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ナカガワとマリエが付き合ったというニュースは夏休み明けてすぐに学校中に広がった。
文化祭前日、学校全体が文化祭前の独特の高揚感に包まれていた。エリカは作った装飾を教室に飾りながら夏休み最後の週末にさっそくデートに行ったというマリエの報告を初々しいなと思いながら興味深く聞いていた。
エリカはデートの経験があの夏祭りしかないのでとても新鮮だったし、マリエが喜んでいるとまるで自分のことのように嬉しかった。
その日の帰り、事件が起こった。
その日は文化祭前日ということでアルバイトを入れておらず、アルバイトに行くより早めの時間の帰宅だった。
家の前に自転車を停めたところで横から知らない男に腕をつかまれた。
「やっ!何するの」
抵抗するがあまり効果はなく後ろから易々とドアに身体を押し付けられた。
身動きが取れない。犯人の顔も見えない。
男の手が後ろからするりとスカートの中に侵入してくる。
「いやーーーーー!」
大声で叫ぶ。誰か助けに来てくれるだろうか。
私の家は準工業地帯に立つ工場併設型の家屋で同じような家や工場が立ち並んでいる。
普通の住宅街に比べて1つ1つの区画が大きいし、この時間ならまだ稼働している工場もあり、女子高校生の叫び声が誰かの耳に届く可能性はあまり期待できなかった。
何度目かの絶叫を繰り返しているとガバッと男が離れていくのがわかった。
エリカはへなへなとその場にしゃがみ込んだ。頭が動かなかった。誰かが助けてくれているらしい。男が男にボコボコに殴られていた。
しばらくして殴られていた方の男が逃げ出し、殴っていた方の男が私に近付いてきた。
とっさに身体をこわばらせた。
この男が襲った方の男という可能性もまだ残っている。なんせ私は男の顔を見ていない。
「もう大丈夫。怖かったよね?」
男はそう言うと腕を引っ張って起こしてくれた。
「大丈夫。俺は何にもしないから」
立ってみるとその男は私より少し背が高いだけの小柄な、まだ少年と呼んでも良いような男の子だった。
襲ってきた男はもっと背が高かったからこの子は間違いなく助けてくれた子なんだろう。
男の子のお腹がぐーっと鳴った。
男の子はハニカミながら
「お礼はチーズインハンバーグでいいよ」といった。
そう言われて嫌な気分はしなかったので、助けてもらった男の子とファミレスに夜ご飯を食べにいった。
ファミレスご飯はエリカには予算が高すぎるがどうせ私も何か食べないといけないし、エリカは久しぶりにファミレスでご飯を食べた。
贅沢だが蟹のクリームパスタにした。
「あんた、エリカでしょ。俺、リュウ。川工の一年」
「私のこと知ってるの?」
私は眉間にしわを寄せた。
「そりゃ、有名だもん。サカザキさんの元カノさん?」
サカザキさんとはタクミのことだ。
「サカザキさんはここいらでは伝説だし、その女がフリーで一人暮らしとなればこうなるのは時間の問題だったって」
「そうなんだ。また起こると思う?」
「そりゃな。手っ取り早く箔をつけるにはちょうどいいもんな」
エリカは少しぼんやりしてしまった。
そろそろ一人暮らしをやめる潮時なのかもしれない。でも家がなくなったら本当にもう二度と両親に会えないような気がする。
「サカザキさんもこうならないように手は打ってたみてぇだけどよ。まぁ、本人居なけりゃそんな強制力ないよな」
「タクミが…」
なんだかいろいろありすぎて頭の中がパンクしそうだ。もうあんな目にはあいたくない。でも家を出て行くのも嫌だ。でもこの街に残るタクミの思い出は時に優しく時に寂しい。この街に残る家族の思い出は自分にツラさしか与えないのに体にへばりついて離れない。
もうどうでもいいと諦めて投げ出してしまいそうになる。
----エリカは違うでしょ。いろいろあってもいつも誇り高かった。自暴自棄になることなくいつも一生懸命でさ。
タクミの言葉がエリカをがんじがらめに捉えて離さない。
---わたし、そんな大したものじゃないよ。
もうほこり高くもなれないし自暴自棄になりそうだよ。
文化祭前日、学校全体が文化祭前の独特の高揚感に包まれていた。エリカは作った装飾を教室に飾りながら夏休み最後の週末にさっそくデートに行ったというマリエの報告を初々しいなと思いながら興味深く聞いていた。
エリカはデートの経験があの夏祭りしかないのでとても新鮮だったし、マリエが喜んでいるとまるで自分のことのように嬉しかった。
その日の帰り、事件が起こった。
その日は文化祭前日ということでアルバイトを入れておらず、アルバイトに行くより早めの時間の帰宅だった。
家の前に自転車を停めたところで横から知らない男に腕をつかまれた。
「やっ!何するの」
抵抗するがあまり効果はなく後ろから易々とドアに身体を押し付けられた。
身動きが取れない。犯人の顔も見えない。
男の手が後ろからするりとスカートの中に侵入してくる。
「いやーーーーー!」
大声で叫ぶ。誰か助けに来てくれるだろうか。
私の家は準工業地帯に立つ工場併設型の家屋で同じような家や工場が立ち並んでいる。
普通の住宅街に比べて1つ1つの区画が大きいし、この時間ならまだ稼働している工場もあり、女子高校生の叫び声が誰かの耳に届く可能性はあまり期待できなかった。
何度目かの絶叫を繰り返しているとガバッと男が離れていくのがわかった。
エリカはへなへなとその場にしゃがみ込んだ。頭が動かなかった。誰かが助けてくれているらしい。男が男にボコボコに殴られていた。
しばらくして殴られていた方の男が逃げ出し、殴っていた方の男が私に近付いてきた。
とっさに身体をこわばらせた。
この男が襲った方の男という可能性もまだ残っている。なんせ私は男の顔を見ていない。
「もう大丈夫。怖かったよね?」
男はそう言うと腕を引っ張って起こしてくれた。
「大丈夫。俺は何にもしないから」
立ってみるとその男は私より少し背が高いだけの小柄な、まだ少年と呼んでも良いような男の子だった。
襲ってきた男はもっと背が高かったからこの子は間違いなく助けてくれた子なんだろう。
男の子のお腹がぐーっと鳴った。
男の子はハニカミながら
「お礼はチーズインハンバーグでいいよ」といった。
そう言われて嫌な気分はしなかったので、助けてもらった男の子とファミレスに夜ご飯を食べにいった。
ファミレスご飯はエリカには予算が高すぎるがどうせ私も何か食べないといけないし、エリカは久しぶりにファミレスでご飯を食べた。
贅沢だが蟹のクリームパスタにした。
「あんた、エリカでしょ。俺、リュウ。川工の一年」
「私のこと知ってるの?」
私は眉間にしわを寄せた。
「そりゃ、有名だもん。サカザキさんの元カノさん?」
サカザキさんとはタクミのことだ。
「サカザキさんはここいらでは伝説だし、その女がフリーで一人暮らしとなればこうなるのは時間の問題だったって」
「そうなんだ。また起こると思う?」
「そりゃな。手っ取り早く箔をつけるにはちょうどいいもんな」
エリカは少しぼんやりしてしまった。
そろそろ一人暮らしをやめる潮時なのかもしれない。でも家がなくなったら本当にもう二度と両親に会えないような気がする。
「サカザキさんもこうならないように手は打ってたみてぇだけどよ。まぁ、本人居なけりゃそんな強制力ないよな」
「タクミが…」
なんだかいろいろありすぎて頭の中がパンクしそうだ。もうあんな目にはあいたくない。でも家を出て行くのも嫌だ。でもこの街に残るタクミの思い出は時に優しく時に寂しい。この街に残る家族の思い出は自分にツラさしか与えないのに体にへばりついて離れない。
もうどうでもいいと諦めて投げ出してしまいそうになる。
----エリカは違うでしょ。いろいろあってもいつも誇り高かった。自暴自棄になることなくいつも一生懸命でさ。
タクミの言葉がエリカをがんじがらめに捉えて離さない。
---わたし、そんな大したものじゃないよ。
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