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それから数日。花火大会の前日が青高の終業式の日だった。
タクミがくれた浴衣はお端折りが縫われていない本格的なもので素人が一人で着るにはなかなか難しかった。
でもせっかくタクミが買ってくれた浴衣なのだから着ていくのがマナーだろう。

その日は夏休み前にクラス全員が集まる最後の機会なので文化祭準備の最終確認と決起集会が開かれることになっていた。空き時間に携帯で浴衣の着付けの参考ページを見ているとイトーさんが話しかけてきた。
イトーさんはカラオケに行って以来たまに話しかけてくれるようになっていた。

これまで女子に遠巻きに見られていたのは見た目のせいもあるけれど、ああいう機会を作ってこなかった自分も悪かったのかもしれない。


「なになに?浴衣?あっ!明日のお祭り行くんだ?」
「うん。でも一人で浴衣着る自信がなくて」


そんな事を話していると、イトーさんが着付けてくれることになった。イトーさんは小さい頃から琴を習っていて浴衣くらい自分で着れるそうだ。
イトーさんもお友達と祭りに行くらしいのでタクミとの待ち合わせ時間までは一緒にまわらせてもらうことになった。
祭りは朝の10時ごろから始まる。早い時間はステージでヒーローショーだったりアマチュアバンドの演奏がある。
出店もポツポツ開いているが午前中は閉まっている屋台も多い。青年会議所主催の鉢植えプレゼントだったり商工会議所主催の工作体験などが早い時間にあり、屋台の方は夕方くらいからいっきに騒がしくなる。花火は19時から。
タクミとの待ち合わせは18時でイトーさんたちは15時くらいから祭りをまわるとのことだった。





「今日、花火大会に行くのってオトコ?」

翌日、着付けてもらいながらイトーさんが不躾に聞いてくる。

「うん」
「彼氏?」
「………………わかんない」
「わかんないって」

イトーさんがしばらく考えながら聞いてきた。

「クロサワさんってさ、色々噂あるじゃん?」
「噂?淫乱とかなんとかってやつ?」
「そう、それ。でも話してみるとそんな雰囲気ないし、ま、確かに色っぽいっちゃ色っぽいんだけど、どうなんだろうって思ってたんだ。気になるから聞いちゃうね。そこんとこ本当はどうなの?」
「どうって?」
「別に私はそういうの、嫌いじゃないって言えば嘘になるけど、少なくともクロサワさんに関してはみんなが噂するような淫乱な子とは思えないし、でもさ、たまに凄いのつけてたりするじゃん。首筋とかに。」
「凄いの?首筋に?」
「何?あんた今まで無自覚だったの?」
「??」
「キスマークよキスマーク」
「キスマーク?」

私の頭の中にはマリリンモンローがつけるみたいな真っ赤な口紅でキスした後にできるキスマークが頭いっぱいに広がった。
そんなものが首に?私の?
訳がわかないという顔をしている私を見てイトーさんは叫んだ。

「はぁ!?本当に無自覚だったの?じゃああんた、セックスは?したことあるんでしょ」
「それは、まぁ」
「あんな凄いのつけてきてるのに、彼氏居ないなんていうもんだから、男を取っ替え引っ替えしてるとか、援交してるんじゃないかとか、イロイロ噂があったのよ」

どうやら彼氏は居ないと本人は言っているのに定期的にキスマークがついているから色々憶測をよんでいたらしい。

ぐうの音も出ない。援交もどきをしているのは事実だしそりゃ女子から遠巻きにみられるはずである。

「で、どうなの?」

これまで私は恋バナというものをした事がなかった。友達はマリエだけだったけれどマリエに聞かせるには私の話しは闇が深い。
マリエにはそんな世界がある事を知らせたくはなかったし、自分がそっちの世界の住人だと知られたくなかった。

でも、イトーさんになら知られても良いような気がした。イトーさんが世話焼きのオカンのような包容力があるからかもしれないし、まだであってすぐでだから逆に友人関係がダメになってもいいやと思えたからかもしれない。
少しくらいなら話してみようかという気になった。

「えっと、確かに定期的にセックスしてる人が居て、今日花火大会に一緒に行くのもその人」
「セフレ?」

イトーさんの口からセフレなんて言葉が出るとは思わず少し驚いた。

「そうなのかな。わかんない」
「何それ?」

曖昧な返事しかできないエリカをイトーさんが呆れているようだった。

「なんていうか、自分でも最近悩んでて。でも他の人とそういう事できる気がしないから、私は好きなのかなって」
「はぁぁぁぁ。体から始まったから気持ちがついていかないってやつね」

どうやらイトーさんの中では相手にもてあそばれているが好きなために苦しい思いをしているということになっているようだ。
そうやって聞くとなんか、純粋で普通の子みたいじゃないか。
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