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それだけ言うと、クリスの存在など目に入っていないかのように、シェイラの向かいの席にどっかりと腰を下ろした。突然隣に座ってきたナターシャに、クリスの方があたふたしている。……彼女は存在ごと無視しているが。


「いくら……とは?」
「まどろっこしいわねぇ……そのままの意味よ。この子は茶髪なんだからあんたの髪の毛と同じでしょ?それならなんとでも後継としてごまかせるじゃない。愛の試練だったとでも言ってクリスとあんたが再婚して、それっぽいこと言ってこの子を実子でも養子でも好きな形で育てれば良いのよ。私は金さえ貰えれば愛人という立場に収まってあげるわ。どう?この私が愛人に甘んじてやるって言ってんのよ、破格の条件じゃない?」

まさかとは思ったが、本当に彼女は子供を売りに来たようだ。その上、自分の立場までちゃっかり確保して、これからの待遇も考えている。その上、実子とすることも出来ると言ったか?もしかしなくても、目の前で何も知らずにすやすや眠るこの子供には戸籍がないのかもしれない。だとすると、クリスが一文無しだと分かってからずっとこの計画を進めていたのだろうか。
とりあえず子供の安全確保のために通報することは決定として。


「つまり、金と引き換えにあなたと、あなたの私生児と、そしてその男を引き取れと。そういうことですね?」
「……は?」

簡潔にナターシャの要求をまとめたシェイラだったが、言い回しが気に入らなかったのか、何やら嫌な流れになっていると気がついたのか。


「ふふっ、今更…………。お断りですわ。この3年間、本当に色々な事がありましたわ……。例えばそうね、あなた方の言う、『真実の愛』だったかしら?」

そういうシェイラの目の前で、面白いほどみるみるうちにクリスの表情が凍りついた。
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