹減ったから、早く食おーぜ』確かに、沙紀のロールキャベツは旨いが、毎日はキツイ。
『美香、親父さんの葬儀の日程決まったのか?』さっき電話で小耳に挟んだ事を尋ねる。
『そうそう、学校からも電話あったよ。明日だって』沙紀が学校かの電話を伝える。
『南朋、だからさ、美香ちゃんが喪主なの。だから何かと手伝ってあげて』
『おう、分かった。俺も何をしたらいいかのか…望結も頼むわ!』
『うん、勿論だよ!美香のお父さんを笑顔で見送ってあげようね』
『南朋、望結ちゃん、お願いね。私は美香ちゃんの傍に居てあげたいの』
『沙紀さん、ホントありがとう』今にも泣きそうな目で美香が言葉を発する。
『南朋、望結も、ありがと』美香の頬に、光る物が流れる。感情が爆発する…
それを見て、そっと沙紀が美香を抱きしめる。何も言わないが、まるで母親のように。
美香は、幼い子供の様に沙紀の胸の中で大声を上げ泣いた。沙紀も同様に感情を共有する。
望結も、俺も自然と涙がこみ上げてくる。その夜は、皆で美香の親父さんを偲んだ。
気が付けば、美香は泣きつくしたのか、疲れ果てた様でもあり、幸せそうでもある様な
表情を浮かべ、沙紀の膝で眠っていた。沙紀は、そっとソファーに美香を寝かしつける。
『今後、私は美香ちゃんの一番の味方でいる。美香ちゃんが如何なる選択をしようともね』
沙紀が、美香の寝顔を見ながら、語りかける。とても優しく愛に満ちた表情で。
『さあ、南朋!これから少し大変になるけど、頼んだよ』厳しくも、優しい表現で。
『おう、分かってるって!』俺も、沙紀の言葉に気が引き締まる感じを受ける。
『私も、出来る限り美香の傍で、美香と悲しみも、喜びも共にしていきたい』
望結の言葉にも、いつもとは違った凛とした決意を感じた。皆の心が共鳴した瞬間だ。
『さあ、今日は早く寝よう。明日は忙しくなるからね。南朋、夜更かし厳禁!』
『分かってるって!俺もやる時はやる男だって!』と言い、各部屋に戻る。
『南朋―――!早く起きなさい!何がやる時はやる男なんだよ』ヤベ、寝坊した…
リビングに行くと、既に朝飯を食っている。
『南朋、おそーーい』と二人からも責められるが、いっちょ前な事を言った手前…
『早く顔洗って、着替えなさい!ホント、いつまで経ってもアンタは!』
『はーい、頭いてーから、キーキー怒鳴るなって』朝から、よくあんな声が張れるな。
て関心してる場合じゃねーか。早くしねーとマジでヤベーな。
ダッシュで着替え、朝飯食って、時間には間に合わせた。流石オレとドヤ顔するが…
誰も見てねー…まぁ、いいかな。
『沙紀、今日仕事はどーすんだよ。急に休めんのかよ』
『美香ちゃんが、大変な時に仕事なんていいんだよ!アンタが、そんな心配するな』
え、そりゃそうだけど…、仕事無くしたらオレどうなるんだよって、余計な事はいいか。
『美香大丈夫か、気をしっかり持てよ。辛い時は我慢なんてしなくていいんだぞ』
『私も、南朋も沙紀さんも美香の傍に居てるからね』
『美香ちゃん、辛くなったら、いつでも言ってね。感情を押し殺さないでね』
ところで、学校からは何人くらいが出席するんだろうか。クラスの奴らは全員くるだろう。
気掛かりなのは、マスコミの連中が顔を出すかだが、前にいた奴らの顔は覚えてないしな。
まぁ、見覚えのない顔があれば要注意だな。その事は沙紀は知らねーしな。
家の前に一台の車が停車する。葬儀屋の車だろう、沙紀が対応している。いよいよだ。
『南朋、アンタ美香ちゃんと先に車で式場に向かって、葬儀屋の人には伝えてるから』
『私と望結ちゃんは、後から追いかけるかね。南朋!頼んだよ。それじゃ、後からね』
沙紀はそう言って、俺と美香を車に乗るのを確認する。
車に乗ると、美香の親父さんの笑顔が映る遺影があった。俺が知っている親父さんだ。
美香と特に会話せず、そのまま葬儀場に向かう。遺影を抱きしめる美香が印象的だった。
葬儀場に到着する。まだ時間前なのでひっそりとしている。葬儀屋の人に誘導され館内
に入る。正面には親父さんの笑った笑顔と花束に囲まれた棺がある。
美香は真っ先に、親父さんの棺の前に駆け寄り、親父さんの顔を見つめながら涙する。
俺も、後ろから親父さんの顔を見て手を合わせる。ありがとうの言葉を添え。
美香は俺に気付き、泣きじゃくりながら抱き付く…
『思いきっり泣けばいいさ』美香の耳元でそっと囁く。何も言わず頷く美香。
優しい音楽流れる空間で、美香の親父さんが亡くなった事を実感する瞬間でもあった。
それと同時に、美香と親父さんとの最後の対面に立ち会えた事に嬉しくも感じた。
何とも不思議な感覚で、何故か沙紀の事を想う。沙紀も俺の前から居なくなるのか…
口うるさい声が聞けなくなるのは少し悲しくもある…
『南朋、大丈夫。美香ちゃんは…』と沙紀と望結が到着した。
『南朋!気をしっかりとね!美香ちゃんを支えるのよ!』
『お、おう。分かってる』相変わらず沙紀に、安心と、当分は大丈夫だなと確信する。
『美香、大丈夫。私はいつでも美香の傍にいるからね』望結が優しく声を掛ける。
『うん、ありがとね望結』
しばらくすると、ノッチなど先生の姿が見える。祐樹などクラスの連中も姿も続々と来る。
『この度は、お父様がこんな形で亡くなり、何と言っていいか…』なっちが美香に言う。
『今西先生(なっち)有難うございます』
その後も、次々に美香に声を掛ける、クラスメイトや先生達に美香は気丈に降る舞う。
俺は、美香の傍に居ながらも、マスコミらしき人物が来ていないか、気になっていた。
かといっても、見た事ない先生などもいる訳で、区別が付かないのが正直なのだが。
時間はあっという間に過ぎていき、葬儀が始まる。すすり泣く声だけが響く会場内。
そして、最後に美香が喪主として言葉を述べる時間がくる。
『今日は、お父さんの為に、こんなにも沢山の方に集まってもらい、有難うございます』
『お父さんも幸せだと思います。本当に皆さんには感謝しています』
悲しみを堪えた美香の地から強いメッセージに、会場内からは拍手すら起こった。
そして、最後は笑顔で親父さんの棺に花束を添えた。
葬儀は無事に終え、俺と沙紀と望結は火葬場まで一緒に行く事にする。
その中で、俺は一台のバイクが気になった。まぁ、主席者の一人だろうと思ってはいたが。
俺らは、車に乗り込み火葬場まで向かう。車内のバックミラーをチラッと見る。
偶然なのか、さっきのバイクが後を付けて来ている。きっと方向が一緒なのかと、しかし
どこまでも一緒に付いてくる。俺はマスコミの奴だなと思った。それから、そのバイクの
動向を逃すまいと、バックミラーを何度も確認する。
『私も、さっきから気になってるんだ』望結が俺に囁く。
『式の前から、色んな人に声かけてはメモ取っていた姿を見てたかんらね』
『そうそう、祐樹もこえかけられていたよ。確か、名刺ももらっていたような…』
それが確かなら、マスコミに違いない。俺は確かめるために、祐樹にメールを送る。
『望結、サンキューな。祐樹にマールを送って確かめてみる』祐樹にメールを送信する。
その間に、車は葬儀場へ到着する。やはりバイクも、少し離れた場所へ停車する。
祐樹からの返事はまだだ。って既読すらついてねー!あのバカ、寝てんじゃねーのか…
『南朋、私も祐樹君にメール送信したら返事来たよ。何とか出版社の人だって』
『やっぱり、望結サンキュー』って、あのバカは女にしか返信しねーのか…
まぁ、あのバカも、たまには役にたつな。何とか出版って、漢字もロクに読めねーのか…
車を降り、火葬場へ向かう。バイクの男は停車した場所で待機してる。
『望結、祐樹は他に何か話したとか、言ってなかったか』
『特には…、谷原さんのクラスメイトだねって言われ、色々と聞かれたみたいだけど…』
『オレ、詳しくは分かんないっす!とにかく哀しいです!だけ答えたんだって』
『祐樹君らしいけどね…、それで名刺渡されただけだってさ』
『まぁ、アイツらしーな。つーか、マスコミもアイツに聞いてくれたのは正解かもな笑』
『祐樹君には悪いんだけど、怪我の功名だね…』望結の言うとおりだ。あのバカに聞いて
くれて正解だ。美香の事で頭がいっぱいで、それどころじゃねーし。アイツらしい。
いよいよ、美香の親父さんが火葬される順番が来る。本当に最後の分れとなる。
火葬台に棺が乗せられ、最後のお別れの時が巡ってくる…
沙紀にもたれ掛かるようにした、美香が振り絞った声を発する。この言葉は一生忘れない。
『お父さん、今までお疲れ様。そして、ありがとネ。貴方の娘で幸せだったよ』
『でもね、願いが叶うなら、お父さんに抱きしめられたかったなぁ…、一回バイバイ』
その場に立ち会った、全ての人の心に響いたに違いない。
そして、天国へと美香の親父さんは旅立つ…
昔観た映画で、人が亡くなると21g軽くなるって聞いたことがある。その21gは魂の重さ
らしいんだ。身体から魂が抜けるせいで軽くなると。ハチドリの重さと一緒だって。
ハチドリは英語でハミングバードって言う。気のせいか、天井を見上げると、親父さんが
笑顔で、鼻歌を歌いながら飛び立って行く姿が見えてような錯覚を覚えた。
隣に顔を向けると、俺と同じように美香も天井を見上げていた。笑顔で…
声には出さなかったが、口元の動きから『ありがと。バイバイ。愛しているよ』
と言っているのが分かった。
天井をする抜ける瞬間、ハミングバードは美香に『ずっとお前の傍で見守っているよ』
と最後の言葉を残し、消えていたのである。
その姿を見ながら、美香はすっと手を振りながら最後の別れをする光景が、忘れられない。
俺は、美香の幼馴染として、美香を守る事を親父さんに伝えてた。
『南朋君、美香の事を頼んだよ。君なら、美香を守ってくれると信じてるから』
『君は、少し頭は悪いけど、心が真っすぐだ。君みたいな幼馴染を持てて美香も幸せだ』
そんな声が聴こえたような気がした。でも、頭が悪のは余計なのでは…、本当だけど。
『美香ちゃん、今日は本当にお疲れ様だね。凄く立派だった。お父さんも安心だね』
『これから先、美香ちゃんのお母さん代わりをさせて貰ってもいいかな?』
『はい、沙紀さん宜しくお願いします』
『そんな、他人行儀はやめてね。美香ちゃんの事は前から娘だと思っていたかね』
『随分前だけどね、美香ちゃんのお父さんに、オレに何かあったら美香を頼むってね』
『まさか、こんなにも早く、その時が訪れるなんて想像もしなかったけどね』
『だから、いつでも甘えていいんだよ』
『ありがと。沙紀さん。ありがと』美香は、とっても嬉しそうだった。
『南朋!アンタ、しっかりしなさいよ!』って、この状況で俺にフルなって…
『だ・か・ら、わかってまーす。俺もガキじゃねーしな!』あー、いつもの沙紀だ…
『望結ちゃんも、いつでも家に来ていいからね。望結ちゃんも娘だと思ってるからね』
『沙紀さん、ありがとー。また、沙紀さんのロールキャベツ食べたいな』
『よーし、今晩も作るか!』え、またなのか(笑)勘弁してくれよ…ま、いいかなぁ。
葬儀も終わり、一旦は親父さんを見送る事ができ、ホットしている。美香も少し気持ちの
整理もついたとは思うが、内心は喪失感でいっぱいだろう。今は表情には出さないが…
俺も、望結もそれは痛いほど理解している。勿論、沙紀もだろう。
その喪失感を埋めるには、どれ程の時間を必要とするのか分からないが、きっと埋めれる
に違いない。そのためには、美香の精神的支柱にならないとな…
『ちょっと、さっきから何?変なバイクがずっと追ってきてんだけど、気のせい』
沙紀が、俺らが怪しんでいいたバイクに気づく。
『気味悪いわね!少し遠周りして帰るね』
沙紀は、違った道のりで車を走らせる。しかし、バイクは追って来る。
『望結、やっぱりそうだろ。アイツは何か情報を持ってるぞ』
『うん、確実に怪しい!でも、何か情報持っていれば聞いてみたいけど…』
『ちょっと、南朋、望結ちゃん、何か知ってんの?』ヤベ、沙紀に勘づかれたか…
後部座席でコソコソ話していたんだが、さっすが地獄耳、そーすっかな…
沙紀に話すと、俺らの計画が台無しになるしな、いすれ話す時が来るんだが、今は…
『沙紀、ちげーんだよ、望結とあのバイクがすっげーカッコいいなって話してたんだ』
『南朋、バイクに興味あったんだ!免許もないくせして』正直、興味などない…(笑)
『うるせーよ、最近興味でてきたんだって』
『アンタが、やっと何かに興味持つことができ来たなんて、奇跡だわ』
『自分の息子を、奇跡扱いするなよ!おめーの血が流れてんだって事だ』
詳しくは聞いてないが、沙紀は若い頃、暴走族でヤンチャしてた時期があったらしい。
それにしても、その程度で誤魔化せるとは…流石に血は争えないな。
しばらく、走っていると追ってきていたバイクの姿が見えなくなる。
向こうも、気づいたのか…、それとも諦めたのか…、どっちにせよ沙紀と接触する事を
避けれて正解だ。
『なんだ、私の気のせいだったね。皆、お腹空いたでしょ、急いで帰るね』
『早く、沙紀さんのロールキャベツ食べたーい!ね、美香』
『うん、私もお腹空いたー』
『よーし、今日はいつもより張りきちゃうからね!作るの手伝ってよ』
『はーい!』美香も、望結もご機嫌に答える。
『南朋!アンタも手伝いなさいよ!美香ちゃん、望結ちゃんに甘えてばっかじゃダメ!』
『沙紀さん、南朋の言う通りかも。ね、望結』
『そ、そうだね。南朋には片付けをやってもらえばいいじゃん!』
『それも、そうだね。2人ともせいかーい』何なんだ…、なんか腹立つけど、仕方ないか…
にしても、なんで急に姿を消したんだ。気になって仕方ない。祐樹が言ってた出版社って
のも本当なのか…、マスコミの人間だったら、何か聞いてきてもいいのに…
あー、あれこれ考えると頭いてー、とにかく、何か知っているかは確実だ!
また、接触してくるに違いないとは思うが、待っているだけじゃ、いつになるのか…
とにかく、沙紀の親父さんの一件で数日間は学校が臨時休校だしな。それも怪しいが…
個人的なら分かるが、学校全体でっていうのもな、とにかく、望結と協力して何とか接触
しねーと、ラチがあかねーのは確かだ。あのバイクヤローの連絡先は祐樹に聞けばいいか。
この時点で、沙紀の親父さんが自殺ではない事が、確信に変わってきているのは明確だな。
だとしたら、誰が、何の目的で、沙紀の親父さんを殺したのか、ますます真実が知りたい。
きっと、美香もそれを望んでいるだろう。例え、親父さんが戻って来なくても。
その事実が、どんな事であったとしても。叶うなら、もう一度、美香と親父さんを合わし
てやりてーがな。今は、美香の動揺が心配だ。まぁ、それは沙紀に任せればいいか。
葬儀も無事に終えた事だし、今日はゆっくりとしねーとな。俺も頭がいてーし。
3日連続のロールキャベツってのも、一つの原因なんだが…
それは、口が裂けても言えねーしな。一言いえば、何十倍にもして返ってくるからな…
今日は、美香の親父さんの思い出話しをしながら、楽しく時間を過ごせばいいか。
これかから、忙しくなりそーーだし…
『美香、詳しく話してくれるか?』美香は頷くだけだった。
『早く、家に帰りたい』美香が呟く。保健室の窓から外を確認する。マスコミの連中と
美香との接触を避けるために。恐らく、連中は何か勘ぐっているに違いない。
『美香、俺に言ったことを誰かに行ってないか?』『うん。南朋が初めてだよ』
『望結、ちょっと美香の傍に居てくれるか、俺は念のため周りを見てくる』
『わかった。出来るだけ早く帰ってきてね』望結は、少し不安そうに言う。
『りょうかーい、少し気になるだけだから、直ぐ戻る』そう言って、保健室を出る。
廊下は薄暗く、少し気味が悪い。自分の足音だけが鳴り響く。辺りを見回すが気配はない。
5分程し、保健室へ戻る。『薄暗くて、気味悪かったぜ、誰も居てないな』
『よし、今から帰るか。美香の家はマスコミの連中がいてる可能性があるから、俺んちに
行こう』『わかった。でも大丈夫なの』『全然オッケー!そのうち沙紀も帰ってくるしな』
沙紀は口うるさいが、こんな時だけは役に立つ。って口に出して言えねーが(笑)
『南朋、まだ沙紀さん困らしてんの!』急に美香の声のトーンが変わる。
『お前、元気じゃねーか!』いつもの美香が戻って少し戻ったようで安心した。
『良かったー、いつもの美香だぁ』と望結も笑顔を取り戻した。
『よし!そんじゃ、行くか!』『うん、南朋頼むよ!』と美香が背中を押してくれる。
『任せとけって、俺を誰だと思ってんだよー笑』と何気ないやり取りが心地よい。
保健室から、何事もなく裏口までたどり着く。『美香、俺の後ろに乗れよ』
『やだ!望結と二人乗りするんだ笑』『わーたから、早くしろよ』何なんだコイツは…笑
『望結、久々だよね。二人乗りするの』『だね、昔を思い出すなー』お前もかよ…笑
親父さんが亡くなり、さっきまで落ち込んでんじゃ‥まぁ、いいか。
考えてみると、この3人が一緒の時間を過ごすのて、2年振りくらいだなぁ。
こういっちゃ、不謹慎だけど、親父さんが巡り合わせてくれたのかも。運命ってやつ!
『着いたぞ。さぁ早く家に入れよ』『お邪魔しまーす』って既に入ってるし笑
『へー、わりと片付いてるじゃん。あっ、そうか望結に手伝ってもらったんだ』
『なっ、なわけないって…、俺も一緒にやってんだ!』なんだよ、めんどくせーな笑
『アンタね、子供じゃないんだから、沙紀さんの手伝いしなさいよ!』
『うっせーな、沙紀みたいな事言うんじゃねーよ』あー、家に呼ばなきゃ良かった…
これで、沙紀が帰ってきた時の状況を考えると…最悪だ。女3人に総攻撃だな。
ヤバい、ヤバい。早く話しを本題に戻さないと。時間も時間だし、沙紀が帰ってくる。
『取り合えず、座って落ち着こうせ』って、既にくつろいで話してるし…
これだから、女ってのはめんどくせーんだよな。次々に感情がコロコロ変わりあがる。
まぁ、これでいいのかもな。少しの間でも落ち着ける時間が持てれば。
『美香、そろそろ今朝の話しを詳しく聞かせろよ。何があったんだ』と切り込む。
楽し気な会話をしていた二人が一瞬黙り込んだ。そして、重い口を開いて語りだす。
『今日も、いつもの様にお父さんのご飯の準備をして、学校へ行こうとしたの…』
美香の親父さんは、昔から時間に正確で何をするにも、正確に行動する人だ。
以前、何かの約束で遅れていった時、かなり怒られた記憶がある。たった1分でも。
勿論、人に対してだけじゃなくて、自分にも厳しい人だったのは美香に聞いている。
『いつもは、お母さんの写真を見つめているんだけど、その日は違ったんだ。』
『美香、もしかして!』と望結が口を開く。
実は、以前より美香は望結に相談をしており、親父さんが何度か朝に電話をしていると。
それも、聴こえるような声ではなくてヒソヒソと話すと言うのだ。何度か、本人に聞いて
見たんだけど、何か隠しているような様子で、話しを反らされるらしい。
『望結、そうなの。その日も電話をしていたの。しばらく様子を見ようとしたんだけど…』
と美香は時計と睨めっこし、結果的に最後まで見届けづに学校へ行ったとの事なのだ。
『美香、それで警察は親父さんの死因はなんて?』
『精神薬の過剰摂取による中毒死だって。でも最近は飲んでなかった!』と声を荒げた。
美香によると、確かに処方はされていたんだが、調子が良く飲んでなかったらしい。
それに、最近は塞ぎこむだけではなくて、外出する時間も定期的に作っていたようだ。
『最初は、美香のお父さんは自殺だと思っていたけど、話し聞いてると違和感があるよ』
『確かに!謎の電話といい、何もかもが違和感だらけだ!』
とはいえ、確証がないのも事実…
『私は、お父さんに何があったのか知りたいよ。真実を!出来るなら、もう一度話したい』
美香の悲痛な思いだけが虚しく鳴り響く。どうすればいいのか…
頭をフル回転させる。そうだ!さっきいたマスコミなら、何か情報を知っているのかも。
『美香、マスコミ連中なら情報を知っているかも』
『そうだけど、嫌な事まで話さないといけないし…』
『そっか、それはそうだな。それじゃ、俺と望結で何とか情報を聞き出すのはいいか?』
『私は有難いけど。南朋大丈夫なの?望結も?』
『何言ってんだよ、お前らしくもねーな。俺に任せとけって!』
『そうだよ美香。そのために私達がいるんだよ』
『ありがとね。ちょっと、南朋は頼りないから、望結頼んだね』
『お前、一言よけーなんだって、何も心配いらねーからな』
『そうだよ美香。私達に任しといて。確かに、南朋はちょこっと頼りないけどね』
『お前らなーーーーーーー』
後は、どうやって連中に接触するかが問題だ。そもそも、どこまで知っているかも謎だし
とにかく今は、学校からの連絡を待つしかねーかな。お葬式もあることだし。
まずは、親父さんを安らかに見送ってあげる事を優先に考えよう。
『南朋、ただいまー。美香ちゃんは?』ヤベ、沙紀が帰って来た。
『沙紀さーん、お帰り。会いたかったよ』『美香ちゃん、元気そうで良かった』
『望結ちゃんもいてくれたのね。久しぶりだね。望結ちゃんも元気そうで安心したよ』
いったん、自分の部屋に避難した方がよさそうだな。
『こら、南朋!どこに行くの!』『部屋にもどるんだって、沙紀後は頼んだー』
『二人ともゴメンね。相変わらず頼りないでしょ』『だから、いちいち余計な事言うなー』
想定内の展開だ…、こりゃ、逃げるが勝ち。余計に話がややこしくなる。
『沙紀―、晩飯出来たら呼んでー』『南朋、全く変わってないね。おこちゃま笑』
『美香ちゃん、そうでしょ!もっと言ってやってよ!』って意気投合するなって…笑
『りょうかーーい』まぁ、後は沙紀に任せとけばいいか。俺は今後の事について考えるか。
なんせ、謎の電話相手はきになる。そいつが、何かに関わっている事は間違いないな。
部屋に戻るが、下からはペチャクチャと話し声が聴こえてくる。どうやら、一連の事を
美香が沙紀に説明している様子だ。それに対して沙紀なりの見解を聞いているんだろう。
美香や、望結も沙紀と話しを聞いてもらう事で、少しでも気持ちが楽になると思う。
その面で、沙紀には感謝しているんだ。口に出しては死んでも言えないが笑
『沙紀さん、さっき葬儀場の人から電話あって、お葬式の日が決まった』その数分後に
学校から家にも電話がある。どうやら、葬儀の事と今後の予定などだろう。沙紀に後で
聞けばいいか。自殺か他殺かは別として、まずは美香の親父さんを、安らかに見送る事
だな。俺も美香の親父さんには、随分お世話になったからな。哀しい気持ちは一緒だ。
最後は、お疲れ様の言葉と、ありがとうの気持ちを伝えたいから。
日常のあらゆる事が当然で、それは常に居て当たり前の様で、失う事など想像さえしない。
失って初めて気付かされる。なんて酷なんだろう。喪失感ってやつは後から襲ってくる。
それに向き合わないと克服出来ない事は分かってんだ。でも、そんな簡単な事ではない。
それを遮るかのように、あらゆる事で塞ごうとする。無意味な行為かも知れない…
その無意味な行為すらも恐らくは、失った者への最大の敬意なのかも知れない…
そのように考えると、とてつもなく愛おしく掛け替えのない時間を過ごしているかのな。
この瞬間さえも、決して無駄ではないに違いない。色んな事を考え、模索する事が出来る
これは、人間にしか与えられない唯一無二の能力なのかも。
美香の親父さんに何があろうが、親父さんが過ごして来たこれまでの人生の集大成を
最大限の敬意と、愛情に包まれたお別れの場にしなければ。そうでないと親父さに失礼だ
人に限らず、この世に存在するあらゆる物は無限ではない。有限であるからこそ美しい。
少し普遍的で、哲学的な考えかもしれない。忙しく送る日々で心の片隅に追いやってる
かも知れない。死を受け入れるのは容易な事ではない。思いっきり悲しんで、泣いて
でも、最後は笑って見送ってあげたいんだ。
『南朋―、晩御飯――――!』沙紀の声で現実に戻される。
『声でけーよ、分かった!』沙紀は、あれが通常の声量というが…どう考えてもデカい笑
一度、隣近所から苦情がきた程だ。
『って、またロールキャベツかよ、勘弁してくれよ…』
『文句言うなら、食べないでいいから!』
『どうしても、美香ちゃんと望結ちゃんが食べたいってネ。リクエストあったからネ』
『沙紀さんの作るロールキャベツは、世界一だよー。ね、望結』
『そうそう、宇宙一かも知れない』『てか、お前昼も食っただろ』
『沙紀さんのロールキャベツだったら、毎日でもいいなぁ』
『望結ちゃんマジ!ホント嬉しいな。毎日つくちゃおかなー』頼む!それ以上褒めるな!
『さ、ブツブツ文句言ってるのは無視して、食べようネ』おいおい、無視するなよ…
『わかりましたーーー、美味しく食べせてもらいまーーーす』あー、めんどくせーな。
『腹減ったから、早く食おーぜ』確かに、沙紀のロールキャベツは旨いが、毎日はキツイ。
『美香、親父さんの葬儀の日程決まったのか?』さっき電話で小耳に挟んだ事を尋ねる。
『そうそう、学校からも電話あったよ。明日だって』沙紀が学校かの電話を伝える。
『南朋、だからさ、美香ちゃんが喪主なの。だから何かと手伝ってあげて』
『おう、分かった。俺も何をしたらいいかのか…望結も頼むわ!』
『うん、勿論だよ!美香のお父さんを笑顔で見送ってあげようね』
『南朋、望結ちゃん、お願いね。私は美香ちゃんの傍に居てあげたいの』
『沙紀さん、ホントありがとう』今にも泣きそうな目で美香が言葉を発する。
『南朋、望結も、ありがと』美香の頬に、光る物が流れる。感情が爆発する…
それを見て、そっと沙紀が美香を抱きしめる。何も言わないが、まるで母親のように。
美香は、幼い子供の様に沙紀の胸の中で大声を上げ泣いた。沙紀も同様に感情を共有する。
望結も、俺も自然と涙がこみ上げてくる。その夜は、皆で美香の親父さんを偲んだ。
気が付けば、美香は泣きつくしたのか、疲れ果てた様でもあり、幸せそうでもある様な
表情を浮かべ、沙紀の膝で眠っていた。沙紀は、そっとソファーに美香を寝かしつける。
『今後、私は美香ちゃんの一番の味方でいる。美香ちゃんが如何なる選択をしようともね』
沙紀が、美香の寝顔を見ながら、語りかける。とても優しく愛に満ちた表情で。
『さあ、南朋!これから少し大変になるけど、頼んだよ』厳しくも、優しい表現で。
『おう、分かってるって!』俺も、沙紀の言葉に気が引き締まる感じを受ける。
『私も、出来る限り美香の傍で、美香と悲しみも、喜びも共にしていきたい』
望結の言葉にも、いつもとは違った凛とした決意を感じた。皆の心が共鳴した瞬間だ。
『さあ、今日は早く寝よう。明日は忙しくなるからね。南朋、夜更かし厳禁!』
『分かってるって!俺もやる時はやる男だって!』と言い、各部屋に戻る。
『南朋―――!早く起きなさい!何がやる時はやる男なんだよ』ヤベ、寝坊した…
リビングに行くと、既に朝飯を食っている。
『南朋、おそーーい』と二人からも責められるが、いっちょ前な事を言った手前…
『早く顔洗って、着替えなさい!ホント、いつまで経ってもアンタは!』
『はーい、頭いてーから、キーキー怒鳴るなって』朝から、よくあんな声が張れるな。
て関心してる場合じゃねーか。早くしねーとマジでヤベーな。
ダッシュで着替え、朝飯食って、時間には間に合わせた。流石オレとドヤ顔するが…
誰も見てねー…まぁ、いいかな。
『沙紀、今日仕事はどーすんだよ。急に休めんのかよ』
『美香ちゃんが、大変な時に仕事なんていいんだよ!アンタが、そんな心配するな』
え、そりゃそうだけど…、仕事無くしたらオレどうなるんだよって、余計な事はいいか。
『美香大丈夫か、気をしっかり持てよ。辛い時は我慢なんてしなくていいんだぞ』
『私も、南朋も沙紀さんも美香の傍に居てるからね』
『美香ちゃん、辛くなったら、いつでも言ってね。感情を押し殺さないでね』
ところで、学校からは何人くらいが出席するんだろうか。クラスの奴らは全員くるだろう。
気掛かりなのは、マスコミの連中が顔を出すかだが、前にいた奴らの顔は覚えてないしな。
まぁ、見覚えのない顔があれば要注意だな。その事は沙紀は知らねーしな。
家の前に一台の車が停車する。葬儀屋の車だろう、沙紀が対応している。いよいよだ。
『南朋、アンタ美香ちゃんと先に車で式場に向かって、葬儀屋の人には伝えてるから』
『私と望結ちゃんは、後から追いかけるかね。南朋!頼んだよ。それじゃ、後からね』
沙紀はそう言って、俺と美香を車に乗るのを確認する。
車に乗ると、美香の親父さんの笑顔が映る遺影があった。俺が知っている親父さんだ。
美香と特に会話せず、そのまま葬儀場に向かう。遺影を抱きしめる美香が印象的だった。
葬儀場に到着する。まだ時間前なのでひっそりとしている。葬儀屋の人に誘導され館内
に入る。正面には親父さんの笑った笑顔と花束に囲まれた棺がある。
美香は真っ先に、親父さんの棺の前に駆け寄り、親父さんの顔を見つめながら涙する。
俺も、後ろから親父さんの顔を見て手を合わせる。ありがとうの言葉を添え。
美香は俺に気付き、泣きじゃくりながら抱き付く…
『思いきっり泣けばいいさ』美香の耳元でそっと囁く。何も言わず頷く美香。
優しい音楽流れる空間で、美香の親父さんが亡くなった事を実感する瞬間でもあった。
それと同時に、美香と親父さんとの最後の対面に立ち会えた事に嬉しくも感じた。
何とも不思議な感覚で、何故か沙紀の事を想う。沙紀も俺の前から居なくなるのか…
口うるさい声が聞けなくなるのは少し悲しくもある…
『南朋、大丈夫。美香ちゃんは…』と沙紀と望結が到着した。
『南朋!気をしっかりとね!美香ちゃんを支えるのよ!』
『お、おう。分かってる』相変わらず沙紀に、安心と、当分は大丈夫だなと確信する。
『美香、大丈夫。私はいつでも美香の傍にいるからね』望結が優しく声を掛ける。
『うん、ありがとね望結』
しばらくすると、ノッチなど先生の姿が見える。祐樹などクラスの連中も姿も続々と来る。
『この度は、お父様がこんな形で亡くなり、何と言っていいか…』なっちが美香に言う。
『今西先生(なっち)有難うございます』
その後も、次々に美香に声を掛ける、クラスメイトや先生達に美香は気丈に降る舞う。
俺は、美香の傍に居ながらも、マスコミらしき人物が来ていないか、気になっていた。
かといっても、見た事ない先生などもいる訳で、区別が付かないのが正直なのだが。
時間はあっという間に過ぎていき、葬儀が始まる。すすり泣く声だけが響く会場内。
そして、最後に美香が喪主として言葉を述べる時間がくる。
『今日は、お父さんの為に、こんなにも沢山の方に集まってもらい、有難うございます』
『お父さんも幸せだと思います。本当に皆さんには感謝しています』
悲しみを堪えた美香の地から強いメッセージに、会場内からは拍手すら起こった。
そして、最後は笑顔で親父さんの棺に花束を添えた。
葬儀は無事に終え、俺と沙紀と望結は火葬場まで一緒に行く事にする。
その中で、俺は一台のバイクが気になった。まぁ、主席者の一人だろうと思ってはいたが。
俺らは、車に乗り込み火葬場まで向かう。車内のバックミラーをチラッと見る。
偶然なのか、さっきのバイクが後を付けて来ている。きっと方向が一緒なのかと、しかし
どこまでも一緒に付いてくる。俺はマスコミの奴だなと思った。それから、そのバイクの
動向を逃すまいと、バックミラーを何度も確認する。
『私も、さっきから気になってるんだ』望結が俺に囁く。
『式の前から、色んな人に声かけてはメモ取っていた姿を見てたかんらね』
『そうそう、祐樹もこえかけられていたよ。確か、名刺ももらっていたような…』
それが確かなら、マスコミに違いない。俺は確かめるために、祐樹にメールを送る。
『望結、サンキューな。祐樹にマールを送って確かめてみる』祐樹にメールを送信する。
その間に、車は葬儀場へ到着する。やはりバイクも、少し離れた場所へ停車する。
祐樹からの返事はまだだ。って既読すらついてねー!あのバカ、寝てんじゃねーのか…
『南朋、私も祐樹君にメール送信したら返事来たよ。何とか出版社の人だって』
『やっぱり、望結サンキュー』って、あのバカは女にしか返信しねーのか…
まぁ、あのバカも、たまには役にたつな。何とか出版って、漢字もロクに読めねーのか…
車を降り、火葬場へ向かう。バイクの男は停車した場所で待機してる。
『望結、祐樹は他に何か話したとか、言ってなかったか』
『特には…、谷原さんのクラスメイトだねって言われ、色々と聞かれたみたいだけど…』
『オレ、詳しくは分かんないっす!とにかく哀しいです!だけ答えたんだって』
『祐樹君らしいけどね…、それで名刺渡されただけだってさ』
『まぁ、アイツらしーな。つーか、マスコミもアイツに聞いてくれたのは正解かもな笑』
『祐樹君には悪いんだけど、怪我の功名だね…』望結の言うとおりだ。あのバカに聞いて
くれて正解だ。美香の事で頭がいっぱいで、それどころじゃねーし。アイツらしい。
いよいよ、美香の親父さんが火葬される順番が来る。本当に最後の分れとなる。
火葬台に棺が乗せられ、最後のお別れの時が巡ってくる…
沙紀にもたれ掛かるようにした、美香が振り絞った声を発する。この言葉は一生忘れない。
『お父さん、今までお疲れ様。そして、ありがとネ。貴方の娘で幸せだったよ』
『でもね、願いが叶うなら、お父さんに抱きしめられたかったなぁ…、一回バイバイ』
その場に立ち会った、全ての人の心に響いたに違いない。
そして、天国へと美香の親父さんは旅立つ…
昔観た映画で、人が亡くなると21g軽くなるって聞いたことがある。その21gは魂の重さ
らしいんだ。身体から魂が抜けるせいで軽くなると。ハチドリの重さと一緒だって。
ハチドリは英語でハミングバードって言う。気のせいか、天井を見上げると、親父さんが
笑顔で、鼻歌を歌いながら飛び立って行く姿が見えてような錯覚を覚えた。
隣に顔を向けると、俺と同じように美香も天井を見上げていた。笑顔で…
声には出さなかったが、口元の動きから『ありがと。バイバイ。愛しているよ』
と言っているのが分かった。
天井をする抜ける瞬間、ハミングバードは美香に『ずっとお前の傍で見守っているよ』
と最後の言葉を残し、消えていたのである。
その姿を見ながら、美香はすっと手を振りながら最後の別れをする光景が、忘れられない。
俺は、美香の幼馴染として、美香を守る事を親父さんに伝えてた。
『南朋君、美香の事を頼んだよ。君なら、美香を守ってくれると信じてるから』
『君は、少し頭は悪いけど、心が真っすぐだ。君みたいな幼馴染を持てて美香も幸せだ』
そんな声が聴こえたような気がした。でも、頭が悪のは余計なのでは…、本当だけど。
『美香ちゃん、今日は本当にお疲れ様だね。凄く立派だった。お父さんも安心だね』
『これから先、美香ちゃんのお母さん代わりをさせて貰ってもいいかな?』
『はい、沙紀さん宜しくお願いします』
『そんな、他人行儀はやめてね。美香ちゃんの事は前から娘だと思っていたかね』
『随分前だけどね、美香ちゃんのお父さんに、オレに何かあったら美香を頼むってね』
『まさか、こんなにも早く、その時が訪れるなんて想像もしなかったけどね』
『だから、いつでも甘えていいんだよ』
『ありがと。沙紀さん。ありがと』美香は、とっても嬉しそうだった。
『南朋!アンタ、しっかりしなさいよ!』って、この状況で俺にフルなって…
『だ・か・ら、わかってまーす。俺もガキじゃねーしな!』あー、いつもの沙紀だ…
『望結ちゃんも、いつでも家に来ていいからね。望結ちゃんも娘だと思ってるからね』
『沙紀さん、ありがとー。また、沙紀さんのロールキャベツ食べたいな』
『よーし、今晩も作るか!』え、またなのか(笑)勘弁してくれよ…ま、いいかなぁ。
葬儀も終わり、一旦は親父さんを見送る事ができ、ホットしている。美香も少し気持ちの
整理もついたとは思うが、内心は喪失感でいっぱいだろう。今は表情には出さないが…
俺も、望結もそれは痛いほど理解している。勿論、沙紀もだろう。
その喪失感を埋めるには、どれ程の時間を必要とするのか分からないが、きっと埋めれる
に違いない。そのためには、美香の精神的支柱にならないとな…
『ちょっと、さっきから何?変なバイクがずっと追ってきてんだけど、気のせい』
沙紀が、俺らが怪しんでいいたバイクに気づく。
『気味悪いわね!少し遠周りして帰るね』
沙紀は、違った道のりで車を走らせる。しかし、バイクは追って来る。
『望結、やっぱりそうだろ。アイツは何か情報を持ってるぞ』
『うん、確実に怪しい!でも、何か情報持っていれば聞いてみたいけど…』
『ちょっと、南朋、望結ちゃん、何か知ってんの?』ヤベ、沙紀に勘づかれたか…
後部座席でコソコソ話していたんだが、さっすが地獄耳、そーすっかな…
沙紀に話すと、俺らの計画が台無しになるしな、いすれ話す時が来るんだが、今は…
『沙紀、ちげーんだよ、望結とあのバイクがすっげーカッコいいなって話してたんだ』
『南朋、バイクに興味あったんだ!免許もないくせして』正直、興味などない…(笑)
『うるせーよ、最近興味でてきたんだって』
『アンタが、やっと何かに興味持つことができ来たなんて、奇跡だわ』
『自分の息子を、奇跡扱いするなよ!おめーの血が流れてんだって事だ』
詳しくは聞いてないが、沙紀は若い頃、暴走族でヤンチャしてた時期があったらしい。
それにしても、その程度で誤魔化せるとは…流石に血は争えないな。
しばらく、走っていると追ってきていたバイクの姿が見えなくなる。
向こうも、気づいたのか…、それとも諦めたのか…、どっちにせよ沙紀と接触する事を
避けれて正解だ。
『なんだ、私の気のせいだったね。皆、お腹空いたでしょ、急いで帰るね』
『早く、沙紀さんのロールキャベツ食べたーい!ね、美香』
『うん、私もお腹空いたー』
『よーし、今日はいつもより張りきちゃうからね!作るの手伝ってよ』
『はーい!』美香も、望結もご機嫌に答える。
『南朋!アンタも手伝いなさいよ!美香ちゃん、望結ちゃんに甘えてばっかじゃダメ!』
『沙紀さん、南朋の言う通りかも。ね、望結』
『そ、そうだね。南朋には片付けをやってもらえばいいじゃん!』
『それも、そうだね。2人ともせいかーい』何なんだ…、なんか腹立つけど、仕方ないか…
にしても、なんで急に姿を消したんだ。気になって仕方ない。祐樹が言ってた出版社って
のも本当なのか…、マスコミの人間だったら、何か聞いてきてもいいのに…
あー、あれこれ考えると頭いてー、とにかく、何か知っているかは確実だ!
また、接触してくるに違いないとは思うが、待っているだけじゃ、いつになるのか…
とにかく、沙紀の親父さんの一件で数日間は学校が臨時休校だしな。それも怪しいが…
個人的なら分かるが、学校全体でっていうのもな、とにかく、望結と協力して何とか接触
しねーと、ラチがあかねーのは確かだ。あのバイクヤローの連絡先は祐樹に聞けばいいか。
この時点で、沙紀の親父さんが自殺ではない事が、確信に変わってきているのは明確だな。
だとしたら、誰が、何の目的で、沙紀の親父さんを殺したのか、ますます真実が知りたい。
きっと、美香もそれを望んでいるだろう。例え、親父さんが戻って来なくても。
その事実が、どんな事であったとしても。叶うなら、もう一度、美香と親父さんを合わし
てやりてーがな。今は、美香の動揺が心配だ。まぁ、それは沙紀に任せればいいか。
葬儀も無事に終えた事だし、今日はゆっくりとしねーとな。俺も頭がいてーし。
3日連続のロールキャベツってのも、一つの原因なんだが…
それは、口が裂けても言えねーしな。一言いえば、何十倍にもして返ってくるからな…
今日は、美香の親父さんの思い出話しをしながら、楽しく時間を過ごせばいいか。
これかから、忙しくなりそーーだし…
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