【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

文字の大きさ
上 下
13 / 23

13.

しおりを挟む
二人が結婚したのはサミュエル23歳、スーザン21歳の春だった。
ジェレミーとの結婚式ほどではないにせよ、多くの人に祝福され賑やかな結婚式となった。

結婚式でのサミュエルは素敵だった。サミュエルは身長が高く体格が良いためどんな服装でも似合う上に演技だとは言え結婚式と披露宴の間はスーザンにずっと優しくしてくれた。

この思い出だけでどれだけ辛い結婚生活も頑張れると思った。もしかすると舞踏会や晩餐会に夫婦で参加する時にはいつもサミュエルはこんな感じなのかもしれない。

そう考えると白い結婚くらいなんて事ないと思った。

また、ハロー家の面々が私に好意的だったのも嬉しかった。
今回の結婚は身分差を超えて貴族を金で買うような結婚であり、私は死別とは言え一度結婚の経験がある。サミュエル以外の家族が私のことをどう受け入れてくれるのかということも気になっていたのだ。

結婚後は義父母が主にシープシャーの館住み、サミュエルとスーザンが王都の屋敷に住むことになった。
サミュエルの妹のアンジェリカは17の歳に結婚しており、弟ダニエルは入隊し今は地方に配属されている。

私は館で生活する際のサミュエルとの距離をどうするかをまずは考えなくてはいけないと思っていた。
結婚式は王都で開かれたため、1週間ほどは義父母も王都の屋敷で生活することになっている。
義父母と一緒だったのでサミュエルとは表面上夫婦っぽく過ごすことになった。

結婚式の翌朝、サミュエルと朝食の席で一緒になった。勿論、義父母も一緒である。しかし、結婚式の時とは違いサミュエルは私へのことが嫌いだという事を隠そうとはしなかった。
義父母はあまりサミュエルの感情の機微に聡くないのか、冷たいサミュエルの様子を気にする事なくスーザンと三人で和やかな雰囲気にはなった。しかし、スーザンは一見何も考えていないように見えるサミュエルの心のうちがありありと見えてしまい、義父母がシープシャーの屋敷に戻ったら絶対に朝食は一緒に取らないと心に誓った。

結婚後は結婚休暇を取る人も多いが、サミュエルは全く休暇を取らなかった。
サミュエルは結婚後すぐだと言うのにいつも通りすごした。朝食後に出掛けて、帰ってきたのは日付が変わろうかという時間だった。
私は義父母の手前先に寝るわけにもいかず、サミュエルを玄関で出迎えた。
その時もサミュエルは迷惑そうな顔をしていた。

これでは早急に手を打っておかないとサミュエルが別に屋敷を買って出て行ってしまったり、会社に寝泊まりして家に帰って来なくる可能性を感じた。

それは嫌だ。全くあえなくなってしまったのでは仮面夫婦ですらない。

そこでその日の夜、思い切ってサミュエルの部屋を訪ねてみることにした。
夫婦の寝室の間にあるドアをノックすると向こうから声がして入室を許可された。

サミュエルはさっそく寝ようとしているところのようだった。

彼とこうやって面と向かって話すのはお見合いの時以来である。

「こんな夜中にどうされましたか?」

お互い白い結婚だと納得しての結婚のため甘い雰囲気には全くならなかった。

「今後のことについて話をしたいと思いまして」

「今後のこと?」

「はい。私たちは白い結婚だということで結婚しました。でも、同じ家で過ごしているとどうしても今朝のように顔を合わせてしまいますでしょう?」

「まぁそうですね」

「今のように私たち以外の方が屋敷に滞在している時は一緒に食事を取りましょう。夫婦らしくしていないとバレてしまいますし。でも二人だけの時は私は自室に朝食を運んでもらうことにします。サミュエル様はダイニングでいつものようにお召し上がりください」

「・・・」

「今朝の様子を見て、サミュエル様がわたくしと一緒に食事をするのを不快に思っていらっしゃることは分かっております。わたくしもサミュエル様が不快に思っていらっしゃるのがわかっていながらいたたまれない気持ちで朝食を食べるつもりはございません。朝から不快な思いはしない方がお互い素敵な一日が過ごせますわ」

「そんなに態度に出てしまっていたかな?一応気をつけていたつもりだったのだが」

「お義父さまやお義母さまは気付いていらっしゃらなかったようですけれど、ベーコンを切るときのナイフの音が不機嫌だとおっしゃってましたわ。それとも、わたくしの勘違いでしたでしょうか?」

サミュエルは驚いたような顔をした後ニヤっと笑って言った。

「申し訳ないことに、勘違いではない」

私は精一杯微笑んで言った。

「謝っていただく必要はございません。サミュエル様が私のことをキライだと思っていらっしゃることくらい初めてお会いした時から気付いておりましてよ?白い結婚をするけれど、もしかしてサミュエル様がわたくしに少しでも情をくださるかも、なんて期待しておりませんわ。ですので二人の時はサミュエル様にとって無理のない距離感で過ごすことが大切だと思いましたの。無理をして疲れて会社に寝泊まりされたのではまた外野がうるさくなりましてよ?外野を黙らせるために結婚されたのにそれでは本末転倒ですわ。ですので外には仲のいい夫婦であると思わせておく必要があると思いますの」

サミュエルは少し考えている様子だった。
どうやら義父母がシープシャーに帰った後は会社に寝泊まりをしようと考えていたようだ。

「頭が回るとは聞いていたが予想以上に頭の回転が良いのだな。なるほど、それで今後の二人の距離感について話したいと言うことか」

「はい。朝食だけでなく食事は基本バラバラでよろしいでしょうか」

「もちろん」

「うちの屋敷で晩餐や舞踏会を開催する予定はありまして?」

「舞踏会はないだろうが晩餐会はあるかもしれない」

「では、夜のご帰宅時にお出迎えすることだけはお許しください。晩餐会の際に不自然になっては困りますし、サミュエル様の仕事柄、飛び入りでお客様を招かれることもありましょう?その時に妻の出迎えが無いのでは要らぬ想像をされてしまいます」

サミュエルはまた少し考えているようだった。

「玄関でお出迎えするだけ、ほんの数十秒ですわ。他の奥様方のように部屋まで付いていくなんて無粋な真似いたしませんわ」

「わかった」

「あと、他家の晩餐会や舞踏会に参加する時は仲良し夫婦のふりをすると言うことで良いですか?」

「問題ない」

「どの晩餐会や舞踏会に夫婦で参加するかはサミュエル様が選び秘書のゲーブル経由でお伝え下さい」

「わかった」

「屋敷の人間には我々の関係についてうかつに口外しないように私の方から話しておきます。それでよろしくって?」

「問題ない」

「私からは以上です。サミュエル様から何かおっしゃりたいことはございますか?」

「特にない」

「かしこまりました。ではお義父さまお義母さまがシープシャーに帰られるまでは不本意でしょうが仲良し夫婦のふりをよろしくお願いします」

「あぁ」

「それではお休みなさい。良い夢を」

そう言いながら私は踵を返した。

「君も良い夢を」

サミュエルにそう言われて驚いて振り向いてしまった。まさかサミュエルにそんな一言を言われるとは。

社交辞令だと分かっていてもサミュエルに『君も良い夢を』なんて言われると天にも登る気持ちになった。なんて短絡的なのかと思うけれど幸せな気持ちでベッドに包まれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

旦那様はとても一途です。

りつ
恋愛
 私ではなくて、他のご令嬢にね。 ※「小説家になろう」にも掲載しています

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...