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1 心に決めている人が居ると言った
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「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです」
婚約の顔合わせの場でそう言われた私はスーザン・マグノリア・セバスティアーノ=ストウ。由緒正しきセバスティアーノ=ストウ侯爵家の元侯爵令嬢である。
そして元侯爵令嬢である彼女にそんな不遜なことを言うのはサミュエル・ハロー。服飾から食品、最近は鉄道経営や宅地開発、はたまた観光業にまで手を出す国一番の商会であるハロー商会の御曹司である。
「わかりましたわ。その条件お飲みしましょう」
スーザンは二つ返事でそう答えた。
元侯爵令嬢のスーザンには選択肢がなかった。
スーザンが元侯爵令嬢と呼ばれるのには二つの理由がある。
一つ目はかつてスーザンが結婚していたため。そして二つ目は侯爵であった父が亡くなり爵位が叔父に移ったため。
かつての夫ジェレミーは結婚2年目の昨年に戦争のため他界した。その直後に父母が事故で亡くなったのである。
ジェレミーが亡くなっても父が健在であればスーザンは侯爵家の跡取り娘としてそれなりの再婚ができただろう。この国では女性は爵位を継げないのでスーザンの夫が侯爵位を継ぐはずだった。
しかし、現実はジェレミーも父母も亡くなりスーザンはひとりぼっちになってしまった。
これまでは元侯爵令嬢として叔父のお世話になっていたが、侯爵家は最近、領地経営がうまくいっていない。
スーザンの結婚で平民とはいえ金持ちであるハロー家と繋がりを持つのは侯爵家にとって大変ありがたいことだった。
スーザンはサミュエルにこの縁談を断られると思っていた。
ハロー家の会長が貴族と血を結びたがっているが嫡男のサミュエルがそれを嫌っており、なかなか縁談がまとまらないのは有名な事だったからだ。
ハロー家は爵位を持たない。ただ、産業革命以降、爵位など持たなくても富める時代になった。逆にセバスティアーノ=ストウ家のように爵位を持っていても貧しくなる家も増えている。ここ数年、返爵する家も増えていた。
産業革命と共に上流階級の構造は大きく変わっていたのだ。
サミュエルは若くて身長も高く、顔だって整っている。将来有望なサミュエルであれば侯爵令嬢であるとはいえ元のつく寡婦と結婚する必要はなかった。
それに、
「サミュエル様はわたくしのことを嫌っていらっしゃるかと思っていましたわ」
そう。サミュエルとスーザンはこれが初顔合わせではない。サミュエルはスーザンの亡き夫ジェレミーの学院時代の友人で幾度かジェレミーを通して顔を合わせたことがある。
そして、その時の態度からサミュエルに結婚してもいいと思うほどに好かれているとは思っていなかった。
サミュエルはおや、という顔をしてスーザンを見た。
「そうですね。今更取り繕ったところでしょうがないでしょう。私には先ほども言った通り心に決めた方がいます。ただ、父は私に貴族の女性との結婚を望んでいる。私はそれを受け入れるしかない。しかし、私は妻のことはどう考えても愛せない。蔑ろにすることがわかっている立場なのだから蔑ろにしても問題ない人物をということになる。」
「そうですか。」
スーザンはそう答えるのがやっとだった。
スーザンのその表情に落胆の色が浮かんでいることなどサミュエルは気付かなかった。
サミュエルの青く澄んだ瞳は空を見つめスーザンの視線と絡むことはない。
スーザンはかつての知り合いである、サミュエル同じような瞳を持った少年のことを思い出していた。彼の瞳はスーザンを追い、時に見つめ合い、時に共に遊び、時に同じ夕陽を見た。
スーザンは彼の理知的な青く澄んだ瞳が好きだった。
婚約の顔合わせの場でそう言われた私はスーザン・マグノリア・セバスティアーノ=ストウ。由緒正しきセバスティアーノ=ストウ侯爵家の元侯爵令嬢である。
そして元侯爵令嬢である彼女にそんな不遜なことを言うのはサミュエル・ハロー。服飾から食品、最近は鉄道経営や宅地開発、はたまた観光業にまで手を出す国一番の商会であるハロー商会の御曹司である。
「わかりましたわ。その条件お飲みしましょう」
スーザンは二つ返事でそう答えた。
元侯爵令嬢のスーザンには選択肢がなかった。
スーザンが元侯爵令嬢と呼ばれるのには二つの理由がある。
一つ目はかつてスーザンが結婚していたため。そして二つ目は侯爵であった父が亡くなり爵位が叔父に移ったため。
かつての夫ジェレミーは結婚2年目の昨年に戦争のため他界した。その直後に父母が事故で亡くなったのである。
ジェレミーが亡くなっても父が健在であればスーザンは侯爵家の跡取り娘としてそれなりの再婚ができただろう。この国では女性は爵位を継げないのでスーザンの夫が侯爵位を継ぐはずだった。
しかし、現実はジェレミーも父母も亡くなりスーザンはひとりぼっちになってしまった。
これまでは元侯爵令嬢として叔父のお世話になっていたが、侯爵家は最近、領地経営がうまくいっていない。
スーザンの結婚で平民とはいえ金持ちであるハロー家と繋がりを持つのは侯爵家にとって大変ありがたいことだった。
スーザンはサミュエルにこの縁談を断られると思っていた。
ハロー家の会長が貴族と血を結びたがっているが嫡男のサミュエルがそれを嫌っており、なかなか縁談がまとまらないのは有名な事だったからだ。
ハロー家は爵位を持たない。ただ、産業革命以降、爵位など持たなくても富める時代になった。逆にセバスティアーノ=ストウ家のように爵位を持っていても貧しくなる家も増えている。ここ数年、返爵する家も増えていた。
産業革命と共に上流階級の構造は大きく変わっていたのだ。
サミュエルは若くて身長も高く、顔だって整っている。将来有望なサミュエルであれば侯爵令嬢であるとはいえ元のつく寡婦と結婚する必要はなかった。
それに、
「サミュエル様はわたくしのことを嫌っていらっしゃるかと思っていましたわ」
そう。サミュエルとスーザンはこれが初顔合わせではない。サミュエルはスーザンの亡き夫ジェレミーの学院時代の友人で幾度かジェレミーを通して顔を合わせたことがある。
そして、その時の態度からサミュエルに結婚してもいいと思うほどに好かれているとは思っていなかった。
サミュエルはおや、という顔をしてスーザンを見た。
「そうですね。今更取り繕ったところでしょうがないでしょう。私には先ほども言った通り心に決めた方がいます。ただ、父は私に貴族の女性との結婚を望んでいる。私はそれを受け入れるしかない。しかし、私は妻のことはどう考えても愛せない。蔑ろにすることがわかっている立場なのだから蔑ろにしても問題ない人物をということになる。」
「そうですか。」
スーザンはそう答えるのがやっとだった。
スーザンのその表情に落胆の色が浮かんでいることなどサミュエルは気付かなかった。
サミュエルの青く澄んだ瞳は空を見つめスーザンの視線と絡むことはない。
スーザンはかつての知り合いである、サミュエル同じような瞳を持った少年のことを思い出していた。彼の瞳はスーザンを追い、時に見つめ合い、時に共に遊び、時に同じ夕陽を見た。
スーザンは彼の理知的な青く澄んだ瞳が好きだった。
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