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7 忙しい旦那様

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スーザンは早速生地を取り寄せ、次年度の仕掛けをいくつもはじめた。

この国の社交界は春から秋の間にある。社交界シーズンの終わりになるこの時期は次の社交シーズンのためのドレスを大量に注文するのだ。
新しい何かにとりかかるならこのタイミングはまさにベストだった。

毎日商会に出向き服飾部門のみんなと膝を突き合わせてあーでもないこーでもないと話をするのはとても楽しかった。

しかし、商会に顔を出すようになって今まで見えていなかったものが見えるようになった。

それは、サミュエルの働きぶりである。

確か婚約をしたときに想っている女性が居るからと言うようなことを言われたはず。

しかし、彼の生活からはそのような女性の影は全く見えない。
本当は男色家でそれを隠すための結婚だとか?
仕事が恋人とか?

そんなはずはない、とスーザンは思う。

いくら考えても答えは出ない。
本人に聞くことが一番手っ取り早いのだろうがサミュエルと話す機会なんてまずなかった。

サミュエルは仕事に夢中らしく、対面での取引などがない時は無精髭を伸ばし何日もシャワーを浴びていない。

彼はいつからこの生活を続けているのだろうか。

出来ることなら妻として彼をいたわり癒してあげたいが、それは望まれていない。


スーザンはティータイムのお茶を飲みながら窓の外を見た。
鈴懸の木から大きな葉がひとひら落ちていくのが見えた。鈴懸の木の葉っぱは踏むとグシャリと大きな音が鳴る。
子どもの頃、この時期になるといつも鈴懸の葉っぱを踏んでいたのを思い出した。

スーザンはふと唇に手を充てた。
スーザンの脳裏に懐かしい湖畔の館での思い出がよみがえった。

あれもちょうどこの時期だった。




当時は海賊ごっこで遊ぶのが流行っていた。あの時も何人かで海賊ごっこをしていた。

それはまだ男の子と女の子が一緒になって遊んでいてもはしたないなどと言われない頃。

彼の屋敷には立派なツリーハウスがあって子供たちはそこを船に見立てて遊んでいた。

その日はたまたまツリーハウスの中は囚われた姫のスーザンと逃げ出さないように見張る海賊役の彼だけだった。二人きりで少し向こうのほうで他の子たちが剣で切り合いごっこをしていた。中から外の様子は見えないので音だけで私たちは外の様子を伺っていた。
その時、彼がふとスーザンの名前を呼んだ。
彼の方に視線を向けると真剣な眼差しでこちらを見つめていた。普段と違う雰囲気にドキドキしていると、刹那、唇が触れ合った。

何があったのか理解が出来ず頭が混乱していたが、気付いた時には彼はもう外で打ち合いに加わっていて、何もなかったかのように遊びが続いていた。

あれが彼とのファーストキスだった。
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