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サンタクロース
しおりを挟む季節はもうすぐクリスマス。
年に一度サンタがやって来て、僕に素敵なプレゼントをくれる日。それはまさに奇跡のように、どんな願い事でも叶えてくれる。
友達が欲しいとお願いした時には友達ができたし、新しいママが欲しいとお願いした時には新しいママがやって来た。
そんな僕は当然サンタの存在を信じていて、今年の夏に10歳を迎えた今でもそれは変わらない。そんな僕のことを、バカにしてくるクラスメイト達。
『お前、サンタなんて信じてるなんてガキだな~』
『サンタは本当にいるよ。僕のお願い何でも叶えてくれるんだから』
『お前、まだ知らないの~? サンタは実在しないんだよ』
『そんなの嘘だよ! 僕、サンタ見たこあるもん……っ!』
『お前こそ嘘つくなよ、サンタなんているわけないだろ!』
『そーだそーだ、どうせサンタの格好したお父さんだろ! 嘘つくなよ!』
『っ、……嘘じゃないよ! あれは本物のサンタなんだっ!』
学校でのそんなやり取りを思い返しながら、僕は悔しさに唇を噛み締めた。
どんなにサンタの存在を訴えてみても、決してそれを認めようとしないクラスメイト達。それには心底頭にくるけど、家に帰れば優しいママが僕を慰めてくれる。そう思えば、学校で孤立している寂しさや悔しさも少しは紛れる。
ギシギシと軋む階段を一歩ずつゆっくりと降りると、僕は目の前にある地下室へと続く重い扉を押し開いた。
「──ママ」
そう声を掛ければ、虚な瞳がゆっくりと僕の姿を捉える。
「今日ね、学校で凄く嫌なことがあったんだ。サンタなんかいないって、僕は嘘つきだって皆んなが言うんだよ」
蹲るママの身体にそっと擦り寄れば、それに応えるようにして優しく僕の頭を撫でてくれるママの手。その温もりがやけに心地よくて、僕はそっと瞼を閉じると微笑んだ。
「ねぇ、ママ。サンタは本当にいるよね? だって、僕にママをプレゼントしてくれたのはサンタだもんね」
僕の言葉にビクリと肩を揺らしたママ。触れ合う身体からは小さな震えが伝わり、そんなママの様子が気になった僕はママの顔を覗き込んだ。
「……ママ?」
まるで僕のことなど見えていないかのように、床を見つめたまま固まっているママ。そんなママの様子に酷く失望した僕は、小さく溜息を吐くと口を開いた。
「ママは僕の味方じゃないんだね……」
昨年絶交した友達の姿を思い浮かべると、僕の心の中に宿った小さな影。それは徐々に大きな影へと変貌すると、僕の身体を包み込むようにして辺り一面を闇へと変えてゆく。
たった一人きりの友達を失ったばかりか、味方だと思っていたママまでも違っていただなんて、僕はその事実がとても悲しかった。
(結局、僕の味方はパパだけなんだ……)
「今年のプレゼント、何にしようかな……」
漏れ出た僕の声に反応するかのようにして、ビクリと身体を揺らして顔を上げたママ。悲しみに一人俯く僕を抱き寄せると、細く骨張った指で優しく頭を撫でてくれる。
「……ママは僕の味方?」
縋るような気持ちでママの顔を見上げると、それに答えるようにして優しく微笑んでくれるママ。それに満足した僕は、満面の笑顔を浮かべると勢いよくママに抱きついた。
(やっぱりママは僕の味方だったんだ──!)
「ママ、大好き!」
どんな事があっても、パパとママだけは僕の味方でいてくれる。その事実さえあれば、たとえクラスに馴染めなくとも寂しくはない。それどころか、意地悪なクラスメイト達と仲良くしたいだなんて思えないし、いっそのこと消えてしまえばいいのにとさえ思う。
そんなことを考えながら、僕はママの身体に顔を埋めるとニッコリと微笑んだ。
──それから暫く経ったある日。
人々がクリスマスという一大イベントに浮かれる中、昨夜未明に忽然と姿を消してしまった児童がいるとのことで、僕の学校ではちょっとした騒ぎが広がっていた。
そんな騒ぎを横目に、僕は一人満足気に微笑んだ。
「やっぱりサンタは実在するんだ」
【解説】
この少年が見たことがあると言ったサンタは、サンタに扮した父親の姿。
息子の願いを叶える為とあらば、その手段は一切選ばない父親。
友達が欲しいと言われれば子供を攫い、ママが欲しいと言われれば女性を攫って息子にプレゼントした。
昨年絶交した友達とは、攫ってきた子供が不要になったので処分したという意味。そのことを知っていた女性は、少年のご機嫌を損わないよう理想のママを演じていたにすぎない。
今年のクリスマスに忽然と姿を消した児童とは、少年のことをバカにしていたクラスメイト達。
その騒ぎを聞いた少年が満足気に微笑んだとは、つまり今年のプレゼントは……。
一見すると無垢な子供の願いのようにみえることも、善悪の区別が全くできていないことを考えると恐ろしい。この親にしてこの子ありとはよく言ったもので、この少年が成長した姿を想像すると恐ろしい。
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