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ベータ ※未分化



中学の時に受けるバース検査で俺の結果の紙に書かれていた文字だ。
要するに今はベータだけどまだ成長途中でバースがちゃんと育っていない状態ですよ、ということである。
ここからそのままベータとして定着することもあるし、アルファやオメガになることもある。

俺は幼い頃から成長が遅く、身長も常に1番前だった。だから中学の時に未分化だと言われても「まぁ、そう言うこともあるかな」と言う感じだった。

それから俺はずっと定期的に病院で検査をしていた。いつ分化するか分からないし、こういう体質は珍しいらしくバースの研究医が色々と調べたいということだった。

高校三年生になって、身長こそベータの平均に追いついたものの、俺のバースに変化は見られなかった。しかし、俺は自分がアルファだと確信していた。

子供の頃から俺は優秀だった。
十二月田しわすだと言えば優秀なアルファの家系で有名だったし、この地域では代々政治家一家として名を馳せていた。


政治を志すもの小学校までは公立で、と言う我が家の方針で普通の幼稚園に入った。そこで、俺は自分がいかに優秀かを知った。

しかし、優秀過ぎて友達に敬遠されるようになった。子供というのは残酷なもので、自分たちより少し出来るくらいの友達はヒーローなのに出来すぎると仲間だとは思われないらしい。

3歳でそれを悟った俺は、何事も手を抜くようになった。そして、一般の人より少し能力が高いくらい、というところに自分の立ち位置をコントロールするようになった。

体格も良くなく能力も普通よりちょっといい程度、大き過ぎる八重歯が顔のバランスを崩していて、他は整っているのに愛嬌のある顔だと言われる。あの優秀なアルファを排出する十二月田家の出身なのに中途半端な立ち位置の俺は小学校に上がる頃にはちょっと優秀なベータだと思われるようになっていた。


***


「今日学校サボったのか?」

病院から家に帰ると兄が居てそんなことを聞かれた。確か月曜は2時間しか講義がないって言っていたなと思う。講義が終わってすぐに家に帰ってくるとか友達いないのかよ。

「ちょっと用があったんだよ」
そう言ってへらへらと笑う。家族の前での仮面をつける。家族の前では少し不真面目なベータを演じている。

「まだ高校生なんだからちゃんと勉強しろ。ただでさえレベルの低い学校で進度が遅いんだから、自分の力で挽回しなくてはいけないんだぞ」

兄は中学から私学に行ったが俺は高校まで公立である。公立の中では頭の良い学校に行っているが、代々アルファという家庭は小学校から私立か国立に通わせるため公立校のアルファ率は必然的に低くなる。
現に今の高校では公立のトップ校だというのにアルファは片手で数えられる程度しか居ない。


「心配しなくても自分でなんとかするから大丈夫だよ。」
ニヘラと笑ってそう言って手を振ると俺は部屋に篭った。


部屋に着くとベッドに寝転がりいろいろと考えた。
親に報告しなくては。でも親はいつのころからか俺がベータである事を望んでいる。
「出来の悪いベータの子を可愛がる健気な親」という役に酔っているのだ。

うちの親は両親ともに政治家で特に母の方が世間的には名を知られている。この前も子育て雑誌でアルファとベータの子育ての違いについて長々と語っていた。
俺がアルファになったとわかれば立場を悪くしないだろうか、と思う。

でも彼を手に入れるにはアルファだと告白しなければ始まらない。そして、運命の番だと言わなくては。





ピロリロリンピロリロリン

ベッドで考えているうちに寝てしまったらしい。携帯の呼び出し音で目を覚ました。
時計は17時を指していた。

そうだ、今日は約束があったんだった。

「はい。申し訳ありません。今日は立て込んでいて。今から向かうのでアポイントを18時に変更できますか?ありがとうございます。」

そう言うと麻のジャケットを羽織って家を出た。日中はだいぶ暖かくなったが夜はまだ肌寒い。
湿気を帯びた六月の風が頬を撫でた。


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