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彼女は二股をかけていた。
いや、もしかしたら本命は向こうだったのかもしれない。
そりゃあ、鉱夫相手よりも貴族相手の方がいい暮らしができるだろう――。


「俺は騙されていた……。真実の愛で結ばれているだなんて彼女の言葉を信じてしまった……!だから俺はここに戻って来たんだ。やり直そう。今度こそお前を愛してやれる。名案だと思わないか!?お前はまだ俺のことを想っているんだろう?」

必死の形相に無理やり貼り付けた笑みで迫ってくるクリス。大きなため息と共にシェイラが口を開きかけた時。
にわかに廊下が騒がしくなる。
悲鳴や人の大声。尋常ではない音の数々に、思わず二人は動きを止めた。

おやめください!というメイドたちの叫び声と共にバンっと大きな音を立てて応接間のドアが開かれた。


「やっと見つけたわ……!シェイラ・バートリー!」

入ってきたのは髪を振り乱して鬼のような形相をしたナターシャだった。いや、ナターシャと……


「申し訳ございません、奥様……。必死で止めようとしたのですが……。」

メイドの言葉も、彼女が腕に抱えているものを見れば納得だ。
メイドとして働いている歳若い少女達は、下級貴族や騎士、地主層の行儀見習いを兼ねていることが多い。育ちがよく、心優しい彼女達は、まだまだ小さな子供を抱えたナターシャに対して、力に任せて追い出すという行為に出ることが出来なかったのだろう。

初めて会った時のように、いやに大きな態度でずかずかと部屋に入ってくると、その真ん中に座っているシェイラとクリスをみとめた。
クリスには一瞥をくれただけで、すぐにシェイラの正面に立った。


「あんたにいい知らせよ。不妊なんでしょ?この子を売ってあげる。この家の後継者にでもしたらいいわ。さぁ、あんたはいくら出す?」
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