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その日、イングステン王室に二つの命が誕生した。
一つは祝福された命。
もう一つは――――――





ここ、イングステン王国には、『神獣』が存在する。『神獣』は、隣国アバーヴェルド帝国との国境付近に位置する森の奥深くに湧き出る泉に住んでいると伝えられる。何故伝えられるという曖昧な表記になるのか、それは『神獣』が人前に姿を現すことが殆ど無いからである。

『神獣』の姿は誰も知らないという。
『神獣』と呼ばれるが、その姿は獣だとも、乙女だとも、美しい青年のようだとも、はたまた年老いた老人の様だとも伝わる。
共通するのは、『神獣』はイングステン王国に恵みをもたらすということ。

王国が位置するのは一年中風が止むことが無く、不毛の地として誰も寄り付かない砂漠の程近い場所。それ故、王国を守り、豊かな水をもたらすと伝えられる『神獣』は、イングステン王国にとって大切な存在であり、国民の信仰の対象となっている。

そして、その『神獣』を唯一使役出来る者が存在する。
『聖女』と呼ばれるその存在は、イングステン王国の女性王族に産まれる。『聖女』が重複して生まれる事は無く、今生きている『聖女』が死ぬと新しい『聖女』が産まれる。

今迄の『聖女』は金髪、碧眼の美しい女性が多かった。しかし、『聖女』は、その類稀な力の代償か、皆短命であったのだ。現国王の妹である先代『聖女』も例外では無く、30になる前に亡くなった。

美しいものを好むとされる『神獣』の為に、『聖女』は純潔を守らなくてはならないとされる。それ故、『聖女』は15歳迄は王宮と神殿、そして神獣の住む泉を行き来するが、16歳の誕生日を迎えると、神殿に籠り、外に出る事が許されるのは、神獣の泉を訪れる時のみだ。

その短い一生を国の為に捧げる代わりに、『聖女』はそれはそれは可愛がられて育つ。望んだものは全て手に入り、誰もが『聖女』を愛し、敬う。
その身に迫る危険は全て排除され、美しいものだけをその目に映す。
穏やかに、安らかに。ただ、国の為に祈り、その命を全うするために。

『聖女』はその最後の任として、その命の灯火が消える前に『神獣』から伝えられる自分の後継である『聖女』を指名する。

先代『聖女』が指名したのは、もうすぐ臨月である彼女の義姉の胎内の子供――――『イングステン王国の王女』であった。
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