【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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二人が結婚したのはサミュエル23歳、スーザン21歳の春だった。
ジェレミーとの結婚式ほどではないにせよ、多くの人に祝福され賑やかな結婚式となった。

結婚式でのサミュエルは素敵だった。サミュエルは身長が高く体格が良いためどんな服装でも似合う上に演技だとは言え結婚式と披露宴の間はスーザンにずっと優しくしてくれた。

この思い出だけでどれだけ辛い結婚生活も頑張れると思った。もしかすると舞踏会や晩餐会に夫婦で参加する時にはいつもサミュエルはこんな感じなのかもしれない。

そう考えると白い結婚くらいなんて事ないと思った。

また、ハロー家の面々が私に好意的だったのも嬉しかった。
今回の結婚は身分差を超えて貴族を金で買うような結婚であり、私は死別とは言え一度結婚の経験がある。サミュエル以外の家族が私のことをどう受け入れてくれるのかということも気になっていたのだ。

結婚後は義父母が主にシープシャーの館住み、サミュエルとスーザンが王都の屋敷に住むことになった。
サミュエルの妹のアンジェリカは17の歳に結婚しており、弟ダニエルは入隊し今は地方に配属されている。

私は館で生活する際のサミュエルとの距離をどうするかをまずは考えなくてはいけないと思っていた。
結婚式は王都で開かれたため、1週間ほどは義父母も王都の屋敷で生活することになっている。
義父母と一緒だったのでサミュエルとは表面上夫婦っぽく過ごすことになった。

結婚式の翌朝、サミュエルと朝食の席で一緒になった。勿論、義父母も一緒である。しかし、結婚式の時とは違いサミュエルは私へのことが嫌いだという事を隠そうとはしなかった。
義父母はあまりサミュエルの感情の機微に聡くないのか、冷たいサミュエルの様子を気にする事なくスーザンと三人で和やかな雰囲気にはなった。しかし、スーザンは一見何も考えていないように見えるサミュエルの心のうちがありありと見えてしまい、義父母がシープシャーの屋敷に戻ったら絶対に朝食は一緒に取らないと心に誓った。

結婚後は結婚休暇を取る人も多いが、サミュエルは全く休暇を取らなかった。
サミュエルは結婚後すぐだと言うのにいつも通りすごした。朝食後に出掛けて、帰ってきたのは日付が変わろうかという時間だった。
私は義父母の手前先に寝るわけにもいかず、サミュエルを玄関で出迎えた。
その時もサミュエルは迷惑そうな顔をしていた。

これでは早急に手を打っておかないとサミュエルが別に屋敷を買って出て行ってしまったり、会社に寝泊まりして家に帰って来なくる可能性を感じた。

それは嫌だ。全くあえなくなってしまったのでは仮面夫婦ですらない。

そこでその日の夜、思い切ってサミュエルの部屋を訪ねてみることにした。
夫婦の寝室の間にあるドアをノックすると向こうから声がして入室を許可された。

サミュエルはさっそく寝ようとしているところのようだった。

彼とこうやって面と向かって話すのはお見合いの時以来である。

「こんな夜中にどうされましたか?」

お互い白い結婚だと納得しての結婚のため甘い雰囲気には全くならなかった。

「今後のことについて話をしたいと思いまして」

「今後のこと?」

「はい。私たちは白い結婚だということで結婚しました。でも、同じ家で過ごしているとどうしても今朝のように顔を合わせてしまいますでしょう?」

「まぁそうですね」

「今のように私たち以外の方が屋敷に滞在している時は一緒に食事を取りましょう。夫婦らしくしていないとバレてしまいますし。でも二人だけの時は私は自室に朝食を運んでもらうことにします。サミュエル様はダイニングでいつものようにお召し上がりください」

「・・・」

「今朝の様子を見て、サミュエル様がわたくしと一緒に食事をするのを不快に思っていらっしゃることは分かっております。わたくしもサミュエル様が不快に思っていらっしゃるのがわかっていながらいたたまれない気持ちで朝食を食べるつもりはございません。朝から不快な思いはしない方がお互い素敵な一日が過ごせますわ」

「そんなに態度に出てしまっていたかな?一応気をつけていたつもりだったのだが」

「お義父さまやお義母さまは気付いていらっしゃらなかったようですけれど、ベーコンを切るときのナイフの音が不機嫌だとおっしゃってましたわ。それとも、わたくしの勘違いでしたでしょうか?」

サミュエルは驚いたような顔をした後ニヤっと笑って言った。

「申し訳ないことに、勘違いではない」

私は精一杯微笑んで言った。

「謝っていただく必要はございません。サミュエル様が私のことをキライだと思っていらっしゃることくらい初めてお会いした時から気付いておりましてよ?白い結婚をするけれど、もしかしてサミュエル様がわたくしに少しでも情をくださるかも、なんて期待しておりませんわ。ですので二人の時はサミュエル様にとって無理のない距離感で過ごすことが大切だと思いましたの。無理をして疲れて会社に寝泊まりされたのではまた外野がうるさくなりましてよ?外野を黙らせるために結婚されたのにそれでは本末転倒ですわ。ですので外には仲のいい夫婦であると思わせておく必要があると思いますの」

サミュエルは少し考えている様子だった。
どうやら義父母がシープシャーに帰った後は会社に寝泊まりをしようと考えていたようだ。

「頭が回るとは聞いていたが予想以上に頭の回転が良いのだな。なるほど、それで今後の二人の距離感について話したいと言うことか」

「はい。朝食だけでなく食事は基本バラバラでよろしいでしょうか」

「もちろん」

「うちの屋敷で晩餐や舞踏会を開催する予定はありまして?」

「舞踏会はないだろうが晩餐会はあるかもしれない」

「では、夜のご帰宅時にお出迎えすることだけはお許しください。晩餐会の際に不自然になっては困りますし、サミュエル様の仕事柄、飛び入りでお客様を招かれることもありましょう?その時に妻の出迎えが無いのでは要らぬ想像をされてしまいます」

サミュエルはまた少し考えているようだった。

「玄関でお出迎えするだけ、ほんの数十秒ですわ。他の奥様方のように部屋まで付いていくなんて無粋な真似いたしませんわ」

「わかった」

「あと、他家の晩餐会や舞踏会に参加する時は仲良し夫婦のふりをすると言うことで良いですか?」

「問題ない」

「どの晩餐会や舞踏会に夫婦で参加するかはサミュエル様が選び秘書のゲーブル経由でお伝え下さい」

「わかった」

「屋敷の人間には我々の関係についてうかつに口外しないように私の方から話しておきます。それでよろしくって?」

「問題ない」

「私からは以上です。サミュエル様から何かおっしゃりたいことはございますか?」

「特にない」

「かしこまりました。ではお義父さまお義母さまがシープシャーに帰られるまでは不本意でしょうが仲良し夫婦のふりをよろしくお願いします」

「あぁ」

「それではお休みなさい。良い夢を」

そう言いながら私は踵を返した。

「君も良い夢を」

サミュエルにそう言われて驚いて振り向いてしまった。まさかサミュエルにそんな一言を言われるとは。

社交辞令だと分かっていてもサミュエルに『君も良い夢を』なんて言われると天にも登る気持ちになった。なんて短絡的なのかと思うけれど幸せな気持ちでベッドに包まれた。


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