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5 旦那様への進言
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商会は一階二階が店舗で、その上がオフィスという作りになっていた。
サミュエルのいる会長室は5階にある。
フィッティングルームでの採寸を終えたスーザンは服飾部門の現状について確認しようとサミュエルのいる会長室に向かった。
会長室の手前に取り次ぎのための狭い部屋があり、そこに秘書のミスターゲーブルが座っていた。
「奥様、どうなさいましたか?」
「先ほど、ドレスのフィッティングが終わりました。それで、旦那様のお時間を少しいただければと思いまして。」
スーザンは珍しく緊張していた。
スーザンはサミュエルが何を考えているのかよくわからない。あまり好ましく思われてはいないだろう事は分かっている。
なにせ結婚して1ヶ月はたとうというのにまだ数度しか会話したことがないのだ。
帰宅後のサミュエルを捕まえるのもありかもしれないと考えたが、家に帰ってきてまで仕事の話はしたくないかもしれない。
「確認してまいりますので少々お待ちください」
ミスターゲーブルはスーザンを一瞥すると扉の中へ消えていった。
サミュエルの周りの者にスーザンが良く思われていない事はなんとなく感じていた。しかし、ここまで態度に示されたのはこれが初めてだった。
しばらくしてミスターゲーブルが出てくるとスーザンにこう告げた。
「サミュエル様は今お忙しいのでもう少々お待ちくださいとのことです。」
「奥様をお待たせするとはどういう了見ですか?」
ミスターゲーブルに噛み付いたのは侍女のマーサだった。スーザンが侯爵家から連れてきた唯一の侍女でスーザンより5つ歳上の姐御肌の女性である。
「大丈夫よ、マーサ。旦那様はお忙しいんですもの。お待ちしますわ。」
嫁いで来てからスーザンは蔑ろにされていると感じる事は多かった。そんな時スーザンより先にマーサが怒ってくれるため、スーザンは必要以上に悲観することも怒ることもなく過ごすことが出来ていた。
今、屋敷で女主人として過ごすことができているのもマーサの存在があったからかもしれない。
「これまでも思っておりましたけれど、旦那様はスーザン様を蔑ろにしすぎですわ。旦那様はスーザン様と結婚できた幸運にもっと感謝すべきですのに」
「マーサは私が11の頃からそばに仕えてくれているから私贔屓になっているのよ。今の私はあくまでもただの商会の奥方なのだから」
「ご謙遜を。セバスティアーノ=ストウ家のスーザン様と言えば、婚約の申し込みが後をたたなかったことで有名ではございませんか。」
「それは兄様が亡くなられて、私が家を継ぐ予定だったからよ」
兄が亡くなったのは私が11になる直前だった。
我が家は兄の上にもう1人姉が居たが、スーザンは会った記憶がない。
スーザンと兄は14、姉とは16も歳が離れている。姉は18歳の時事故で亡くなった。
戸籍上は兄と姉ということになっているが本当はそうではないらしい。
あの日、兄は混乱していた。
『兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが妹じゃないことは薄々気付いています。それに"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください』
『いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!』
『失望されるようなことをしたのですか?』
『、、、そうかもしれない』
『兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない』
『そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?』
そう言うと兄はギュッと抱きしめて耳元で呟いた。
『君は俺とサマンサの娘だ』
『!!!』
サミュエルのいる会長室は5階にある。
フィッティングルームでの採寸を終えたスーザンは服飾部門の現状について確認しようとサミュエルのいる会長室に向かった。
会長室の手前に取り次ぎのための狭い部屋があり、そこに秘書のミスターゲーブルが座っていた。
「奥様、どうなさいましたか?」
「先ほど、ドレスのフィッティングが終わりました。それで、旦那様のお時間を少しいただければと思いまして。」
スーザンは珍しく緊張していた。
スーザンはサミュエルが何を考えているのかよくわからない。あまり好ましく思われてはいないだろう事は分かっている。
なにせ結婚して1ヶ月はたとうというのにまだ数度しか会話したことがないのだ。
帰宅後のサミュエルを捕まえるのもありかもしれないと考えたが、家に帰ってきてまで仕事の話はしたくないかもしれない。
「確認してまいりますので少々お待ちください」
ミスターゲーブルはスーザンを一瞥すると扉の中へ消えていった。
サミュエルの周りの者にスーザンが良く思われていない事はなんとなく感じていた。しかし、ここまで態度に示されたのはこれが初めてだった。
しばらくしてミスターゲーブルが出てくるとスーザンにこう告げた。
「サミュエル様は今お忙しいのでもう少々お待ちくださいとのことです。」
「奥様をお待たせするとはどういう了見ですか?」
ミスターゲーブルに噛み付いたのは侍女のマーサだった。スーザンが侯爵家から連れてきた唯一の侍女でスーザンより5つ歳上の姐御肌の女性である。
「大丈夫よ、マーサ。旦那様はお忙しいんですもの。お待ちしますわ。」
嫁いで来てからスーザンは蔑ろにされていると感じる事は多かった。そんな時スーザンより先にマーサが怒ってくれるため、スーザンは必要以上に悲観することも怒ることもなく過ごすことが出来ていた。
今、屋敷で女主人として過ごすことができているのもマーサの存在があったからかもしれない。
「これまでも思っておりましたけれど、旦那様はスーザン様を蔑ろにしすぎですわ。旦那様はスーザン様と結婚できた幸運にもっと感謝すべきですのに」
「マーサは私が11の頃からそばに仕えてくれているから私贔屓になっているのよ。今の私はあくまでもただの商会の奥方なのだから」
「ご謙遜を。セバスティアーノ=ストウ家のスーザン様と言えば、婚約の申し込みが後をたたなかったことで有名ではございませんか。」
「それは兄様が亡くなられて、私が家を継ぐ予定だったからよ」
兄が亡くなったのは私が11になる直前だった。
我が家は兄の上にもう1人姉が居たが、スーザンは会った記憶がない。
スーザンと兄は14、姉とは16も歳が離れている。姉は18歳の時事故で亡くなった。
戸籍上は兄と姉ということになっているが本当はそうではないらしい。
あの日、兄は混乱していた。
『兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが妹じゃないことは薄々気付いています。それに"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください』
『いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!』
『失望されるようなことをしたのですか?』
『、、、そうかもしれない』
『兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない』
『そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?』
そう言うと兄はギュッと抱きしめて耳元で呟いた。
『君は俺とサマンサの娘だ』
『!!!』
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